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仔龍の轍  作者: ぱんつ犬の飼い主
第一章 守護の騎士
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魔法訓練

晴天の空の下、俺達はもはや日課と言っても過言ではなくなってきた、二対一の魔法訓練を行っていた。


場所はいつもの荒野。


もともとは少々大きめの岩がいくつか転がっているだけの、ただのだだっ広い荒野だったのだが、度重なる魔法訓練のとばっちりを受けて、いくつものクレーターが出来上がっていた。

でもまあ、それだけ大地をボロボロにした甲斐はある。


クロナ達が急速に成長し始めたのだ。


前の一件が相当(こた)えたのか、訓練の前には二人で話し合って作戦なんかを立てていたりする。

いつも何かとあれば喧嘩していたクロナとローザが肩を寄せ合って仲良く話し合いをしているのだ。


お兄ちゃんは危うく泣きそうになったぞ。


ローザはクロナのワガママに少し寛容になったし、クロナもクロナで、ローザの言う事をちゃんと聞いて、最近はあれだけ嫌がっていた座学を真面目に受け始めた。


愛する妹達の成長を間近で見られて、俺はとても幸せだ……。


なーんて、日がなずっとデレデレしながら妹達を眺めていれば、母さんにも怒られる。

母さんは「そんな余裕ぶってると、すぐに追い抜かれちゃうわよ」と、レスティから奪い取ったハタキで俺の頭をパシパシ叩いてきた。


母さん曰く、「子供の成長は恐ろしく速い」だそうだ。

俺もその「子供」の中に入っているんだが……。


俺がそう言うと、


「うっ、確かにそうだったわね……。でも、貴方は特別よ。昔っから子供らしくなくて全然手が掛からなくて……正直言うと、子供なら子供らしくもっと手を焼かせて欲しかったわ」


とため息混じりに言った。


普通手が掛からない方がいいんじゃないか、と思うのだが、少し考えると、母さんの気持ちも分からないではない気がした。


母さんにとって俺達は二千年以上待ち焦がれた待望の子供だったのだ。

その子供がめちゃくちゃ優秀で、全然手が掛からなかったら、母さんとしては肩透かしを食らったような気持ちで少し物足りなかったのかもしれない。

思い起こすと、ローザもあんまり手は掛からなかったっぽかったからな。あいつは昔から大人しいし。


……まあ、その分クロナが暴れていたが。


大分話が逸れた。


「子供の成長は速い」と言う母さんの言だが、あながち間違いでもないと俺も思う。

最近のクロナ達の成長には眼を見張るものがある。


今だって……、



◆◇◆◇◆



「行きますよ、クロナちゃん!」

「うん、おねーちゃん!」

二人は叫ぶと同時に、空に浮かぶ俺に向かって片手を掲げた。


瞬間、二人の掌から溢れ出る魔力。


俺がそれを感知するとほぼ同時に、俺の周囲でクロナ達の魔法が発動する。


空色をした無数の氷でできた水晶(クリスタル)が、俺を取り囲むようにして出現した。

その数、眼に入っただけでも軽く三十は超えている。


そして一つ一つの水晶の中には、小さな火の玉が浮かんでいる。


「「『水晶爆弾(クリスタル・ボム)』、発動!!」」


二人が叫ぶと、周りの水晶達が(まばゆ)い光を放つ。


次の瞬間。


ドドドドドドドド!!!!!


無数の水晶達が爆発した。


一つ一つの威力はそこまででもないが、これだけ数が多いと流石に苦しい。


それに……


爆風をいなした俺の頰を、何か小さな刃物のようなものが掠めて飛んでいく。

頰に感じたのは、僅かな痛み、そして冷たさ。


飛んで来たのは氷の欠片だった。


更にそれに続くように、四方八方から氷の欠片が飛んでくる。


俺は素直に感心した。


(水蒸気爆発と、氷の刃の二段構えか……。それにこの数なら、避けるのは困難だな)


俺はそんな事を考えながら、襲い来る氷の欠片を躱していく。

どうしても躱しきれないものは、手に持った剣で叩き落とした。


……ん?

剣持ってるのかって?


