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少女の事情その18

「先輩、もういい加減会長達に注意するの止めませんか?」


 間宮ちゃん達に呼び出されて翌日、帰り道で田中君に心配そうに言われるのだけど素直に縦に頷けない。


「でも、私が止めちゃったらもう誰も雅也達に何も言わなくなっちゃうよ?

 だからと言う訳じゃなくて、私だって心配だし……」


 ただ、何となく今の雅也達には逆効果だったんじゃと思う自分も居て、どうしても語尾が弱くなってしまう。


「お気持ちは分かりますが、でも、それは教師の仕事でもありませんか?

 会長に直接注意出来無いのかも知れませんが、それなら単純に保護者に報告すればいい。

 それとも、保護者の方々も会長みたいな感じなんですか?」


 田中君の言葉に首を横に振る。


「ううん、雅也だって本当はあんな感じじゃないの。

 多分だけど何か事情があるのかもしれない……。

 でも、確かに私は首を突っ込み過ぎているのかも」


 口にしつつ悲しさが込み上げてきて、気持ちが沈んでしまう。


「……先輩色々抱えすぎですよ。

 大体先輩はそんな余裕本当はないでしょう? 受験だって控えている訳だし。

 それに、当人達の問題はやっぱり当人達で解決するべきだと思うんです。

 勿論心配で声を掛けるのは良い事だと思いますが、でも、もしかすればそのせ所為で昨日のような事態になってしまったのかもしれない。

 ……心配なんです。お願いですから止めて下さい」


 そこまで言われてしまうと言葉が出てこない。

 だけど、素直にも頷けない。

 と、黙る私に田中君は穏やかに言葉を紡ぎ続ける。


「先輩、僕思うんです。

 親切も行き過ぎるのは良くないって。

 先輩が全ての責任を負える訳ではないでしょう? それに、責任は自分で取るべきだとも思うんです。

 いや、一生会長達を見ると言うのなら違うかもしれませんが……拗ねますよ?」


 実際拗ねるように言う田中君に思わず笑みが溢れてしまう。

 うん、最後まで責任取れる訳でもないのに首を突っ込みすぎるのって確かに無責任よね。

 意固地になってたのかもしれないなぁ。

 

