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少女の事情その9

「今日からは会長の真宮寺 雅也の代わりに私副会長の南 愛実が中心となって会議を進めていこうと思います。

 決定権等最終判断は昔通り先生方が下す方向になりました。

 これは、寄付をなさっている方からの同意も頂いてます。

 ただ、もし会長が戻ってきたら本来の役割に戻ろうと思いますので、それまでどうかよろしくお願いします」


 頭を深く下げると、拍手が起こる。

 どうやら真宮寺グループの会長で雅也のお爺様からの同意を昨夜得れたそうで、機嫌良さそうに先生に私が口にした内容でまとまった事を伝えられた。

 会長が戻って来ても決定権等はそのままなので、拍手が終わると改めてその旨を説明してようやく不毛な会議に終わりを告げる事が出来る。


 今まで散々皆の意見を聞いてすり合わせをしてとやってきてたので、すんなりと最終的な予算希望をまとめて先生に提出する。

 本来ならもう終わってなければならない事だけど、それでも何とか終わった事にホッと胸を撫で下ろす。

 雅也達には1言声を掛けるのは止めていないのだけど、意固地になりすぎてたなと思えるだけの余裕が出来たので、無理に引っ張ってくるのはもう止めた。

 それで会議が進むのならまだしも、結局進まなかったんだしね。




「田中君、お待たせ」


「あっ、もう終わったんですね」


 田中君のクラスまで行けば、私を待っている間伝えられたように勉強して待っていたみたいで、声を掛ければニッコリと笑顔を返してくれる。

 放課後雅也に声を掛けに行って、あっさりと無視された後話し掛けられたのだけど、直球に先輩ともっと仲良くなりたいから今日から毎日一緒に帰りませんか? なんて言われて……うう、思い出しちゃってまた恥ずかしくなっちゃった。

 勿論それは私も望むところで、でも恥ずかしくて少し頷くのが遅くなっちゃったのだけど、……田中君は恥ずかしくないのかな?


「ねぇ、田中君って今まで付き合った事とかあるの?」


 不思議に思っていたのでそう聞いてみる。

 付き合ってたと言われると……多分ショックを受けそうだけど、これだけ慣れているのならそっちの方が納得出来る気がするし。

 と、苦笑いを浮かべて首を横に振る田中君。


「いいえ、付き合った事はないですよ。

 何でそんな事を思ったんですか?」


「だって、何だか余裕じゃない」


 そう言う意図はないはずなのに、どこか拗ねたように言ってしまう。

 と、心外だと言う様なリアクションをする田中君。


「余裕なんてないですよ。今だって物凄いドキドキしてますし、一緒に帰るのを誘った時だって緊張しまくってたんですから」


「えー、でも堂々としてたじゃない」


 そう言えば真剣な眼差しを向けてくる田中君。

 もう、絶対私の方がドキドキしてるよ。


「だって、本心を口にしているだけですから。

 勿論恥ずかしいって気持ちは僕だってありますよ? でも、僕は気持ちを伝えられず後悔するよりちゃんと気持ちを伝えたいって思うんです。

 だから、南先輩ともっと仲良くなりたいし、一緒にいたいって思ったんです。

 その……ですから……えっと……仲良くして下さいね?」


 絶対嘘! 余裕なんでしょっと思いながら、それでもやっぱりドキドキして聞いていると途中からポンっと音を立てたように顔を真っ赤にして、視線を彷徨わせ照れたように笑みを浮かべつつ頬をかく田中君。

