傍観その4
教室に戻ればすぐに授業が始まり、何かあったのか聞くのはその授業が終わってからになってしまう。
正直授業に身が入らないから困るのだが、学生である以上仕方ないだろう。幸いお昼までにもう1度休み時間を挟む事を喜んだ方が良いかもしれない。
何とかノートを取るので精一杯だった授業も終え、何かあったのではと林に聞いてみる事に。
「なぁ、実はここに来る前に南先輩とすれ違ったんだが、何かあったのか?」
「ああ、実はあの先輩がまた怒鳴り込んできてな。
まぁ、会長が懲りずに集めなきゃいけないプリントを集めずに話に来てたからなんだが、それに周りの女子が噛み付いてな。
何時も関係ない筈の間宮さんに何か最初に言おうとしてるだろ? 流石に口にする事はないけど明らかに筋違いな行動だし、俺も思うところがあったからな。
いい気味だと思うぜ。最後に涙目でごめんなさいって皆に謝っていたけど、なんか白々しいっておい、なんか目つき凄いぜ? どした?」
いや、どしたとかじゃなくブチ切れそうなんだが。
しかし、まだ情報量が足りない現状じゃ何とも言えずに押し黙るしかない。
確かに事情を知らなければ南先輩がおかしな事をしていると見えなくもないかもしれないが、既に書記の先輩から確証を得ているんだ、間宮が無関係とか有り得ない以上南先輩の行動は実は間違っていないと断言出来る。
いや、寧ろ言葉を吐いた所で何も問題ない。知らないとは言え筋違いな行動をしたのは女子の方だと言えるだろう。
あくまでまだ予測だが、何かしらの強制力のせいで間宮に言おうとするのを、言うべき相手はバカどもだからと自制していると思われる。
となれば、褒められこそすれけなす等もってのほかで、涙目になるまで言うだなんてとんでもないと思う。
くそ、どうしようもなく不快だが書記の先輩から色々聞いてみない事には行動も取りにくい。
本当はすぐにでも南先輩を慰めに行きたいのだけど、見当違いな事を言われると逆に不快に感じるからな。くそっ、ままならないにも程があるぜ。
とりあえず、いや、ちょっとなと言葉を濁し、林が勝手に勘違いするのを肯定も否定もせず曖昧に相手をするにとどめる。
こんなに力不足なのを感じたのは生まれて初めてかもしれない。
その次の授業は、今度こそノートすら取れないほど気を紛らしてしまった。
やっと昼休みの時間になり、足早に食堂に向かう。
不機嫌さが表に出てしまっているのか、林から心配されてしまうがどちらかと言えば放っておいて欲しかった。
いや、優しさは嬉しかったんだがな。
「おっ、来たね。俺達授業の関係で食堂に早めに着けたからさ。
既に席はとってあるから注文終わったらあそこにおいで」
入口に付けばイケメン先輩が立っていて、複数の女子が遠巻きから見ているのが若干邪魔だったが、気遣いに感謝する。
と言うか、やっぱりモテるのだろうな。色々スマートだし。
相手が俺と言うか、男だった事からホッと安堵の息を周りの女子達がついていたのが印象的だった。
一部キャーッとか言ってたが……気にすると精神衛生上非常に悪い気がしたのでスルーする事にする。
まぁ、なんだ。害がなければ寛容しないでもないよ。
「来たね。と言うか、まだ自己紹介もまだだったな。
僕は知っているかもしれないが矢部 佑樹だ。生徒会書記をやっている」
「俺は、宮城 拓哉だよ。よろしくな」
「田中 雄星です。よろしくお願いします」
ようやく自己紹介を終え、少し行儀は悪いがご飯を食べながら会話を始める。
「で、聞きたい事ってなんだ?」
「いえ、少しおかしな質問かもしれませんが、彼女と初めて話した時不思議な気持ちになりませんでしたか?」
俺の質問に顔色を変える先輩方。同時に俺の予測が合っていたと半ば確信する。
「よく分かったな。確かに初めて会うのに自分でも不思議なほど好意を抱いた事は認めよう」
