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少女の事情その16

「先輩、何か僕に言いたい事とか、溜め込んでいる思いとかありませんか?」


 どうやら私が悩んでしまっていた事なんてあっさりバレてしまったようで、帰り道で心配そうに聞いてくる田中君。


「あ、えっと……」


 思わず口ごもってしまって、失敗したって思う。

 そんな反応しちゃえば今更誤魔化す訳にも行かなくなってしまって……しばらく無言が続く。

 あうぅ、どうしよう? 正直に聞いちゃうべきか、それとも大丈夫っていうべきか。

 はっきりしない態度を取ってしまうのだけど、田中君は私が腹を据えるまでじっと待っててくれた。

 よし、女は度胸よ!


「あのね、私田中君の隣に居て良いのかなぁって……なんで笑うかなぁ」


 勇気を振り絞って口に出したのに、キョトンとしたと思ったらクスクス笑い出す田中君。

 思わずむくれてしまったのだけど、それも仕方ないよね?


「すみません、でも、なんか嬉しくて」


「嬉しい?」


 田中君の返事が不思議で、オウム返しに聞き返してしまう。


「ええ、つまり僕の隣に居たいと思ってくれている訳でしょう?

 で、僕は既に隣に居て欲しいのは南先輩だと選んでいる訳で、そんな心配は無用ですよ。

 寧ろ、選ぶ側は先輩なのに可愛らしい事を悩んでらっしゃったのですね」


 相変わらず嬉しそうに微笑む田中君に恥ずかしさを覚える私。

 いつの間にか頭を撫でられていて……私の方がお姉さんの筈なんだけどなぁ。

 全然嫌じゃない――どころか嬉しいのでされるがままになり、上目遣いに見上げてみる。


「むぅー、だってー」


「良いんですよ、いくらでも悩んで下さっても。

 でも、絶対に手放すつもりはありませんし、僕は既に貴方を選んでいますからね。

 それだけは忘れないで下さい」


 徐々に真剣な表情になって言い切る田中君に、ドキドキしてしまう。

 決定的な言葉がないだけで、こんな殆ど告白紛いな事も増えてきていて、今みたいに真っ赤になってしまうのも日常茶飯事になってしまっている。

 ……うん! 田中君がずるいから悪いんだ!

 自分の中で勝手に結論付ちゃって、でも、そのお陰てすぅっと心が軽くなる。


「じゃぁ、私が田中君の隣に居たいのも忘れないでね!」


 やり返すつもりで、にぱっと笑ってそう口にしてみれば……あうぅ、恥ずかしい。

 でも、私と同じくフリーズする田中君。

 若干赤かった顔が更に赤く染まり、彼は口元を手で覆った。


「うわぁ、先輩それ卑怯ですよ。

 僕がどれだけ我慢してると思っているんですか」


「しーらないよーっだ。

 ずるい田中君もドキドキすると良いのよ」


 そんな彼の反応が嬉しくて、ついついそんな事を口にしてしまう私。

 うわぁ、舞い上がっているなぁ。

 そう自覚するものの、幸せで落ち着こうとしても落ち着く事が出来ない。


「いやいや、僕先輩と居るだけでずっとドキドキしてますからね?

 あんまりいじめないで下さいよ」


 と、あっと言う間に苦笑を浮かべる田中君が、なんかやっぱり余裕があるように感じて少しムッとしてしまう。

 本当にずるい! 絶対私の方がドキドキしているんだから!

 何故かこの時はそう言う思考が働いて、思わずこんな言葉が口から出てくる。


「違うもん、絶対私と同じくらいドキドキさせて上げるんだから!」


 言ってしまって自分がとんでもない事を口にした事に気が付いて。

 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしぃぃ!

 体は硬直しちゃっているのだけど、内心では叫びまくっちゃうくらい取り乱している。

 ああん、こんな筈じゃぁなかったのにぃ。


「……くはぁっ、お願いですから理性を焼き切ろうとしないで下さい。

 と言うか、僕のセリフですよ。一生かけてもっともっとドキドキさせてあげますからね」


 あ、ダメだ、勝てる気がしない。

 既に恥ずかしさで一杯になっていた筈なのに、田中君の言葉に益々体に熱を覚える私。

 と言うか、このまま倒れそうなくらいなんだけど、本当にずるい!


