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仔龍の轍  作者: ぱんつ犬の飼い主
第一章 プロローグ
2/33

自然の摂理に抗って

さて、斯くして俺は転生してドラゴンになった訳だが……。


……ん?

もう現状を受け入れたのかって?


いやぁ、ハッハッハ。





考える事を放棄したんだよ。


正直、いくら考えたところでどうしようも無さそうだし、さっきから隣りのやつがうるさぐへっ!

か、顔を蹴るな……やめろ!やめろって!

「みゃあー!」


全く覇気の無い威嚇だったが、どうやら意図は伝わったらしく、隣りの赤ちゃんドラゴンは「みゅ……」と小さく鳴いて大人しくなった。


何だその鳴き声は。まるで俺がいじめてるみたいじゃないか。……おい、その顔をやめろ!悪かった、俺が悪かったから!


何故かもう片方の赤ちゃんドラゴンの視線が冷たい気がする。目は開いてない筈なのに……。理不尽だ!俺は悪くない!


なんて心の中で叫んでも、誰にも聞こえる筈もなく、しばらくしてまた復活した赤ちゃんドラゴンその一と何度か取っ組み合いをして、その度に赤ちゃんドラゴンその二に冷たい視線(?)を向けられた。


親らしき巨大なドラゴンは、姿勢を崩して俺達のそんな様子を愛おしげに眺めていた。


この時、俺は自分の心境に(かす)かな違和感を感じていた。

さっきから取っ組み合いを続けながら、この赤ちゃんドラゴン達に対して、何か……妙な感情を感じるような気がするのだ。

これは……家族愛、だろうか。

少し違う気がする。

何と言うか、ほっとけないと言うか、こう、無性に世話を焼きたくなると言うか……。


よく分からないが、これは兄妹愛と言う感情なのだろうか。

俺の意識が復活した時……俺が生まれた時に一緒にいたのだから、この二人(・・)は俺の兄妹なのだろう。……姉かも知れないが。

……いや!この子達は俺の妹だ!多分!


え?

何で性別が分かったのかって?


……何でだろ。

何となく……としか言いようが無いな。

二人共見た目はほとんど同じなのに……やっぱりドラゴンになったから、ドラゴンの感覚が身に付いたのかな?


……まあ、深く考えても仕方がないし、そうゆう事にしておこう。


それにしても、転生前……人間だった頃は一人っ子だったから分からなかったけど……妹がいるって、こんな感覚なのかな……。

まあ、個人差はあるかもしれないけれど。


何と言うか……こう、





可愛いなぁ……。


デヘヘ。


……おっと、危ない危ない。

あんまりに可愛い過ぎてつい見惚(みと)れてしまったぜ……。


大丈夫か、俺。


と、その時。


『ふふふ、三人共、元気いっぱいね』


頭上から、声が降ってきた。

俺は弾かれたように顔を上げる。


するとそこには……と言うより、当然の如くずっとニコニコしていた(俺の主観)親ドラゴンがいた。


……え?喋るの?


まず一番最初にその疑問が立った。

そして、それを皮切りにして次から次へと疑問が溢れる。

何故俺は親ドラゴンの言葉を理解できた?発音とか単語とかから、絶対に日本語ではないのに。

親ドラゴンは、口を開かずに、直接俺の頭に語りかける様にして話した。これは何だ?

他にも……。


一瞬で大量の疑問を量産した俺が考えて分かったことは一つ。


親ドラゴンは、母ドラゴンだったのか……。


驚愕(?)の事実に驚く俺に構わず、母ドラゴンは更に頭に響く声で続けた。


『これからお母さんはごはんを()りに行ってくるわ。すぐに帰って来るから、三人共、仲良くしててね』


え、“取り”に?