「そうですか、実は会長達の行動があまりに不自然すぎて、オカルトではないですが何かしらの力が働いたんじゃないかなぁっと思いまして」
多分普通なら笑い飛ばされるような事だが、真剣な表情で矢部先輩は聞いてくれた。
宮城先輩も笑みを浮かべてはいるものの、これが多分デフォルトなだけで嫌味な感じは一切しない。
「俺は最初から複数人のイケメンに話す彼女に不快感しか抱いてないけど、佑樹はなんか感じちゃったみたいだし、彼女に今は取り入ろうとしてる面々は何かしらそう言う力を受けているのかもね」
「ふむ、しかし僕からすると拓哉が対象にならなかったのは不思議でならないが、単純に容姿だけで見れば彼女が声を掛けた面々の方が整っているとも言えるからな。
つまり容姿のみ重視か、尚更底が知れるな」
吐き捨てるような矢部先輩に、よほど迷惑に合わされたのだろうと思わず同情してしまう。
やはり悪女とかではなく偶々事態が好転してるだけで、彼女自体は頭が良くないと見える。成績と実際の頭が回るかは必ずしも=で繋がる訳ではないからな。
間違いなく悪運が強いタイプと言えると思う。
「詳しくは聞きませんが、色々と大変な目にあわれたようですね」
「いやー、そりゃぁ酷かったよ。何を考えているのかゲームのキャラの癖にとか、俺に向かってはモブとすら登場してない癖に黙っててと来たもんだ。
まるで別の世界の人間を相手にしているかのような気分だったよ」
まさかの宮城先輩のセリフで俺と同じくゲームだと気付いているパターンだと知ってしまう。
が、俺もそうなんですよとは言わない。と言うか少し考えれば分かるが言ったら頭の心配をされてしまうだろう。折角信頼を得ようとしているのに、自ら壊す真似などしない。
なので、別の言葉を紡ぐ。
「現実世界をゲームとでも思い込んでいるようですね。
彼女が不思議な行動をとっていて興味を引いて見ていて、ずっと何故だろうと思っていたのですが謎が解けたようです。
無論、会長達の行動は理解不能ですが。
そう言えば、先輩は好意を持ってしまわれたそうですが、何故今みたいに?」
「ああ、それはすぐに会長達にも声を掛けていると皆が教えてくれたからな。
と言うか、不良の橋本はともかく他のメンツは周りが止めた筈なんだ。何故忠告を聞かなかったのか激しく疑問を抱いてしまうよ。
既に色々周りに迷惑を掛けているというのに……南が可哀想すぎる」
と、聞き捨てならない言葉にすぐ深く聞こうとしたのだが、それより先に宮城先輩が口を開いてしまう。
「ああ、最初こそ佑樹も気にかけていたけど、すぐにそんな気もなくなってそれから嫌いになるまであっと言う間だったよな。
多分見た目だけは本当に好みだったんだよ。彼女美人な事には違いないしね。でも、佑樹はちゃんと自制出来たから偉い。
会長達とか彼女の行動を知っていると言うのに、まるで洗脳されたかのように自制出来てないしな。
その不都合を全部南が尻拭いをして、その上皆で選んだ人達なんだからって皆が放置し始めたにも関わらず未だに構ってすらいるからな。
だから田中君、彼女が君のクラスに行く事がこれからもあるだろうけど、良ければ彼女を助けてあげてくれないか?」
ああ、本当に気の利く人なんだな。多分俺が言い出そうとした事も察したんだろう。南先輩から途中で俺に会った事も聞いているのかもしれない。
「分かりました。僕自身は寧ろ南先輩に好意を抱いていましたし、確証も得られた今では力になれる限りはやろうと思います」
と、そう答えれば途端楽しげに微笑む2人
あ、あれ? なんか獲物を見つけたみたいになってるけど。何故?
「まぁ、南は美人だしな。うん、……撃沈したら骨は拾ってやる」
「ああ、また哀れな犠牲者が、南無」
「ちょっ、先輩方、その返しは予想してませんでしたよ。ってか、さっきまでとキャラ変わってませんか?」
慌てる俺に声を上げて笑う先輩達。
いや、まだそんな気持ちないんだって!
……あれ? まだってなんだ。