 あまりの恥ずかしさに俯いてしまい、深呼吸して少し落ち着いたところで田中君からさぁ、帰りましょうと声をかけられ促される。

 その声に視線を少し上げて田中君の顔を見て、目と目が合えば恥ずかしさがまたぶり返す。

 慌てて頷いてまた視線を下げて、ふと視線に入った彼の右手の裾を掴む。


 あうぅ、お願いだからこのまま引っ張っていって。

 そんな願いが通じたのか、少しした後ゆっくりと歩を進めてくれる田中君。

 結局そのまま私の家の前で別れを告げるまで喋らなかったのだけど……なんだろう、恥ずかしくて堪らないのに別れ難くて……別に沈黙も苦痛じゃぁなくて。

 そっか、今私本当に幸せなんだなぁって、改めて思っちゃうのだった。






 それは突然だった。

 さぁ、今日も皆でお昼を食べようと食堂に向かっている途中間宮ちゃんに雅也、それにいつも間宮ちゃんと一緒にいる面々に前を塞がれて付いて来てと言われる。

 突然の事に吃驚している私はすぐには返事を返せず、だから私より先に別の人が言葉を発した。


「おい、女の子を大勢で取り囲むとはどんな理由があれど感心しねーな」


 そう言いながら私の背後からやって来た宮城君。

 そのまま庇うように私の前に立ち、間宮ちゃん達と向かい合う。


「なんなの? モブキャラの癖に邪魔しないで頂戴」


 ふと間宮ちゃんを見ると、まるで仮面を被っているかのような錯覚を覚える。


「モブキャラとか、何言ってんのお前?

 頭大丈夫か?」


 あざ笑うかのように、そして注目が自分に集中するかのように口にする宮城君に、間宮ちゃんより雅也始め他の皆が食ってかかる。

 その間も気になって間宮ちゃんを見つめ続けると……どこか悲しそう?

 なんかそんな気がしてしまって、構う事ないぜと宮城君は言ってくれたのだけど、私は間宮ちゃん達と話す事を決めた。





「さて、ここなら邪魔が入らないから良いんじゃないかしら?」


 体育館裏まで連れてきてニヤニヤと人の悪そうな笑みを浮かべる――ううん、そんな仮面を被っている間宮ちゃん。

 ふと雅也達も見れば何だか上手く言えないけどおかしくて。

 でも、私が何か言う前に雅也が口を開く。


「テメーいい加減邪魔だからどっか行けよ」


「はっ、可愛い後輩にお姫様のお守りを頼まれていてね。

 頼れる先輩としちゃぁお前の言葉に従うつもりはねーんだわ」


 睨みつけてくる雅也にシレっと返す宮城君。

 正直1人だったらと思うと感謝の念を抱いて、同時に巻き込んでしまってごめんなさいと強く思う。


「……ライバルキャラの癖に何であんたばっか……」


 雅也達と宮城君が無言で睨み合っていたから、間宮ちゃんのそんな呟きが耳に入る。

 ライバルキャラって、どう言う事?

 不思議に思ったのだけど、それを聞く事は叶わなかった。


「あー、いい加減ぶん殴るぞてめー!」


「はっ? 複数人で群れなきゃなんも出来無い奴が何言ってんの?

 橋本だっけ? お前情けないなー」


 制服を着崩していた男の子が振りかぶってそう叫ぶのに、挑発するかのように返す宮城君。

 正直ハラハラして仕方ないのだけど、もし殴り合いとかなっちゃったら止めなきゃ。


「止めろ橋本。お前停学にはなりたくないだろう?

 ただ、宮城がおかしな事をしているのは僕も同意するよ」


「は? おかしな事をしているだって?

 してんのはテメーらじゃぁねーかよ!」


「私をこいつらと一緒にして欲しくはないなぁ。

 まぁ、教師として彼女に言いたい事があるし、そこをどきなさい」


「いや、お前が一番ねーからな?」


 徐々にヒートアップしていく口喧嘩。

 最初こそ雅也達の誰かが口を開き、それに対し宮城君が言い返していたのだけど、ほどなく誰彼構わず口を開き汚い言葉の応酬が始まる。

 いつ誰が手が出てもおかしくない雰囲気で、宮城君もだいぶ頭に来ているような感じがしてハラハラが増していく。

 もう止めなきゃと思うのだけど、でも、あまりの迫力で足が震えて声も上手く出ない。

 ふと間宮ちゃんを見れば、どこか悲しそうに……でもさっきまでと違い本気で笑っていて……怖い。




 怖いよ田中君、助けて!

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