何かニュアンスが違ったような……。


『行ってきます。可愛い私の天使達』


言うが早いか、母ドラゴンは巨大な翼を広げ、岩棚から飛び降りた。

兄妹のうち、唯一薄っすらと目を開けていた俺はその光景を目の当たりにして、悲鳴を上げかけた。

しかし、俺が悲鳴を上げるよりも早くに、ぐぉぉん!と言う力強い音と共に、岩棚の下から母ドラゴンが舞い上がった。巨大な翼で空気を掴み、その巨躯で宙を駆る姿に、俺は安堵と共にその姿に釘付けになった。

生まれて初めて見る龍の飛翔は、とても力強く、それでいて、目を奪われる程美しかった。


母ドラゴンは何度も羽ばたきながら、火口の広い空間内をぐるりと旋回し、勢いを付けてから、最後に力強く羽ばたいて火口から飛び出して行った。


俺はしばらく呆然としながら、母ドラゴンの出て行った頭上の穴を眺めていた。

人間だった頃、テレビのスペシャルで、世界の絶景なんかを特集しているのを観た事があった。南の透き通ったエメラルドグリーンの海や、北極のオーロラ、巨大な滝が流れ落ちているのを観て、俺は綺麗だなと思っていた。

しかし、母ドラゴンはそんなものの比ではなかった。

あのはためく翼、うねる長い尻尾、隆起する筋肉(仮にも“女性”相手に筋肉はどうかと思うが)。母ドラゴンの飛翔する姿の全てが、俺を惹き付けて止まなかった。


端的に言うと、憧れた。

自分だってもうドラゴンなんだ。

いつか、俺もあんな風に……!


長らく忘れていた純粋な憧憬が、俺の中で静かに燃え始めた瞬間だった。



◆◇◆◇◆



あの後、母ドラゴンがいない事に気付いた妹ドラゴン達が泣き喚いて、それを宥めるのは大変だった。

母ドラゴンがいなくなって不安だって事は分かったので、殴られても蹴られても、必死に我慢して宥め続けて一時間。


母ドラゴンの羽ばたく音が聞こえてきた時には、あまりの疲労にその場で倒れ伏してしまった。


そのお蔭で帰って来たばかりの母ドラゴンを酷く慌てさせたのはご愛嬌。


さて、母ドラゴン……何か言いづらいな……。もう“母さん”でいいか。


話を戻して、母さんが取って来た……もとい、“獲”って来たごはんは…………っとぉ、やっぱりそうかぁ。


そうだよなぁ、普通。


母さんが獲って来たのは、一頭の“羊”。もう、まるまる一匹。


母さんが帰って来て安心して大人しかった妹達が、羊の臭いに気付いたのか、急にまた騒ぎ出した。しかも今度は今まで比較的大人しかった方までである。


どんだけお腹空いてたんだよ……。

まあ、俺も人の事は言えないんだけどさ……。ふー、お腹空いたなぁぁぁあああ⁉︎


母さんは突然尻尾を揺らしたかと思うと、まだ若干息が残っていた羊に、尻尾をズドンと振り下ろしてトドメを刺した。


噴き上がる血飛沫(ちしぶき)。転がる羊の首。


あっ、ちょっ、俺そうゆうの無理なん……。


青ざめる俺に構わず羊を解体していく母さん。羊を吊り上げて血を抜いた後、鋭い爪で皮を剥いでいく。


突然のスプラッタな光景に、俺の顔色は青を通り越して真っ白になってしまう。


しかし、俺はその解体作業から目が離せなかった。と言うか、(よだれ)が止まらない。


マジか俺。


どうやらドラゴンになって食の好みまで変わってしまったようだ。


何とか吐きそうになる俺の人間部分を抑え、解体作業の終了を待つと、解体を終えた母さんは、肉の塊となった羊を俺達の前に置いた。


『さあ、お食べ』


よし、さあ食べよう。

そう思った時、ふと、ずっとニコニコしていた母さんの表情にどこか陰が差しているように感じた。


何だろう……?


疑問に思いつつも、そろそろ腹の虫が本格的にうるさくなって来たので、取り敢えずごはんを食べようと思い、肉に視線を移すと……。

妹達が、めっちゃがっついてた。

しかし、最初は呆れてぽかーんとしていた俺だったが、すぐにその違和感に気付いた。


がっついてるんじゃなくて、肉を奪い合っている……?


妹達は、さっきじゃれあっていたような甘噛みなどではなく、一つの肉を取り合って戦っていた。もう身体のあちこちに小さな傷ができはじめている。

生まれたばかりのドラゴンの鱗は弱いのだ。


どう見ても、本気だった。


はっとなって母さんを見上げると、母さんは妹達の戦いを、悲痛な面持ちで眺めていた。


そうか。


俺は理解した。自然界の中では、自分が生き残るため、子供同士で争う事があるとテレビで観た気がする。確か鳥とかにそんな種があったような……。


改めて争っている妹達を見る。


…………鳥?


