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仔龍の轍  作者: ぱんつ犬の飼い主
第一章 守護の騎士
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嵐のような

しばらく森の中を走っていると、滝壺への正規ルートらしき道を発見した。


道と言ってもただ踏みならしただけの獣道、と言った方が正しいか。この辺りは今回の釣り大会が行われるまでほぼ近隣の村の人間しか立ち入っていない。釣り大会は急遽開催が決定されたものらしいし、時間的にも金銭的にも道の舗装は不可能だったのだろう。


さて、そんなことよりも、だ。


その正規ルートで、下流に向かって下りてくる一団を発見した。

遠目に見ただけでも、五人以上はいるだろうか。怪我でもしているのか仲間に背負われた者も見える。


俺は森を一直線に突っ切るルートからやや外れ、茂みの中から彼らの前に飛び出した。


「うおっ!?」

「っ!?」


先頭にいたのは二人の男だった。


片方の小汚らしい感じの如何にも傭兵といったスキンヘッドの男。彼は背中に一人仲間らしき人物を背負っていて、驚きながらもすぐに動けるように身構えている。


もう片方は騎士らしき青年。

彼はもともと周囲を警戒していたのか、突然現れた俺に動揺する事なく隙なく剣を向けている。

緩くウェーブ掛かった金髪を肩まで伸ばし、その面立ちは整っていて、煌めく碧眼といい白銀の鎧といい、正直「こんなとこで何してんの?」と聞きたくなるほど場に合っていない。


隣に小汚いスキンヘッドがいるから尚更彼のイケメンさが引き立って見える。


……狙ってやっているんだろうか?


いや、今はそんな事はどうでもいい。


茂みから飛び出してきた俺が一見ただの子供に見えたのか、金髪の騎士はすぐに剣を下ろした。


「すまない、突然現れたものだから、驚いて剣を向けてしまった。申し訳ない」


ぺこりと一礼するイケメン騎士。

金髪が陽の光を受けてキラキラと輝いている。……いや、輝いているのは彼自身だろうか。


「おう、坊主。この辺は危ねぇからさっさと逃げた方がいいぜ。滝の方になかなかやばい魔物がいる」


スキンヘッドの男がずいと前に出て忠告してくれる。

汚い……じゃなくて、彼の背負っている人物に目を向ける。

イケメン騎士の仲間だろうか、彼と同じく背負われている青年もかなりの美男子だ。


俺の視線に気付いたのか、イケメン騎士が苦々しく表情を歪める。


「彼らは僕の仲間なんだが、魔物にやられてしまってね。偶然居合わせたお嬢さんに治癒魔法を掛けてもらったから、傷は塞がったんだが、まだ意識が戻らないんだ」


なるほど、だから彼らを背負っているのか。

彼らを背負っている二人はスキンヘッドの仲間だろうか。小汚い。


傭兵三人組が傷付いた三人のイケメン騎士達を運び、金髪の騎士が周囲の警戒の役割か。だからさっき俺が飛び出してきた時にもすぐに反応できたんだな。


それはともかく。


「ねえ、滝壺に赤髪の女の子が二人いなかった?俺の妹達なんだけど」


俺が聞くと、スキンヘッドは片眉を上げた。


「赤髪の女の子?ああ、確かにいたな。おっそろしく強い子達だったな」

「多分、てゆうか間違いなくそうだ。二人は今も滝壺に?」

「ああ。俺らの実力よりもあの子らの方が強え。自分から突っ込んでいっちまった。大人として情けねぇ限りだが、この騎士達の事もあったんでな……すまねぇ」


クロナとローザに任せてきた、か。


兄としてはこの男達を今すぐ血祭りに上げてやりたいところだが、クロナ達の実力ならば確かに問題はないだろうし、スキンヘッドにしろイケメン騎士にしろ、苦虫を噛み潰したような顔をしている。彼らとしても本意ではないのだろう。何も考えずに逃げてきたわけじゃなく、冷静に状況を判断しての結果として撤退を選んだのだろう。


それならば俺としては文句を言うつもりはない。実際、その判断は正しいしな。


まあ、それでも殺意が湧かないこともないが。


「情報ありがとう。気を付けて帰ってくれ」


俺が再び走り出そうとすると、スキンヘッドが慌てて俺の肩を掴んだ。


「おいおい、どこ行くんだよ。滝壺には魔物が……って、あの嬢ちゃん達の兄貴って事は……」


反射的に俺を引きとめようとしたらしいスキンヘッドだったが、途中で何かに気付いたのか、苦笑いを浮かべた。

俺は不敵にニヤリと笑って見せる。


「兄として、妹達に負けた事は一度も無いな」


何とも微妙な顔をする傭兵達とイケメン騎士。

そりゃそうだ。

長く研鑽を積んで今の強さを得たのに、自分を上回るちびっ子がホイホイ出てきたら、さぞや複雑な気持ちになるだろう。


「まあ、実力的には問題なさそうだが……気を付けろよ」

「ああ、ありがとう」


それでも年長者らしく気遣いの言葉を掛けてくるスキンヘッドに向かって微笑む。

そして、今度こそ走り出そうとするが──、


「ちょっとーー!待ちなさいよーーー!!」


凛と響く、それでいてどこか気の抜けるような女声が森に木霊する。

次の瞬間、森の茂みから先ほどの俺のように飛び出してくる人物。

俺は振り返り、その人物に目を向ける。


「どうした、フレイア」

「どうした、じゃないわよ!!」


木の枝を髪に引っ掛け、荒い息を吐いている人物──女勇者フレイアは、俺を指差して声を張り上げる。


「いきなり釣り竿ほっぽって駆け出したと思ったら、何なのよ君のその速さ!勇者(わたし)が追い付けないって、どんだけよ!!」

「すばしっこさには自信があるんだ」

「そうゆうレベルじゃないわよ!」


素っ気なく返す俺に、フレイアは頭を抱えうがーっと天を仰ぐ。


「お、おい……」


突然のフレイアの出現に半ば呆然としていたスキンヘッドが俺、ではなくフレイアに目を向けて、恐る恐る、と言った風に口を開く。


「アンタ……もしかして、勇者様か?」

「ええ、そうだけど?」


フレイアが頷くと、スキンヘッドだけでなく、その仲間達とイケメン騎士も驚いたように目を見開く。

まあ、こんなところに勇者に会うなんて思わないだろうな。

話としては、街中で有名な芸能人と遭遇したのと同じ感じだろうか。


「勇者様がいると言う事は、あの巻き毛の少女は聖女様だったのか……」

「マジか!サインして貰えば良かった……」

「握手して欲しかった……」


イケメン騎士の発した『聖女』と言う単語に過敏に反応するスキンヘッドの仲間達。

聖女って、やっぱりいるんだな……。


あ。


「急がなきゃ!」


忘れていた。

妙な感慨に浸っている場合ではない。急いでクロナ達の元に向かわなければ。


「あ!ちょっと待ちなさいよ!まだ聞きたい事あるんだからねー!!」


俺が再び走り出すと、慌ててフレイアも追いかけてくる。

聞きたい事って何だろう?

まあ、走りながらでいいか。


今は一秒でも早く、クロナ達を逃がさなければ。もう、アレはさっきよりもずっと近づいてきている。


「待ちなさいってばー!!」


尚も叫ぶフレイア。

聞きたい事だか何だか知らないが、それどころじゃないんだ。




◆◇◆◇◆



突然やってきて、凄まじい速度で遠ざかっていく。

嵐のような二人に、その場の全員がぽかーんとしていた。


「……何だったんだ?」

「さあ?」



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