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少女の事情その22

 走って、走って、空き教室に入った間宮ちゃんに続いて私も入る。

 苦しそうに肩で息をしている間宮ちゃん、きっと限界だったのだろう。

 私も息苦しくて荒い呼吸がどうにも抑えられない。


 ふと振り返れば雄星君が後ろに居て、酷く安堵しながら任せてと言う様に首を縦に振る。

 彼はしばらく躊躇した後、仕方ないなぁと言う様な困った表情を浮かべつつ、それでも縦に頷き返す。

 それが嬉しくて、自然と顔が綻んでしまったのだけど、慌てて引き締め直して間宮ちゃんの方を向く。

 すると、間宮ちゃんが睨みながら口を開いた。


「なによなによなによなによ!! そんな通じ合ってますみたいな有り得ない!!

 モブキャラの癖に!! ライバルキャラの癖にぃぃぃぃいいいいい!!」


 錯乱したかのように叫びながら私に掴みかかって来た彼女に恐怖を覚えるものの、自分を叱咤して1歩前に踏み出しそのまま右手を振り抜く。

 それは私の予想を遥かに超えるほど上手く行って、予想外の手応えが掌に伝わってくる。

 ただ、それが良かったのか頬を抑えへたり込み呆然と私を見上げる間宮ちゃん。


「ねぇ? 痛い? ゲームなら痛みなんか感じないよね?

 私だって痛いよ。傷ついたよ。ゲームのキャラだから何でもしていいって思ってたの?

 皆ちゃんと生きているんだよ? 何で皆をちゃんと見ないの?」


 多分彼女も本当は気付いているだろう事を口にする。

 きっと誰かに聞いて欲しい思いが胸にあるのだと思う。

 そして、彼女はその相手に私を選んでくれたのに受け止められなかった。

 正直あの時は予想外の出来事が多すぎたのだけど、でも、1度手を差し伸べられて受け取ろうとした癖に受け取れなかったと言う事実にずっと後悔していたの。

 だから、今度こそ受け止めてあげる……ううん、そんなおこがましい言葉ではなく、受け止めたいってそう思う。


 そんな事を考えながら言い終えると、驚きの表情を浮かべ呆然としつつも口を開く間宮ちゃん。


「だ、だって……だって誰も私を見てくれないんだもん……」


 その言葉が胸に刺さる。

 勿論見ていない訳でも、見ないつもりもなかったのだけど……肝心の時にそれが出来なかったのだから。

 でも、そんな過去を振り返っている場合じゃない。

 私は本当の間宮ちゃんを見たいし言葉を聞きたいんだよって、それを伝えなきゃ。


「そう。でも、今私は貴方を。間宮 翔子を見ているわ」


「違うもん! 貴方も間宮 翔子を見てるだけで私を見てないもん!