 どうしよう、男の子にこう思っちゃうのは失礼かもしれないけどとっても可愛い。

 それに、本当に彼も緊張しているのだなぁって実感出来て、だから安心も出来て自然に笑顔を浮かべれる。


「うん、勿論。

 私こそ宜しくね」


「うぁっ、先輩それずるいです」


 何故かそんな事を言われちゃう。


「むー、ずるいのは田中君の方なのに、私はずるくないもーん」


「ええー、僕がずるいって訳が分かんないんですけど」


「ずるいのはずるいの!」


 困った表情を浮かべる田中君にクスクス笑いながらそう言い切る。

 ああ、何だろう。こういうやり取りって憧れていたのだけど、実際やってみるとこんなに幸せなんだね。

 そのまま上機嫌に話す私にこの前のように聞き手に徹してくれる田中君。

 それが凄く嬉しくて、どんどん好きになっていっちゃう。

 明美達には理想を作りすぎてて実際には幻滅しちゃうかもねなんて言われていたのだけど、そんな事は全くないどころか私の想像よりもっと素敵だよって伝えたいな。




 そのまま舞い上がったまま家に帰り着いたのだけど、見事にお母さんに見つかって食事中に根掘り葉掘り聞かれてしまう。

 うう、恥ずかしい。


「はー、何だか。田中君って凄い子ね。

 年頃の男の子って、いや、男の人ってはっきり言うの苦手だったりする人が多いって言うのに、そこまでしっかり気持ちを伝えてくるなんて。

 愛されてるわねー」


 しみじみ言うお母さんに、益々心臓が高鳴っていく。


「もう良いよね、私部屋に戻って勉強する!」


「えー。もうちょっと良いじゃないー」


「知らない!」


 恥ずかしすぎて居た堪れなくて、だからクスクスとからかうように言葉を紡いだお母さんに強い口調で返してしまう。

 ただ、全てお見通しっぽくて、益々嬉しそうに笑うお母さん。

 むぅ、お母さんが笑顔になってくれるのは嬉しいけど、これはちょっと慣れるまで時間が掛かるかも。

 とっても恥ずかしいもん。


 そのまま机に向かったのだけど、思うように勉強ははかどらず悶えてしまう私。

 うう、もうすぐ試験もあるんだし、切り替えは大事だよね。

 何とか頑張ってそう思うし、ペンを走らせている間は大丈夫なんだけど、やっぱりふと息を付いた瞬間恥ずかしさがこみ上げたり田中君の事を考えちゃったりしちゃう。

 あーもー、まさかこう言う落とし穴があるなんて思いもしなかったよー。


 と、携帯電話が震えてメールが届いたことを知らせてくる。

 集中できてなかったしと手にとってみれば、田中君からのメールでドキドキしてしまう。

 中身を見れば勉強ははかどっていますか? もうすぐ試験ですしお互い頑張りましょうねと綴られていた。

 そっか、田中君も頑張っているんだ。

 そう思えば今度は自然と集中出来て、切りの良い時間まで黙々と勉強した後、私って本当に単純だなと思いつつベッドに向かう。


 あれ? そう言えばお父さん帰ってきてないのかな?

 それに気づいたのだけど、多分勉強していた私に気遣って声を掛けなかったのだと思う。

 じゃぁ、寝る前に挨拶くらいしなきゃね。

 まだ寝る時間じゃないだろうし、リビングへと向かうとお父さんもお母さんもそこに居た。

 今日はお父さんの情緒も安定していたようで、労いの言葉を貰いつつお休みの挨拶を交わして部屋に戻る。


 うん、今日は幸せな1日だったな。

 毎日続けば良いなぁ。

 そんな事を思いながらゆっくりと眠りに就くことが出来た。



 数日はそんな感じで舞い上がっていられたのだけど……ある日元気よくただいまと言いながら扉を開けたらお父さんがお母さんの頬を張って、お母さんが床にへたりこんでしまい。

 私は冷水を浴びせられたかのようにその場に固まってしまう。


 すぐに正気に戻ったお父さんは、涙を零しながらお母さんに謝り。

 お母さんも良いのよとお父さんに言っていたのだけど、私は物凄く怖くなった。


 何とか取り繕おうとしたのだけど、すぐに勉強すると言う名目で部屋に逃げ込む。

 ……お父さんもお母さんも苦しんでいるのに、何で私こんなに舞い上がっちゃっていたんだろう?

 そう思えば、胸が苦しくて……思わず田中君の事を思い浮かべちゃったのだけど、でも、頼っちゃダメだと強く思う。


 これは私達家族の問題なんだし、他人を巻き込んではいけない問題だ。


 ほんと、何でこんな大事な問題があったのにあんなに能天気で居られたのだろう?

 雅也達の問題が私の中では一段落付いちゃったからかもしれないし、田中君が気持ちを素直にぶつけてきてくれたからかもしれない。


 ただ、何にしろこのまま浮かれているなんて、もう私には出来ない。


 ……私はどうしたら良いんだろう?


 その日は久しぶりに寝つきが悪くて、起きるのも物凄く苦労をした。

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