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仔龍の轍  作者: ぱんつ犬の飼い主
第一章 守護の騎士
24/33

飛竜、襲来

「一体どうゆう事なのよ?」


森の木々の合間を縫うように駆ける俺。それに追随してきたフレイアが口を開いた。

だが、正直何を聞かれているのか分からず首を捻る。


「君が向かってる方向の事よ!」


フレイアが焦ったそうに若干声を荒げて言う。


何か怒ってるけど、貴女の説明不足のせいですからね。


「それがなんだよ?」

「それがって……(とぼ)けないでよ!」


いやだからマジで何の事?

フレイアが何を聞きたいのか全く分からないし、惚けているつもりもないのだが。


「何で!私が感知した妙な反応に向かって君が一直線に走ってるのかって事よ!」


ああ、その事か。

いや待てよ?


「フレイア、もしかしてお前、魔力探知使えるのか?」


彼女の言葉の中に引っかかりを覚えた俺は聞いてみる。

すると、フレイアは目を丸くして驚いた。


「えっ?使えるけど……もしかして、君も使えるの?」

「ああ、まぁな。俺としてはむしろフレイアが使えた事に驚きなんだが。この魔法、と言うか技術は母さんが編み出したもので、誰かに伝えた事はないって言ってたが……」

「そうなの?君のお母さんすごいのねえ。あ、私は師匠から教わったんだ。師匠は色々と常識外れな人だったけど……世の中には似たような考えの人がいるものなのね」


どこかしみじみと言うフレイアを尻目に、俺はその『師匠』なる人物に驚嘆していた。

もしかしたら母さんの他にも同じような事を思いつく者はいるんじゃないかとは考えていたが、いざそんな人物の存在を示唆されると、正直感服する他ない。

母さんの知識はとても深く広いが、それは龍と言う種に生まれ何千年の時をかけた中で自らが経験し蓄えたものであって、人の常識の尺度で測れるものではない。

しかし、恐らく人間であるフレイアの師匠は百年にも満たないであろう制限された生の中で、ほんの一端とは言え母さんと同じ境地に至った事は、素直に賞賛されるべきであると思う。

母さんから聞いた事によると、今この世界の魔術師達は先人達が切り拓いた技術の上に胡座をかいている状態なんだそうだ。

書物に残っているものや教えられた事だけをその全てとみなして満足する。自ら視界を狭め深く探究しようとしない。

数百年前までは皆血眼になって魔法の研究をし、技術を推進させ時代を動かしてきたというのに。今では彼らのような人種はほんの一握り、学術都市の研究者達くらいしかいないそうだ。

そんな惰性とも言うべき時代の中で、新たに革新的な技術を生み出したフレイアの師匠殿は、本当に素晴らしい人物なんだろう。


少なくとも、俺はそう思う。


それはともかく。


「お前が言うように俺の探知圏内にも反応があったんでな。妹達を連れてさっさとアレから逃げようと思ってる」

「何か知ってるの?」


眉を寄せるフレイアをちらりと見やる。


「まあ少しだけ。アレは正直やばいから関わらない方がいいぞ」

「私は勇者よ。そんなにやばいやつなら放っておくわけにゃいかんでしょう」

「……大変な仕事だな」


俺はそう言うと会話を打ち切り、前方に意識を向ける。


クロナ達の魔力を近くに感じる。

その側には、割と大きめな魔物の反応。これがさっきのイケメン騎士達が言っていたやつだろう。

これくらいならクロナとローザだけでも問題はない。


ん?

クロナとローザ、それと魔物の他にもう二人人間らしき反応がある。

これはフレイアの仲間だろうか。

ニュースに映っていた神官と少女かもしれない。


その時、急激な冷気が俺を襲う。


「寒っ!?」


ちらりと視線を周りに向けると、初夏の木々の葉に霜が降りているのが見える。

そのあまりの寒さに、フレイアも飛び上がり肩を震わせた。


これは……ローザの『凍結化(フリージング)』か?

一体何故?


まあいい。

もう着く。


視界が一瞬にして開ける。


轟々と音を立てる滝。

滝壺から上がる白煙は、見るだけで涼やかな気分になる。

ゴツゴツとした岩壁には、逞しくも数本の木が生えている。

風情や何やらに詳しくない俺でも、綺麗だと思わず呟いてしまうような情景。


そのその荘厳な景色が目に入ったのは刹那の時。

次の瞬間には、(まばゆ)い緋色と空色の光が視界を覆う。


「「『二属性砲(デュアル・カノン)』!!」」


聞き慣れた二人の少女の張りのある声と共に放たれる膨大な魔力の奔流。


轟音。


巨大な雷が落ちたかのような腹に響く轟音ば大地を震わせた。


「きゃっ!?」


反射的に前方に重力魔法を使い、自身とフレイアに襲いかかってくる突風と瓦礫を叩き落とす。


やがて、もうもうと立ち込めた土煙も収まり、先ほどまでとは似ても似つかぬ、変わり果てた情景が目に入った。


轟音と共に水を落としていた滝は滝壺ごと抉られ、岩壁まで崩れもはや見る影もない。

跡に残るのは魔法の余波によって凍りついた草木や、揺らめく炎のみ。


そして、こちらに背を向けて立つ二人の赤髪の少女。


二人は目の前の惨状を見て、片方は満足そうに笑みを浮かべ、もう片方はやや疲れたような顔をしている。

魔物が見当たらない事から、二人がその魔物を消し飛ばした事が窺える。


二人が使ったのは『二属性砲(デュアル・カノン)』と言う魔法。

この魔法は、異なる二つの属性の魔力を無理やり合成し、その負荷から発生するエネルギーを前方に向けて放出する上級魔法。

この時、合わせる属性が炎と氷、光と闇のように、自然では本来交わる事がないようなものであれば、その威力は飛躍的に増大する。

もちろん、その分扱いも難しい。二種類の魔力を均等にしなければならず、その上それによって生じるエネルギーを前方のみに絞って放出するための補正もかけなければならない。