「うん、分かった。

 でも、心配で声掛けちゃったりはやっぱりしちゃうかも」


 私の言葉に安堵するように息を吐きだし、でも、苦笑いを浮かべる田中君。


「まぁ、完全に関わらないのは先輩には逆に酷なのかもしれないですね。

 じゃぁ、その時は必ず誰か……出来れば僕が一緒に居る時だけにして下さい。

 心配でどうにかなってしまうかもしれません」


 笑みを浮かべての言葉。だけど、真剣味を帯びたそれに思わず嬉しさも感じる。


「うん、約束するよ」


 昨日あんな事があったのなら心配するのが当たり前だし、私も自分を守る為にも色々考えなきゃね。

 ただ、私が声を掛ける掛けない以前に心配な事があって、思わず口から零してしまう。


「……ただ、雅也はこのままだとおじ様達から何を言われるか……」


 すると、真剣な表情を浮かべて田中君が立ち止まって私を見据える。


「子に躾をするのは親の責任だと僕は思うんです。

 ですから、完全に手遅れになる前に会長の保護者へと話を付けたいと思っています。

 もしかすると既に手遅れかもしれませんが……それは会長達の責任でしょうし、それを負うのも仕方ないと思います」


 田中君の言う事は最もだと思って頷く。


「……確かにそれは早ければ早いほど良いと思う。

 でも、話を付けるってどうするの? おじ様達は忙しくて日本に居ない時だって多いのに」


 すると苦笑いを浮かべる田中君。


「いや、多分それは何とかなると思います。

 まぁ、また親の力を借りるとなるので僕としては物凄い不本意なんですが……、少しでも早くする為にはやむを得ないでしょう。

 正直個人的感情としてはどうなろうと放置したいところ何ですが、そうすると先輩が悲しむでしょうし、先輩が悲しむ方が僕は嫌ですからね」


「……なんかごめんなさい。

 田中君に掛けなくていい迷惑かけちゃ――」


 言葉の途中で笑顔で首を振られ遮られる。

 そのまま私に柔らかく微笑みながら田中君が言葉を紡ぎ出す。


「迷惑なんかじゃぁありませんよ。

 先輩の為に僕が勝手にやりたいんですし、まぁそれがひいては会長達の為にもなるかもしれないのは不満ですが、その分僕に惚れて下さいね」


 きっぱり言う田中君に照れてしまう。

 だけど、惚れて下さいってもう既に惚れちゃってるのにと思うと笑いが溢れてしまって――。

 と、ニコニコと嬉しそうに私を見続ける田中君と見つめ合って、ゆっくりと歩き出す。

 何だか凄く体が温かくて嬉しくて……こっそり腕の裾を掴んだりしちゃったのだけど、笑顔で受け入れてくれて……。

 特に言葉はなかったのだけど、居心地は寧ろ良くて。

 改めて幸せだなって感じたのだった。




 期末考査も終わってすぐ、最近は随分明るい様子だったお父さんが物凄い上機嫌に返って来る。


「聞いてくれ! 社長から定年まで宜しく頼むって言ってもらったんだ!

 僕の仕事ぶりを見て、お前になら任せられると思ってくれたらしくて。

 ああ、嬉しすぎて支離滅裂だな」


 破顔させるお父さんに私もお母さんも喜びで一杯になる。


「おめでとうあなた。じゃぁ今日はご馳走にしなきゃね」


「おめでとうお父さん」


 私達の言葉に嬉しそうに頷いた後、私の方を向くお父さん。


「だいぶ待たせてしまったが、これで雄星君と付き合えるな!」


「お父さん! もぅ」


 恥ずかしくて大きな声を上げてしまうのだけど、……そっか、これで田中君とちゃんと付き合えるのか。

 そう思うと嬉しくて嬉しくて……物凄く恥ずかしくて照れてしまう。

 ううー。今から心臓バクバクだよ。

 もう半ば付き合っているようなものだろうけど……本当に付き合えるのね。

 あー、今日眠れるかしら?


 と、気付けば半ばトリップしていた私を生暖かく見守るお父さんとお母さんがいて。

 ああん、は、恥ずかしい!!




 結局ロクに眠れず次の日を迎え、あっさり明美どころか女の友達にはなんか嬉しそうねって看破される始末。

 とりあえず、お父さんの就職が上手く行った旨を説明だけしたのだけど……色々事前に相談したり話していた明美は事情を察知したようで始終ニコニコ楽しそうに微笑んでいる。

 それを最初は傍から見ていた宮城君にはからかうようにようやくか、おめでとうとか言われてしまうし。矢部君は不思議そうにしてたけど少し考えて気が付いたようで、嬉しそうにおめでとうと言ってもらった。

 うぅ、ひたすらに恥ずかしい。


 どこからか聞きつけたのか、休み時間に林君までやって来ておめでとうございますって言われちゃうし。

 しかも、田中にはまだ伝えてないし情報シャットアウトしているので安心して下さいとか言われてしまうし。

 明美を見ればウィンクを返され……う、裏切り者ぉ。

 もう、本当にどこまで知られてしまっているのかしら? は、恥ずかしいよぉ。


 と、最近では珍しく雅也を名指しでの校内放送が流れて、今まで応じた事は1度もないからしなくなっていた筈なのにと不思議に思う。

 何度も流れ、ふと少し沈黙が流れて意外な人の声が響いてくる。


「真宮寺 雅也。すぐに生徒指導室まで来るように」


 雅也のお父様の声で、本当に田中君は話を付けちゃったみたい。

 アポ取るだけで半年掛かるみたいだけど、あの日から半月くらいだし凄いと思う反面田中君のお父さんの事が気になる。

 田中君も色々大変だったんじゃないかな?

 申し訳なく思ってしまうし、雅也達も大丈夫かしらと心配に思う。

 おじ様結構厳しい方だし、ちゃんと見れない事を負い目には感じていらっしゃるようだけど、でも手心を加えるのも限界があるだろう。

 最近の雅也達は本当に行き過ぎているから……。

 ただ、これで全てが良い方向に進むといいなと、そう強く願った。

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