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傍観その7

 放課後、地に足が付かないと言う状況をまさに体験しながら道中を歩く。

 まだ先輩の家も見えてない時点から喉はカラカラになるし、手は汗ばむしと緊張しているのを自覚する。


 途中でベタだけどフルーツの盛り合わせを購入し、それを胸に抱きいざインターホンを押そうとするのに指が途中で止まってしまう。

 まるで体中が心臓になったかのようにドクドクと脈打ち始め、体中が熱くなり呼吸まで乱れている。


 うおー、流石に緊張するわ。

 だが、ここまで来たんだ、落ち着け俺。


 自分に言い聞かせつつ、深く深呼吸を数回行う。


「あら、うちに御用かしら?」


「うわぁあ」


 最中に声を掛けられ文字通り飛び上がって驚いてしまう。

 自分でもびっくりするほど大きな声も出るし、腰抜かさなかった事が唯一の救いだろうか?

 本当に余裕なさすぎだ俺。


「ごめんなさい、驚かせちゃったみたいね」


 振り返ればすまなそうな顔で謝る品の良い女性が居た。

 先輩のお姉さんだろうか? 随所に面影を感じつつ慌てて頭を下げる。


「こ。こちらこそ大きな声を上げてすみません。

 その、南先輩が休みで心配で。えっと、お見舞いに来ました」


 おい俺! テンパり過ぎだって!

 なんて内心で思うも考えも言葉もまとまらないし、動揺が口調にも表れている。

 そんな半ば挙動不審な俺に、しかし、お姉さんはクスクスとおかしそうに笑ってくれた。


「あらあら、愛実の後輩さんなのね。

 ふふふ、あの子も隅に置けないわねぇ」


 お姉さんの言葉に益々顔が熱を持っていくのを自覚するも、否定するべきではないと思ったので、流石に肯定する勇気は出なくてお土産の品を差し出す。


「あの、これはお見舞いの品なんですけど、受け取って貰えませんか?」


「あら、そこまで気を遣わなくて良かったのに。

 あの子は……うん、ただの風邪ですから」


 妙な間が気になったものの、何故か手を取られてにっこり微笑まれてしまい何も聞けなくなってしまう。


「良かったら上がって行かない?

 折角なら直接渡した方がいいと思うし。どう?」


 小首を傾げるのも可愛らしくて似合っているのだけど、いくら似ているとは言えやっぱり先輩のが見たいじゃない俺!