この片方どちらかでもミスをすれば、途端に魔力が暴走し、大規模な魔力爆発を起こしてしまう。無論、使用した術者もただでは済まない。


この魔法は、俺が昔「かっこよさそうだから」と言う安直な理由で二つの魔力を合体させて盛大な花火を地上に咲かせた事が始まりだった。

真っ青になった母さんに散々怒られながらも、日々調整、実践し、何とか『魔法』として完成させる事ができた。


威力は見ての通り。

俺が初めて開発した傑作魔法である。


そして、この魔法を使えるのは俺と、そしてその家族のみ。


俺は隣で魂が抜けたように(ほう)けているフレイアを置いて、二人に声を掛ける。


「クロナ、ローザ、お疲れ様」


俺の簡単な労いの言葉に、二人は弾かれたように振り返った。

ローザは、花が咲いたようにぱあっと笑みを浮かべ、クロナは表情に疲労を滲ませながらも笑み向けてきた。

そして、そのままぱたぱたと駆け寄ってくる。


「にいさま!どうしてこちらに」

「おにーちゃん、つかれたー」


クロナは本当に疲れているようで、そのままの勢いで俺に抱きついてくる。

ローザはそれをどこかバツが悪そうに見ている。


「ああ、ちょっと緊急事態でな」

「緊急事態?」


ローザが可愛らしく首を傾げる。


萌え死ぬ……っと、今はそんな事を考えている場合ではない。


「ああ。戦闘に夢中で魔力探知を切っていたのか?ちょっとやばいのが近付いてきてて……っと」


俺は苦々しい気持ちで、青空を見上げた。

釣られてローザ達も空を仰ぐ。


「間に合わなかったか」


蒼穹に浮かぶのは昼の眩しい太陽、まばらな白い雲。そして、黒い影。


俺は息を吸い込み、叫ぶ。


「全力で障壁を張れ!!」


突然の大声に、クロナ、ローザ、そしてフレイアと彼女に駆け寄っていた神官と少女がギョッとしたように俺を見る。

フレイアは疑問を呈しようとしたが、急接近していた異質な魔力反応、そして急激な魔力の集束にハッと顔を強張らせる。

そして少女を振り返り、怒鳴るように叫ぶ。


「フィリア!『光輝の壁(レイディアント・ウォール)』!全力で、急いで!』


フィリアと呼ばれた少女は目を白黒させていたが、フレイアの剣幕に鬼気迫るものを感じたのかすぐに光の障壁魔法を発動させた。

無詠唱で。

一見、気の弱そうな娘に見えたが、実力はちゃんと備えているようだ。


次いで、フレイア、ローザ、俺と続く。


クロナと、あの神官は障壁魔法は使えないようだ。


フレイアとフィリアの発動させた白光を放つ障壁が二重に重なるように出現し、それに加えて更にローザの発動させた六角形の鏡のような氷壁が重なる。最後に、俺が発動させた雷光の檻がそれらを囲んだ。

合わせて四重の防壁は、夥しい量の魔力が集まる先、空に向けて構えられた。


空に浮かんだ影から、黒い光が瞬く。


次の瞬間、視界は真っ黒に染まった。


「ぐっ」

「きゃっ!な…何これ」

「お、重……」

「厳しい、ですね」


一瞬にして押し寄せた魔力の濁流に、それぞれ苦悶の声を上げる。

闇魔法より、なお冥く、ずっと悍しい魔力。

初めて肌で感じるソレに、ぞわぞわと鳥肌が立つ。


何も知らないフレイア達は、普通ではない異様な魔力に驚愕している。


それと同時に、途轍もない重圧に障壁が軋む。


ここにいるのは魔王を打倒すべく選ばれた勇者とその仲間、そして子供とはいえ龍が二頭。

並みの魔法ではまず破られないであろう強力な障壁は、歪み、(たわ)み、悲鳴を上げる。


やがて、数十秒間流れ続けた魔力の濁流は収まった。

結果として、俺とローザの障壁は破られた。

最後まで残っていたフレイアとフィリアの障壁も、無数の亀裂が走っていて、役目を終えたようにガラスを割るような甲高い破砕音と共に砕け散った。


そして。


「うそ……」


茫然と呟くフィリア。


今、俺達の目の前に広がっていた初夏の若々しい森は、消え去っていた。

木々は葉を落とし急激に痩せ細り、僅かに流れていた川の水も淀んでしまった。

障壁で守られていた俺達の周り以外の生命が、全て死に絶えた。


辺り一面が、灰色の大地へと変貌していた。


あまりの衝撃に言葉をなくし立ち尽くす俺達。

そこに、ふと影が差した。


ばさりばさりと羽ばたきながら悠然と飛来したソレを、俺は苦り切った表情で見上げる。


「来やがったか。まさか、ここまでとはな」


爛々と光る血のように赤い双眸が俺達を睥睨する。


ずずん、と僅かな地響きを立てて降り立ったソレは──、


飛竜(ワイバーン)、なの……?」

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