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傍観その6

「ごめん、待たせちゃったね」


「いえいえ、寧ろ無茶なお願いを聞いて下さってありがとうございます」


 肩を上下させる先輩に頭を下げながら口にする。


 口走った言葉は取り消す事等出来ない訳だが、当然否定の言葉を口にされ凹んでしまった。

 だが、やはりどうしても心配で、それを口にしたら少し考え込み、じゃぁって流れで今に至る。

 うん、口走ってしまって良かったと思う俺も大概単純な奴なのだろう。

 無論緊張しっぱなしではあるし、この恥ずかしさから逃げ出したい気持ちが無い訳ではないのだが。それでも、もっと一緒に居たい気持ちの方が大きい。


 よく考えれば女子と2人きりで帰るのも初めてだし、中学時代は興味はあれどそこまで欲求はなかったからな。

 うん、こんな事考えるんじゃなかった。より緊張してきたぜ。


 道中は当たり障りの無い話をしていたのだが、先輩の歩調に合わせたり無理なく車道側に立ったりと、自分なりに気付く範囲でのエスコートを試みてみた。

 これが無意識で出来る程スマートになりたいと思うものの、それは俺には一生無理かもしれない。

 ともかく、今は舞い上がりすぎて何も考えれない事態にならなかった事を喜んでおこう。ただ、会話自体は先輩が主に喋ってくれてリードしてくれたように思うし、真剣に聞いてはいたのだけど、もっと気の利いた返しが出来るようになりたいと思う。

 うん、ぶっちゃけ緊張しすぎと気を回すので精一杯であまり何を話したか覚えてないし。


「ありがとう、送ってくれて。助かりました」


「いえいえ、こちらこそお役に立てたのなら何よりですよ」


 こちらを立ててくれる先輩に感謝しつつ、思わず浮かべてくれた笑みに見入ってしまう。

 口でこそ何とかそんな事を言えたのだけど、頭を下げたりとかし忘れるくらいだったし。


 最後に手を振って家に入っていく先輩を、同じく手を振って見えなくなるまで見送り、深く深呼吸をする。

 ああ、今までリア充がとか場に合せて色々言っていた事を謝るよ。

 お前達はスゲーよ。俺とか完全にいっぱいいっぱいだよ。いずれ慣れるとか全然思えないよ。

 とは言え、なんだろうこの充実感と言うか何と言うか。

 従兄弟が彼女って良いぜって言ってた事に今なら同意出来そうだ。


「っし、帰ったら間宮対策を練るか」


 ポツリと呟いて踵を返す。

 丁度学校から来た時の倍の距離位を戻らなきゃならない訳だが、うん、先輩との時間の為なら全く苦痛じゃないと思うあたりどんどん深みにハマって行ってるのだろうな。

 まさかまさか、自分からハマりたくなる物が出来るなんて今まで想像もした事がなかったので、喜びも胸に芽生える。


 ああ、俺ってまだまだガキだったんだな。


 そんな事緩んだ顔で思う程度には舞い上がっていた。





「は? 南先輩が休み?」


 一緒に帰った翌日クラスに入るや否や林からそう聞かされ、思わず問い返してしまう。


「そうなんだよ。だから今日1日平和だぜー」


 寧ろフォローする人が居なくて大混乱になるかもしれんぜ!

 と心の中で叫んでおいて表面上は曖昧に頷いておく。


 帰る時は疲れは見えたもののまだ元気そうだったのに。

 とは言え、体調を突然崩すのなんてよくある話だし……お見舞い、どうするか……。


 殆ど林が喚くのを聞き流しながら、多分今日も1日気もそぞろになってしまうのだろうなと半ば確信していた。




「え? 風邪じゃない?」


 お昼に今日も先輩達と共に昼食を取っているのだが、南先輩が休んだ理由が体調不良じゃないと教えてもらい思わず口にしてしまう。


「そのようだね。家庭の事情って話を聞いている」


「俺ら同じクラスだからね。どうやら彼女が最近おかしかったのはそれも理由なのかも」


 先輩達の情報をしっかりと聞きながらも、同時にゲームの事を必死に思い出す。


 南先輩の家庭の事情なんかゲームで出て来たか?

 答えはどれだけ考えても否である。

 と、ふと物凄い悪い予測を思いついてしまう。


 まさかだが、どうやらゲームに沿うような強制力がどの程度かまでは不明だがあるような感じであり、本来の南先輩の性格を考えればゲームに沿うようにするなら家庭でも追い詰めなければならなかったと。

 だから、まさか……本当にまさかだが、家庭環境に問題が起きている?


 物凄い冷や汗が吹き出す。

 所詮学生で子供の俺じゃぁどんなに手助けをしたくとも限度がある。学校内での問題ならば十分な手助けが出来るかもしれないが、家庭の問題は手を出せない場合の方が遥かに多いし、そもそも気軽に出してはダメな問題だろう。


 が、本当にゲームにそわせる為だけにそんな現状になる世界なんて、俺は許せない。

 そんな、先輩だけに優しくない世界なんてクソくらえだ。



 考え込みすぎる俺に、最終的に心配してくれた先輩達に申し訳なく思いつつも、自分がどれだけ力のない存在か突きつけられたようで胸が渦巻いて止まない。

 ああ、分かったよ。そっちがその気なら俺だって使える力はなんだって使ってやる。


 覚悟を決め、今日の放課後南先輩の家にお邪魔する事にする。

 もしかすると門前払いされるかもしれない、が、何もしないなんてもう俺には出来ない。

 なんでこんな気持ちになるのかなんて理屈じゃないのだろう、けど、理屈じゃないからこそ大切にしたいと思う。


 先輩、ありがた迷惑かもしれませんが、全力で助けになろうと思います。

 ですから、もう少し待っていて下さい。


 非難される事を覚悟しつつも、やはり心のどこかでそれを恐れてしまう。

 が、それ以上に怖いものが俺にはある。

 ……ゲーム終盤のまるで気が狂ったかのようになった先輩。そんな姿を見るつもりもさせるつもりも無い。ならば、そうならないよう行動するしかないだろう。

 幸いな事に切れる手札は俺にはある。まさか自分の生まれをここまで感謝する日が来るとは思わなかった。



 渦巻く感情を持て余しつつ、午後の休み時間にふと間宮の方を向けばのんきそうな顔が幾つも。

 はは、世界がお前ら中心に回そうとするのなら、それが先輩の……俺の邪魔になるなら運命さえ変えてやるよ。


 今の自分を後の冷静になった自分が思い返せば、確実に黒歴史だと思うのだろうなとも思いつつ。それでも、自重する気持ちは湧いては来なかった。


 ほんと後悔先に立たずとはよく言ったものだよ。だが、俺はやらぬ後悔よりやる後悔の方を選ばせてもらうぜ。

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