 いかん、元々テンパっていたせいか完全にペースを持って行かれてしまっている。

 とは言え、願ってもない申し出だしここは受けよう。


「はい、よろしいのでしたら是非」


 何とか上手く笑みを浮かべれただろうか、引きつってない事だけを願っていた。

 幸いお姉さんは気にした様子もなく、なら付いて来てと先に歩き出す。

 そこでようやく、もし家に先輩しかいなければ無理に起こしてしまう可能性も、不調を押して対応してくれた可能性もあったのだと気が付く。

 うわぁ、本当にテンパりすぎだったな俺。なんだかんだお姉さんといいタイミングで会えたのは僥倖だろう。

 舞い上がると非常に視野も思考も狭くなるのだなぁと、しみじみ実感したのだった。




「愛実ー! 学校の後輩君がお見舞いに来てるわよー!」


 玄関を開けるや否や大きな声を上げるお姉さん。

 思わずギョッとしてしまうものの、もしかすればそこまで体調は悪くなくあくまで大事を取ったのかもしれないと思う。


「後輩ー? 誰ー?」


 どこか眠そうな声で、きっと起こしてしまったのだろうと気付く。

 無理に起こさないでも良かったのに……いや、そうするとお姉さんと2人きりって事になるのか。それはそれでマズイな。

 むぅ、これは申し出を辞退してお暇するべきだったかもしれないかな。


「あら、そう言えば名前聞いてなかったわね」


「田中と申します」


 頬に手を当てしまったと言う風に呟くお姉さんにすかさず答える。

 にっこり満面の笑みを貰った後、すぐにお姉さんは再び先輩に向かって声を出す。


「田中君って子。そっちに行かせるわよ!」


「んー? はーい」


 頭がよく回っていないのだろう、心当たりはなさそうなのに素直に答える先輩。

 その答えを聞いてお姉さんは満足そうに頷いて俺に口を開く。


「さ、2階の右側の部屋よ」


「はい、ありがとうございます」


 頭を下げれば、襲わないようにとか小声で言われて苦笑いを浮かべてしまうものの、気をつけますとだけ口にしておく。

 いやはや、いったいなんだと思われているのだろうか少し心配ではあるが、否定的な対応をされなかっただけでも喜ぶべきだし。うん、気にしない事にしよう。



 部屋の前にたどり着きノックをする。


「はーい、開いてるからどうぞー。

 田中田中田中田中?」


 うん、まだ寝ぼけているようだし俺だとも気がついてないようだ。

 なんか可愛らしいなと思いながら、失礼しますと口にしつつ扉を開ける。


 そこには、上半身をベッドから起こして腕を組み、ぽやんとした表情で考え込んでいる先輩の姿が。

 ゆるりとした動作でこちらを向いた先輩と見つめ合ったのだが、正直その油断しきった姿があまりに愛らしすぎて動けずにいた。


 どのくらい見つめ合っただろうか、物凄い長いような気も、一瞬だった気もするが自分では定かではない。

 先に動けたのは先輩で、目を見開いた後慌てて両手で寝癖の付いた髪を抑えて毛布に隠れる。

 どうしよう、こんなに可愛らしい人だとは思ってなくて、衝撃が大きすぎる。


「ううー、みーたーなー」


 低い声で唸る先輩に笑みが溢れ、やっと体も硬直から解かれたように動かせるようになる。


「いやいや、本当に愛らしくて……眼福でしたよ」


 笑顔が溢れ出つつ口にすれば、どうやら気に入らなかったようでチラッと顔を出し、拗ねた様にこちらを見てくる。

 うん、後で彼氏でもない男にそんな真似しないように注意するようにしよう。今は絶対言わないけど。


「ひどーい。私物凄く傷ついた」


「そうですか、それならお詫びをしなければなりませんね」


「へ?」


 言って近づいていくと、キョトンとした顔で見つめられる。

 ……うわぁ、本当に2人きりとかじゃなくて良かった。今俺お姉さんの事思い出さなかったら確実にヤバかった。

 落ち着かせる為に深呼吸をし、お土産に持ってきたフルーツの盛り合わせを差し出す。


「どうぞ、お受け取り下さい」


「あ、ありがとう」


 驚いた様子で受け取る先輩。

 と、それを横に置き途端に真剣な表情になる。


「ねぇ、それでどんな要件で来たの?」


「勿論先輩のお見舞いですが。どうやらそこまで酷くなさそうでホッとしています。

 ああ、無理をさせるつもりもありませんから僕はもう帰りますね。フルーツは後でお姉さんにでも切って貰うなりして下さい」


 よどみなく答えれて一安心。

 うん、愛らしい先輩を見れたお陰か緊張がだいぶ解けたようだ。


「あ、え。っと。あ、ありがとう」


 今度は困惑しながら口にする先輩。

 まぁ、男が家に来るとか過去にもあってそうだし、色々嫌な目にも合った事あるのかもしれないな。

 そうじゃなくても警戒してしかるべきだろうし。

 実は聞きたい事とかあったのだけど、それは先輩が学校に来た時にしないとな。


 なんて思っていたら、爆弾発言を放つ先輩。


「ねぇ、うちお母さんしかいないよ」


「……嘘でしょう?」


 もしかすると今日1番の衝撃かもしれない。いや、流石に寝起きの先輩には劣るか。

 それでも、次の音をすぐに口に出来ない位には驚かされた。

 ほんと今日は驚かされっぱなしの1日だな。

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