少女の事情その25
「間宮ちゃんは先輩と田中に感謝すべきですね」
休み時間宮城君に呼び出されたらしい林君が、宮城君との要件を終えた後私と視線があって、私の方に来つつ思い出したかのようにそう口にする。
「それってどう言う事?」
不思議に思って聞き返せば、あれ? 気がついてませんか? そっか、学年違うもんなぁなんて独り言を呟く林君。
それが何か知りたくて見つめていると、困った表情を浮かべつつも口を開いてくれた。
「あー、まぁ田中の奴には絶対黙ってて下さいね」
「うん、分かった」
私が頷いたのを確認した後、林君が椅子に座り改めて言葉を紡ぎ出す。
「実はですね、あいつあれで結構クラスの奴とかに人気あるんですよ。
男女問わずにですね。
何故かって言えば、気付いて欲しい事とかによく気が付くんですよね。
例えば、髪が変わっていたりするとそれに気付いて声を掛けるし、顔色から体調察したりするし。色んなフォローとかだって自然とやってのけるし。空気読むのも上手いし。
1度あいつによく周り見てんなーって聞いてみたら、は? 別に意識してないけどな。なんて言う始末ですし。
いやー、天然って凄いですよね」
それを聞いて、やっぱり思っていた通りだと思う心と、他の女の子にも好かれているんじゃと不安に思う気持ちとが湧き上がる。
と、そんな私を見て笑い出す林君。
思わずキョトンとしてしまった私に林君が嗜めるように言葉を重ねる。
「その不安だけは見当違いですよ。
あいつが先輩にぞっこんなのはもう学校中で有名なくらいだし、見た目あべこべ中身お似合いカップルって評判なんですよ。
それこそ、あいつに淡い想い抱いていた連中が、私が好きなのは南先輩の隣にいる田中君だからって諦めるくらいに」
その言葉が不満で、むっとした表情になってしまう。
そんな私を見て不思議そうにしている林君に思いを告げる。
「雄星君は私じゃ似合わないくらい格好いいかもしれないけど、私頑張るもん!」
その発言を言い終えると同時に何故か静まり返る教室。
不思議に思って見渡せば、皆唖然とした表情で私を見ている。
と、明美が爆笑し始めた。
むぅ、何かおかしな事言ったかしら?
「もー、愛美ったら可愛いんだから!」
思い切り抱きつかれてちょっと苦しい。
「ちょっと、明美痛いって」
「あら、ごめーん」
そうやってクスクス笑い合う私達。
「それにしても、ほんと先輩方仲いいですね」
その様子を見ていた林君が笑みを浮かべてそう口にする。
「んー、別に私と愛実って最初から仲良かった訳じゃないのよ」
言われて思い出す明美との出会い。
「そうそう、私八方美人って嫌い! だったっけ。
突然怒鳴られるし、怒鳴られても当然だったんだけどね」
「あー、懐かしい。
聞いてよ林っち。愛実ってば昔親切の押し売り女王だったんだから。
ぜーんぶ王子様の為だったんだけど、いい迷惑って話よねー」
「は、はぁ」
明美に絡まれている林君が困惑気味に相槌を打つ。
あちゃー、それに明美気付いてないし上機嫌に続きを語りだす。
うん、林君頑張って!
「って、別に私が悪くない訳でもなかったんだけどね。
流石お互い子供、今思えば色々あったねー」
「そうだね、中身お似合いって言ってもらえるくらいには成長出来たみたいで良かったわ」
言いつつ口元が自然と緩んでしまう。
と、ニヤニヤし始める明美。
うん、それは良いのだけど興奮した勢いで林君の首絞めちゃってるよ?
林君吃驚して目を白黒させてるし。
「いやー、もうとっくの昔に私達の愛実を奪っていった事は納得してやってたんだけど、まさか愛実が昔から言うまんまだとは思わなかったわ。
田中っちやるわね。
ね、林っちもそう思う……あれ? 何でジト目で見てくるかな?」
「ごほごほ……いえ、突然首絞められちゃぁそうなりますって。
役得でしたけど」
咳き込みながらも言い返す林君。
うん、大丈夫そうで良かった。
「あらっ、ごめんね。
って、……林っちのエッチ」
「……その反応は予想外でした」
「あはは、実は明美って私以上に乙女だもんね」
気のいい姉御肌でスキンシップも平気でする明美だけど、実は自分に関しての恋愛ざたとかそう言うのが非常に苦手みたい。
本人曰く、恥ずかしすぎるとか。
体を自ら抱きしめ顔を真っ赤にして、上目遣いに睨む明美を目の前にして焦る林君。
私が思わず笑ってしまったところでチャイムの音が鳴り響く。
「やべ、急いで戻らないと……あ、明美先輩?」
「……謝罪を欲求する。
駅前のパフェおごりだかんね」
制服の裾を掴んで上目遣いに言う明美。
……って、あれ? もしかして。
うそ! 本当!?
