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少女の事情その17

 何とかその場に踏みとどまる事こそ出来ているものの、すっかり気持ちが怖気付いてしまって言葉が出てこない。

 ついには間宮ちゃんも宮城君を罵りだし、一触即発の雰囲気が辺りを支配する。

 と、一段と大きな声を宮城君が上げた。


「いい加減にしろよ! お前らが言ってる事とやってる事は完全に食い違ってるじゃねーか!」


 後ろから表情は見えないのだけど、だいぶ酷い事を言われ続けていたし相当頭に来ているのかもしれない。

 でも、聞いていて矛盾しているなんて当たり前で、宮城君がそう怒鳴ったのも分かる気がする。


「何が食い違っているんだ? 俺達の正当な意見にお前が邪魔しているんじゃないか!」


 どこか勝ち誇るように言う雅也……こんな姿見たくなかった。


「おかしな事を、まさか君が風紀を乱すとは思いもしませんでした」


 呆れたように言う高橋君だけど、おかしな事を貴方がずっと口にしてたよ?


「はん、雑魚が一丁前にほざきやがって」


 ニヤニヤと楽しそうに言う制服を着崩した男の子。

 何度か本当に宮城君殴りそうな場面もあって、単純に怖く感じる。


「やれやれ、生徒の間違いを正すのも教師の努めですね」


 先生、それよりこの状況を何とかするのが先だと思います。


「翔子ちゃんに指一本触れさせない!」


 強い口調で言った男の子……と、この子は殆ど宮城君に対して口を開いていない事に気が付く。

 一貫して間宮ちゃんを守るような……確かそんな発言をしていたような。

 何だか彼は雅也達と違うような、そんな感じを覚えた。


「ふん、ライバルキャラの癖に何考えてるのかしら。

 私怖い!」


 突然私を睨みつけて言葉を放つ間宮ちゃん。

 1人ずつ口を開いていったので、何とか言葉を出せるかと思ったタイミングだった為思わず息が詰まってしまう。

 ライバルキャラって……本当にどう言う事?

 そんな事口にしている間宮ちゃんの目が据わっていて……怖い。


 再び声が出せなくなった自分を情けなく思った瞬間、聞きたかった声が耳に飛び込んでくる。


「こんな人気のないところで大声を出してどうしたんですか?」


 ぱっとそちらを見れば田中君が居て……どうしようもなく安堵してしまう。

 視線が交わればすぐにこちらに駆け出してくれて……私も気持ちのまま胸に飛び込む。

 全力で抱きつけば力強く抱きしめ返してくれて……やっと、心から安堵の息を吐けて呼吸が出来るようになった錯覚を覚えた。

 ああ、さっきまで自覚なかったのだけど、私はまだ心が弱ったままだったのかも……。


「モブキャラの癖に! なんなのよコイツ等!」


 雅也達も怒鳴っていて他は聞き取れなかったのだけど、間宮ちゃんのその1言が何故か耳に残る。

 同時に何かがフラッシュバックして――ううん、ノイズだらけのそれは何が何だか分からなくて一瞬フラッとしてしまう。

 田中君が抱きしめていてくれなかったら倒れていたかもしれない。

 でも、そうと気付かれてもっと心配を掛ける訳にはいかないので、そのまま田中君の胸に顔を埋め続ける。


 幸い宮城君に話し掛けていたタイミングだったから、多分気付かれていないと思う。

 ……それにしても、一体なんだったのかしら?

 とても重要な事な気がして……、でも、今それよりも重要な事が目の前にある以上今考えるべきじゃないと頭から振り払った。



 複数人が同時に怒鳴りまた訳が分からない状況になるのだけど……私を庇うように前にいる田中君に、私達を守るかのように更に前にいる宮城君の背中を見て、そして、田中君のぬくもりを感じてようやく最初ほどのパニック状態から抜け出せる。