まあいい。

俺は妹達を睨みつけた。


俺はこう見えて意外と欲張りなんだ。


俺はのっしのっしと争っている妹達に近づいて行く。そしてーー、


ゴツン!!


と、二人の頭に思いっきりゲンコツを落とした。

びっくりした二人は僅かに開いてきた両目に涙を溜めながら俺を見て、あからさまな敵意を孕んだ視線をぶつけてきた。

俺は黙って睨み返す。


襲い掛かってきたのは、予想通りと言うか、あの俺に殴る蹴るの暴行を働いた方だった。


俺は飛びかかって来る妹を焦る事なくステップで難無く躱しーー、


ゴツン!!!!


さっきよりも強めのゲンコツを落とした。


「〜〜〜〜〜!!!」


涙目の妹は、頭を押さえて(うずくま)った。

よし、取り敢えず一人。さて……。


もう一人の妹を睨みつける。

妹は最初は敵意を剥き出しにして睨み返してきたが、睨めっこの末、力量の差を悟ったのか、徐々に敵意を(しぼ)ませて最後には大人しくなった。


俺の完全勝利だ。


勝者の特権として、俺は悠々と羊肉に手をつけた。妹達は恨みがましそうな視線をぶつけて来るが、気にしない。


俺は肉に未成熟な爪を立ててーー、


三つに切り裂いた。


羊肉は予想外に柔らかく、俺の小さな爪でも、あっさり通った。もしかしたら、羊に似ているだけで違う動物なのかもしれない。異世界だし。

そして俺は、三つに切り裂いた肉のうち、二つを妹達の目の前に投げた。


キョトンとする妹達。

しばらくぽかーんとしていたが、やがて、俺と肉を見比べるように視線を動かした。

まるで「いいの?」と聞かれているようで、その仕草が妙に可愛らしかった。

俺が苦笑しながらも頷くと、二人は表情を喜色満面にして肉にがっつき始めた。三つに切り分けてもなお大きかった肉がどんどん形を変えていく。

恐ろしい速度である。


俺はそれを見て満足すると、自分の肉を食べ始めた。



◆◇◆◇◆



結局、肉は三分の一で十分だった。

俺も妹達もお腹いっぱいになって、妹達は今は身を寄せ合ってすうすうと寝息を立てている。

さっきまで本気で争っていたのが嘘みたいな仲の良さに、自然と笑顔が溢れる。


ふと、母さんを見上げると、呆気に取られた様子で固まっている。


『どうして……』


母さんの呟きが漏れる。


俺は疑惑と若干の警戒を含んだ母さんの視線をしっかり受け止め、見つめ返した。


俺は意外と欲張りだ。

だから、下らない自然の摂理に従うつもりは無いし、それによって新しくできた家族を失うのは絶対に嫌だった。

家族同士で殺し合うなんて、そんな悲しい事は絶対に御免だった。


だから前世、人間の“理性”を持つ俺が、本能に(あらが)って、家族を、妹達を守りたかったんだ。

家族を犠牲にしてまで生きても、辛いだけだもの。


俺は、母さんに向かって拳を突き出した。




母さん、喜べ。アンタの息子は天才だぜ!




この世界が、この姿が俺の次の人生だって言うんなら、前世の記憶も、ドラゴンとしての力も使って、母さんを、妹達を守ってやろうじゃないか。


俺は、ニッと笑った。


それを見た母さんは、僅かに目を見開いて、すぐにまた、あの優しさと慈愛に満ちた目で俺を見つめた。


『ありがとう、アルバート。おやすみ』


母さんの言葉を聞いて、俺は安心して瞼を閉じ、襲い来る睡魔に身を委ねた。


こうして、俺は転生して突然立ちはだかった予想外の難関を見事に乗り越えたのだった。






そして、十年の月日が過ぎた

はい、と言う訳で開始早々第二話目にて、十年後にワープします!性急過ぎる気もしますが、まあ気にしない!

今回は個人的にかなり長くなっちゃった気がするのですが、毎回このペースは無理なので、次回からはもうちょっと短くなるかな〜と思います。

それでは!

考え無しの行き当たりばったりの旅、始まり始まり〜〜です!

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