苦笑いを浮かべて頷いた林君を解放する明美。
林君は急いで教室から飛び出し……先生に怒られている。
明美を見れば……深呼吸していて……相当勇気を出したんだろうなって分かる。
と言うかいつからだろう? 全然気が付かなかった。
今までがそれどころじゃなかった訳でもあるけど、……後でちゃんと色々聞かなきゃね。
と、私の視線に気付いた明美が恥ずかしそうに視線を逸らして……うわー、明美可愛い!!
胸をキュンキュンと高鳴らせる私。
先生はすぐに教室に入ってきて授業が始まったのだけど、どうやら明美と同じく私も身が入りそうになかった。
間宮ちゃんの停学が解けて、その姿を学校で見た時に声を掛けずにはいられなかった。
フラフラと元気のない足取りで……私が声を掛けた時ぱぁっと表情を明るくさせてホッと安心しちゃったり。
だけど、うん、懐かれすぎたようでべったりくっつかれてからのマシンガントークが始まってしまう。
気持ちは分からないでもないし、色々力になりたいと思うのだけど……ちょっと行き過ぎなのは注意しないとね。
結局お昼の間に殆どご飯を食べられず、勿論それは半ばわざとでタイミングを見計らい注意する為に口を開こうとしたら先に雄星君が口を開く。
「――でですねって、ごめんなさい。愛実お姉ちゃんと雄星お兄ちゃんのお楽しみの時間を邪魔しちゃって」
「おいこら、俺はお前の兄でもなければ年上でもない。その前にそんな事言うなら最初から遠慮してくれ!
いや、兄というのは百歩譲ろう。肩を落としつつフラフラしてるお前に声を掛けたのは愛実先輩だし、確かに声を掛けられて喜ぶのも分かる。
分かるがもう昼休み終わるぜ? 頼むからもう少し落ち着いてくれ。
何も食事に混ざるなとも言わないし、決めるのは愛実先輩だとも思うが。
お前があんまりマシンガントークぶちかますから先輩殆どご飯食べられてないだろうが。
頼むからもう少し状況見れるようになってくれ。
後先輩、僕にも構ってくれないと拗ねます」
私の言いたかった事も代わりに言ってくれたどころか、私にとってとっても嬉しい事も言ってくれて。
どうしよう、嫉妬してくれたって事実が凄い嬉しいなんて……。
感激してじっと見つめてしまう。
と、ションボリと肩を落としてごめんなさいと言ってきた翔子ちゃんに、今度から気を付けようねと声を掛けておく。
うん、もう大丈夫かな。
宮城君と林君が口を揃えてご馳走様と零し、矢部君がポツリと愛だなと言ってたけど……気付かなかったことにしよう。
恥ずかしいし。
それにしても、何て幸せなんだろう。
この幸せをずっと大事にしたいし……明美も同じように幸せになって欲しいな。
勿論、それは林君の気持ち次第だし、今自力で頑張っているから余計な真似をせずただ応援しようと思う。
ふと視線を向ければ雄星君と視線が交わって、自然と微笑み合う。
ふふふ、どうかこれからも宜しくね。
以上をもちまして『乙女ゲーの世界に転生したっぽいから傍観してたらライバルキャラの子に惚れました』の方を完結とさせて頂きたいと思います。
色々謎を出させていただいたり、林君と明美ちゃんの今後は!? 等あるかと思います。
謎はともかく、林君&明美ちゃんについては番外編にて書こうとは思っています。
完結にしても後で追加投稿出来るようですし、他視点も同じ形で書きあがり次第追加の形を取ろうと思っています。
さて、一番の問題の謎についてですが、今作では触れません。
何故なら、乙女ゲー”のみ”の世界観はここで終わるからです。
正確に言えばもう少し続きますが、それは次回作のお話に……。
ええ、そうです。
完全に別連載として続きを書こうと思います!
無論、それ単品でも読めるように書く予定ですが……続きものの以上どこまで出来るか。
それが次作での試みですね。
今作でも色々試みに挑戦してみたりしたのですが、多くの方に読んで頂き、また気に入って頂き感無量です。
現時点でお気に入り5,134件
PV2,481,397アクセスにユニーク387,880人と言う尋常じゃない数値を叩きだしていて……感無量です。
ここまで来れたのも皆様のお陰です。
誠にありがとうございました!!
少しでも楽しんで頂けたのでしたら、これ以上ない幸福です。
それでは最後までご閲覧頂き誠にありがとうございました!
もし宜しければ番外編&次作にてお会い出来ればと思います。