 やっぱり心に余裕があるのとないのとではだいぶ変わる訳で、更に細かに雅也達の様子を見るのに集中出来そうだと感じた。

 そして、何だかそうしなければならない気がして……だから、私はこのまま口を挟まないでいようと思う。


「1人ずつ喋ろよ。お前等はどうかしらんが、俺は同時に喋られて同時に対応出来るほど器用じゃないんでね。

 ああ、でもそれすら分からないのならお前等は俺以下か。すまんすまん」


 と、煽るように言う宮城君にまたハラハラしだす。

 それでも、さっきよりも状況を把握する余裕があって……あれ? って思う。

 何だろう、何だか……皆無理矢理仮面を被っているような……雅也は自ら進んで被っているような……何だかそんな印象を受けてしまう。

 なんだろう、上手く言えないのだけど……何かに操られているような……でも、誰もそれに抵抗していなくて……それが……とても……気持ち悪い。


「はん、いきがるのは良いがお前の親父、明日も仕事があると良いな」


 そういやらしい笑みを浮かべて口にする雅也だけど……何だろう、宮城君を見ているようで見ていないような……。

 感覚的な事で上手く口に出せないのだけど……おかしい。



「そこまで! 何の騒ぎか分からないがもう休み時間も終わるぞ」


 と、考えている途中で大きな声が響く。

 そちらを見れば大きく肩で息をしている矢部君が居て、よほど急いでくれた事が分かる。

 確か彼は運動苦手な筈だったのに……それを思い出せば益々胸の中に熱いものが込み上げてきて――。



「ねぇ、時間が来たのなら戻りましょう。こんな人達の為に遅れる必要はないと思うわ。

 それに、十分反省しただろうしね」


 笑顔で雅也達にそんな事を言った間宮ちゃんに冷水を浴びせられた思いを感じる。

 雅也達もあっさりその言葉に従って……やっぱり絶対おかしいよ!

 どうなっているの?

 疑問に思っていると間宮ちゃんが私に振り返り……今度は仮面を被っていると感じない、でも、どこか微妙に私を責めるような……違う、私に勝ち誇るような笑みを浮かべて去っていく。

 それは気持ち悪さを感じなくて……でも、物凄い罪悪感が代わりに襲ってくる。


 多分……私何かを失敗している。

 何故かそんな思いが湧き上がり――。




「先輩、駆けつけるのが遅くなってしまって本当にすみませんでした」


 申し訳なさそうに口にした田中君の言葉に現実に引き戻される。


「ううん、ううん。来てくれて……ありがとう」


 途端に嬉しさと情けなさと、いろんな感情が湧いてくるのだから私も相当現金なのかもしれない。

 と、ぎゅぅっと痛いくらいに抱きしめてきて……、これは相当心配させちゃったみたい。

 それがやっぱり物凄い嬉しいし情けないし、色々反省しなきゃと思うと同時に、だからこそ私が色々疑問に思っていた事に気が付いていないのかもしれないと思えば安堵に胸が包まれる。

 良かった、まだ何の確証も得れていないし彼に頼りっぱなしになるもの違うと思うから。

 うん、そうよ、今回は何も上手く行かなかったけど、次は……次こそは私も行動しなきゃ。


 そう決意すれば、今日の出来事は私に取っては無駄な事じゃなかったと強く思える。

 まだどう対処するか全然思い浮かばないのだけど、でも、それは気付いた今から考えれば良い事よね。

 そんな事を思いながら田中君としばらく抱き締めあった。




「いやー、見せつけてくれるねー」


 からかうような宮城君の言葉に全身が熱くなる。

 ああもぅ、矢部君にこのままサボろっかって言われるまで結局抱き締め続けてしまっちゃったし。

 流石にだいぶ恥ずかしい。


「全くだ。思わず僕も彼女が欲しくなったよ」


 にこやかに言う矢部君。

 あっ、そう言えば矢部君も間宮ちゃんに声を掛けられたりしていたはず……だけど、唯一殆ど変わる事はなくて。ううん、違う。彼だけは何かから解き放たれたかのように以前より伸びやかになった気がする。

 元々宮城君と仲が良かったのだけど、確かもっと仲良くなったのも今年からだったはず。

 ……ただの勘でしかないのだけど……後で色々聞いておいた方が良い様な、そんな気がする。


「ほんとですよね。いよっ、このバカップル!」


 のだったけど、林君のからかうこの1言に恥ずかしくて俯いてしまう。

 バカップルだなんて……どうしよう、素直に嬉しいかも。


「宮城先輩。矢部先輩。林も皆……皆本当に……本当にありがとうございました」


 皆の言葉を受けて1呼吸置いて深く頭を下げる田中君。


「いやー、なんか無駄に大人びてて可愛くない面も多い田中にそこまで感謝されると照れるわな」


 嬉しそうに言う宮城君に、私も感謝の念を覚える。


「まぁ、友達だからな」


 軽い感じで返した林君に、だからこそ仲の深さを感じた。


「敬われると言う事は、困った時に助けになってあげれる事。なのかもしれないな。

 まぁ、つまりそう言う事だ」


 にっこりと笑みを浮かべる矢部君に、やっぱりどんどん素敵になっていっているなぁって思う。

 前はこんなに素直に感情を表に出す人ではなかったのだけど、今では出すべきところではちゃんと感情を表に出しているみたいだし、最近益々女の子達が騒ぎ出すのも分かる気がする。

 まぁ、田中君が居る以上そう言う意味では私は全然興味ないんだけどね。


 そのまま皆で穏やかな時間を過ごし。

 サボったから間違いなく先生には怒られるのだろうけど、とても素敵な時間を過ごせて良かったって、後悔はしないと確信しちゃうのだった。

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