持ってるよ。……ってゆうか、作った。


でもまあ、俺に鍛冶スキルは無い。

これは普通の剣じゃないからな。


この右手に持った白い剣は、魔法で作られている。

雷の魔力を圧縮して固形化した。


言葉で表すと簡単だが、やってみるとめちゃくちゃ難しい。

まず、剣の大きさにするのに結構な量の魔力を消費する。

具体的な数値にすると消費MPは500強と言ったところか。剣の大きさとか強度により消費する値も変わるので、あくまで目安の値だ。

そして、剣の形に魔力を凝固させても、慣れていないと歪な形になる事が多い。

俺も最初の頃はよく変な形の謎の物体を作り出したものだ。


今では形も正確に再現できるようになったし、バリエーションも短剣から両手剣までと豊富に作り出せる。


頭の中で想像しやすくする為、いちいち「雷光の剣(サンダーソード)!」とか言っていたのが懐かしい。

……いや、あんまり思い出したくない記憶だな。


今思うと、『雷光の剣(サンダーソード)』って……かなり安易なネーミングだよなぁ。

厨二の中でもかなり下のランクなのではないだろうか。


もうやめよう恥ずかしい。


でもまあ、魔法に技名を付けるのは割とオススメのやり方なんだよね。

熟練者なら無詠唱でバンバン撃ったりできるけど、それは『熟練』しているからな訳で、そうなるまでには血の滲むような努力を重ねてきているはずだ。

初心者がぽんぽんできるような事ではない。


ラノベとかでも、魔法と言う概念は様々な形であるけど、どの世界でも大体の魔法は一律に『想像の具現』と言う形を取っていると思う。

魔力を用いて頭の中で想像した物事を現実世界に転写、具現化させる。粘土をこねて粘土細工を作るのを想像して貰えると分かりやすいかもしれない。

『魔力』と言う名の粘土をこね、『魔法』と言う陶器を作るのだ。


粘土細工を作る時も、お手本があるといくらか作りやすいだろう。

魔法に置いて、そのお手本の役割に当たるのが魔法の『名称』であり、『詠唱』だ。


より確実性を求めるならどちらもこなした方がいいのだが、俺は長ったらしい『詠唱』が苦手なので、魔法名だけを唱えていた。

最近は今使っている魔法には慣れてきたので、魔法名を叫ぶ機会はほぼ無い。


魔法の練習は、ひたすら反復練習だ。

ゲームのスキル熟練度上げと同じだな。

毎日毎日同じ魔法を使う事で、その魔法を使う時の感覚(・・)を覚えるのだ。

感覚さえ掴んでおけば、『詠唱』も『魔法名』を唱える事もなく、更に言っちゃえば指一本動かさずに発動する事ができるようになるのだ。


指一本動かさずに天災レベルの魔法を放つとか考えてごらん?やばいよ。

まあそんな超大規模魔法を練習するのは不可能だけどねー。

めっちゃ迷惑だし。


魔法のいいところは、先天的な才能や習得力の高さによる速度の違いはあるものの、誰でも努力次第で熟練の域に到達する事ができる事だと思う。


まあ、反復練習なんてずっとやってると飽きちゃうし、あまりの地味な作業に放り投げちゃう人がほとんどらしい。


それでも、そんな地味な作業を続け、無詠唱を身に付けた魔法使い達は、大体歴史に名を刻んだ偉人になっていたりする。


まあとにかく、大魔法使いを目指すなら千里の道も一歩から、ってな訳でこつこつ努力するしかないんだよね。

慣れてないと最初はどんな魔法でもイメージしにくいから、イメージをしやすくするために魔法名を唱えるようクロナ達にも言ってたんだけど……、


『なんかはずかしいからやだ』


一蹴されたんだよなぁ……。

まあその感覚は間違ってない。

間違ってないんだけど、やっぱり最初の方は魔法名を唱えた方が断然効率がいいのだ。


最近クロナとローザが魔法名唱えるようになったのっていうのが、彼女達の急成長の一因だと俺は踏んでいる。



◆◇◆◇◆



しばらく魔法を撃ち合っていると、俺の『魔力探知』に引っかかる反応があった。


『魔力探知』とは、超微弱の魔力を周囲に放出し続ける事で、生物の持つ魔力を感知する事ができると言う便利スキルだ。

詳細までは分からないが、魔力の質によって大まかな種族くらいは判別できたりする。

効果範囲は人によって変わるが、俺は大体半径五百メートルまでなら感知する事ができる。


『魔力探知』なんて名前が付いているが、これは母さんが発見した魔力を用いた『技術』なので、正式な魔法として登録されていない。


魔法を習い始めた時に、俺達が一番最初に習ったものだったりもする。


クロナとローザは突然動きを止めた俺を不審がるように警戒していたが、遅れて気付いたようではっとした顔になる。


(魔獣じゃない……これは人間か。それも複数……)


(進路は、このまま行くと……うちか?)


討伐隊でも組まれたのだろうか。

この地を領地に持つ領主は俺達の実力も、俺達が危害を出さない事は知っている筈だが……。


地面に降りると、二人が指示を仰ごうと小走りで駆け寄ってきた。

「にいさま、いかがいたしますか?」


俺は二人と顔を見合わせる。


「取り敢えず、遠くから観察してみよう。まずはそれからだ」


二人が頷くのを確認して、俺は人間達を感知した方向へ駆け出した。



◆◇◆◇◆



音を抑えて、地を駆る。

ちらりと後ろを見ると、ちゃんと二人共付いて来ていた。


「あそこの森に隠れる。うちに向かうなら、必ず森の中の道を通るからな」


俺達は目の前に広がる、火山(我が家)の麓の森に向かって走り出した。



◆◇◆◇◆



さて、現在俺達は道を見渡せる森の木の上にいる。

俺と同じ木にローザ、右隣の木にクロナが隠れている。


俺が見たところ、クロナもローザも上手く木の葉に隠れているし、気配もちゃんと消せている。

相当な使い手でもない限り、バレる事はない筈だ。


しばらく待っていると、馬蹄の音と軋むような音が聞こえてくる。

どうやら彼らは馬車に乗っているようだ。


俺の予想通り、道の端に馬車らしき影が見えてきた。


龍の視力、動体視力はとても高いので、百メートル程離れた今でも、目を凝らせば様子がよく見れた。


馬車の種類など知らないので、それが何の馬車なのかは分からなかったが、御者の奥の馬車内に、人が見えた。

恐らく鉄製であろう兜、鎧を身に付けて、静かに座っている。

よく見ると、全く同じ格好をした人達が十数人程馬車に乗っているようだった。


大の大人が小さな馬車の中でギッチギチに詰まっている。


何だか俺はげんなりした。


身なりからして、どこかの兵士なんだろうが、用が何なのか分からない以上、こちらから下手に手を出すのは躊躇われた。

「ドラゴン倒す」とか声を大にして話している冒険者(アホ)とかなら分かりやすくて助かるんだが……。


取り敢えずこのことをレスティに報告に行こう。今日は母さんは街に行ってるしな。


……まあレスティならとっくに気付いているとは思うが。


俺は目でクロナ達に合図を送ると、静かにその場を離れた。

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