傍観その2
林と友情を深めつつも主人公ポジの少女間宮 翔子の観察をずっと続けていると不思議に思う事が出て来た。
最初こそ入れ替わり立ち代り来てた攻略キャラ達だったが、今じゃぁ普通に鉢合わせしまくっているのに全く修羅場にならない。
と言うか、仲良くとまではいかないものの、お互い存在を無視して間宮を口説いているような感じだ。
「……なんか不思議な光景だな」
「ああ、間宮さんも困っているみたいだしな」
同情的な林の意見には同意しかねたが、クラスメイトの大凡の意見は林と同意見なのだろう、女子達ですら今の現状を見て間宮への評価を変えている子達すらいるようだ。
いや、これは俺も完全に予想外。まさかここまで狙ってやっていたと言うのなら悪女とか言うレベルの話じゃない。
今も見れば生徒会長と風紀委員長と最近和に加わった風紀委員長と犬猿の仲だった筈のヤンキー君すら混じって、同時に間宮に話し掛けているのだ。
一生懸命答えようとしている間宮だったが、1人で同時に3人に答えるなんて真似も出来る訳もなく、1人に答えると他の2人がそんな事は聞いてないよと柔らかく突っ込んで来ると言う見ていて可哀想な事態になっている。
そんな姿を見れば、いくらなんでも同情も引けると言うものだろう。
実際は違う理由で困っているのだと俺は思っているが、普通に見れば男達からその気もないのに熱心に口説かれて困っていると見れなくもない。
つい先日親友ポジの女の子にとうとうやんわりと断られそうになった時、正直に格好いい人達だったからつい話し掛けちゃったのと俺から見れば開き直った言い訳が、何故か皆に通ってしまったのも大きいと思われる。
……いや、確かに見た目が良い人に話し掛けたくなるって言う理論は分かるよ。
言っている事には一理あるんだがなぁと俺も思ったくらいだし。
嫌っていた女子達も、あそこまで正直に言われると毒気抜かれちゃったし、それに私らだって格好いい男の子と話したいって思うし、寧ろ行動出来ちゃう間宮さんは凄いなぁって思うと、どこか嫉妬混じり賞賛混じりに認めるように言ってたっけ。
げせない。本当に納得いかない。
いや、間違いなく必死で心からの声だっただろうし、だからこそ今までと違い皆の心に響いたのだろうけど。
まさに良い方に解釈されまくった感があるからなぁ。と言うか、攻略キャラ達の後の行動が酷い。
皆が勘違いするのも分かる位、気になった人に頑張って声を掛けたら好意を持たれ、こちらの迷惑すら考えずに口説かれていると十分に見れるからな。
もしや、実は俺の見解が間違えで実際そうなのかもと少し思ってしまうくらいだもんな。
本気で困惑しているのも、多分ゲームと違うから困惑していると思っているのだけど……本人に聞けない以上どうしようもないし。
まぁ、最初の印象が覆らない限り助けないけど。
「雅也! こんなところにいたのね!」
と、突然怒鳴りながら教室へ入ってくる美人。
多分元々つり目なのだろうそれを更に上げ、怒りを顕にしている様子により冷たい印象を受けてしまう。
ああ、見覚えがある。確か主人公の恋路を邪魔するライバルキャラの1人だったっけか。
会長の幼馴染で副会長でもあり、主に会長ルートとハーレムルートで登場する筈のキャラだったと記憶している。
うん、ゲームの時と同様理不尽に切れる感じの悪い美人だと感じた。
静まり返る教室をつかつかと歩き、最初にきっと間宮を睨み口を開き。
しかし、何かを言う前にためらいを見せた後会長へと向き直る。
「雅也! 生徒会の集まりがあるって言ってたわよね。会長がこんなところでなにしているの!」
「いや、それは。そのぅ」
「言い訳は聞きません! 皆待っているんだから早く!
高橋君もよ! 風紀委員長が風紀を乱すような真似しちゃいけないじゃない!」
「あ、すまん」
若干ヒステリックも入っているのかもしれない。
怒鳴り散らして2人を引きずっていく
「スゲェ。流石南 愛実先輩だぜ。黙っていればクールビューティーなのに口を開けば鬼婆だもんな」
隣で林がこそこそと俺に言ってくる。
うわっ、あれがデフォルトなのか? そりゃぁいくら美人でも嫌われるって。
「って、それどこ情報よ?」
「いや、割と有名だぞ?
先輩達は困惑しているって話だけど、間宮さんが絡むようになってあんな感じになったんだとか。
多方幼馴染のイケメンを取られそうになったからじゃないかって1年の間じゃもっぱらの噂だぞ」
うん、そのもっぱらの噂俺知らないぞ?
って、よく考えなくともなんだかんだクラスの皆とも仲の良い林と、林以外は挨拶を交わす程度の俺。情報源が林しか居ない以上彼が教えてくれなければ知らなくても道理だろう。
まぁ、間宮を観察して楽しむ弊害だろうなぁ。別に他のクラスに友人がいて困ってないのも大きいかもしれない。
ふと視線を戻せば、今話していた南先輩が教室の出入り口でこちらに振り返るところだった。
「皆、迷惑掛けてごめんなさい」
ペコリと頭を下げるその姿に目が釘付けになる。
顔を上げた時、彼女の表情は実際申し訳なさそうに目尻が下がっていた。
直後すぐに会長達を引きずって出て行ったのだけど、それでも俺はそちらから目を離せないでいた。
「……あれ? なんか全然印象が違うんだけど」
「は? 何が? よく分からんが、ほんと感じの悪い先輩だよな。
くそっ、落ち込んでいる間宮さんに声を掛けたいけど……橋本先輩いたんじゃ怖くて近寄れねぇ。
分け隔てなく優しい間宮さんは素敵だけど、何も橋本先輩は……」
隣でブツブツ言っている林の事は途中から放置する事にする。
別に同じ事しか言わないのだし、適当に相槌を打っていればいいだろう。
そんな事より……俺は自分の中に湧いて出た疑問の方が遥かに重要だった。
もしかして、攻略キャラ達ってゲームの世界観に引っ張られている?
これは、間違いなく調べるべき問題だろう。もしそうならば会長達攻略キャラ達の行動の理由もわかるし……それに、何故だろう。俺はどうしても南先輩のあの申し訳なさそうな顔が頭から離れずにいた。