 皆そう!! 私を……ち、近寄らないで!!」


 彼女の言葉から、仮面が完全に外れている事を確信するとともに、間宮 翔子と言う仮面を彼女が被っていたのではないかと推測する。

 ただ、それがどう言う事かなのかまでは分からないのだけど、それは本人に聞かなければ分からないし、今聞くべき事でもない。


 今すべき事……それは、ちゃんと聞く準備が出来てるよって伝える事。

 そう思った私は怯えを見せる間宮ちゃんにそれでも近づき、ただただ抱き締めた。


「……大丈夫。大丈夫だよ。ちゃんと貴方を見るから。

 だから、……大丈夫」


「あっ……」


 吐息が漏れた後、ひたすら泣き声を上げる間宮ちゃん。

 それだけ色々我慢してきたと言う事なのだろう。

 本当にその全てを受け止めれるだなんて、事情を全て知る訳でもない私が気軽に口にしていい訳がないし、出来無い。

 でも、受け止めたいと言う気持ちに偽りがない私は、その心に従ってずっと間宮ちゃんを抱き締め続けた。


 大丈夫だよ、辛かったよね。等と色々口にしながら抱き締めつつ頭を撫でていると、不意に間宮ちゃんが喋りだす。


「あのね……私ね……前世の記憶があるの。

 でね……私、何でも皆より出来て、でも、なんでか皆私と距離をおいて……。

 本当はね、別に特別何でも出来る訳じゃないんだよって、言いたくて。

 でも、皆もう私の事聞いてくれなくて、見てくれなくなって。

 前世でね、11歳だったんだ。体弱くて、でもお父さんもお母さんも愛してくれて幸せで。

 なのに、お父さんもお母さんも仕事ばかり。

 ずっと寂しくて、でも、高校に来たら前世でね、最後にお父さんに買ってもらったゲームで。友達がね、これが凄い面白いって言ってくれて。

 前世もね全然学校行けなかったから、話したくてずっとやってたんだ。

 高校入ったらその世界で……運命なんだって。私、やっと自分を見てもらえるんだって。

 でも、どうしたら良いか分かんなくて。ゲーム通り行動したら皆私を構ってくれたけど……でも、ある時気付いたの。皆ゲームの間宮 翔子を見てるだけで私を見てないって。

 だから、でも、……愛実ちゃんがね、いつもなんか本当に私を見つめてくれてるようで、でも、口では何にも言ってくれなくて。

 悔しくて……寂しくて……やっと見てくれたと思ったらどっか行っちゃうし。皆は相変わらずだし。私が何をやっても怒ってくれないし」


 相槌を打ちつつ真剣に話を聞く。

 前世の記憶だなんてにわかに信じ難い話なのだろうけど、でも、今の状態でとても嘘を吐けるだなんて思えなくて。

 それに、言っている事が事実なら腑に落ちる事も多いわけで、私は間宮ちゃんの話が本当なんだと、素直にそう思える。


 勿論、要領を得ない言葉の羅列だから把握しきれていない事も多いのだけど、それはこれから彼女と付き合っていけば大丈夫だと思う。

 1度手を取った以上簡単に突き放すなんて私はしたくないから。


「うん、大丈夫。私達はまだまだ子供だよ? 友達だってこれからいっぱい作ればいいよ。

 お父さんお母さんに今から寂しかったって伝えればいいよ。

 大丈夫。皆、本当の貴方を見るから」


 思った事をそのまま伝えると、本当? と聞いてきた間宮ちゃんに心から頷く。

 するとぱぁっと明るい表情を浮かべた間宮ちゃんに私も嬉しくなってしまう。

 だけど、もうそれだけで済むような問題でもない。

 だから、それを伝えるべく再び口を開いた。


「だからね、先ずはごめんなさいしよう。

 迷惑を掛けた皆に。

 勿論皆許してくれるって無責任な事は言えないけれど。大丈夫、私が付いているから。だから、ちゃんと謝ろうね」


 私の言葉にうんと声に出して頷く間宮ちゃん。

 私も間宮ちゃんと先ずは立ち上がり、そしてすぐに私に深く頭を下げる。


「南……愛実先輩。ごめんなさい」


「うん、許す」


 間髪いれずに答えれば、喜色を全身で表現しながら抱きついてくる間宮ちゃん。

 良かった、きっと後は上手く行く。

 安心しながら漠然とそんな事を思う。


「田中……雄星君。ごめんなさい」


「……愛実先輩が許した以上俺も許すさ。

 今後気を付ければいい。なんたって俺達はまだまだ子供で未熟なんだからさ」


 多分本当は色々言いたい事があったのだろう。

 でも、それは私の為だと何となく分かって、だからこそ私の意を汲んで飲み込んでくれたのだと分かる。

 それが嬉しくて、申し訳なくて。

 ただ、私の感情なんてお見通しなのか、気にしないで下さいねと言う様に笑みを見せてくれる雄星君にまた心が温かくなる。


 本当に自然に他人の為に行動出来る雄星君。

 貴方の隣に立ちたいと昔から努力してきて……今では少しは貴方のように近づけたと思っていたのだけど、やっぱり私はまだまだみたいだね。

 幸運な事に貴方の隣に立つ事を許してもらえたのだけど、本当に私で良かったのかしら?

 不意にそう思ってしまったのだけど、だからと言ってもう譲れる訳もなく。

 ならば、私は今後も彼に相応しくなれるように自らを磨いていくだけだ。

 何より、彼が私を好いてくれている事が伝わってきているのだし、先ずはちゃんとそれに応え返して行けるようになりたいなと強く思った。

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