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少女の事情その8

 朝最近の中では驚く程すんなりと意識が覚醒する。

 目が覚めても体が重かったり、頭痛がしたり。眠れなかった日だって多かった事を考えると良い睡眠が取れたんだなって思う。

 それと、起きた時に殆ど忘れちゃったのだけど……とても幸せな夢を見ていたような気がして……、少し勿体無いなーって思っちゃった。


 起き上がってみると、体調も殆ど回復しているみたいで気分も上向いてくる。

 うん、これならまた頑張れそう。

 自然と笑みが浮かんでくる中、さぁ準備しなきゃと行動を始めた。




「おはよー」


「おはよー。あれ? なんか愛実顔色良くなってるね。

 それに……なんか良い事あった?」


 朝の挨拶を交わせば、早速明美にそう聞かれそんなに顔に出てるのかな? って思う。

 まぁ実際私にとっては素敵な出来事があったし、気持ちだって上向いてるから分かってしまうものなのかも。


「えへへー、昨日ちょっと、ね」


 昨日の出来事を思い返し、思わず少しだけ照れながらそう口にする。


「ああ、家庭の事情で休みだったって、お父さんの就職決まったの?」


 ある程度簡単に事情を話してある明美は、どこか嬉しそうにそう口にしたのだけど、それは違う訳で黙って首を横に振った。

 それを見て一瞬しまったと言う様な表情を浮かべた明美だけど、すぐに不思議そうに小首を傾げ口を開く。


「じゃぁ、なんだったの?」


「えっとね、実は昨日熱出しちゃってさ。用事が終わったら寝てたんだけど……田中君がお見舞いに来てくれたの」


「え? 何でお見舞い?

 ってか、愛実熱出してたの! や、でもそれだけ顔色良いならもう治ったのね。

 恋の力って偉大ねー」


 コロコロと表情を変え、最後にしみじみと言った明美に思わず顔が熱くなる。


「えっとね、実は一昨日家まで送って貰ったんだけど、その時体調良くなさそうに見えてどうしても心配で来たんだって。

 矢部君達といつの間にか仲良くなってて、それで休みなの聞いたみたいなの。

 勿論家庭の事情って聞いてたみたいだけど、無駄足ならそれに越した事はなかったからって」


 ちょこっとお話してる間に、私も不思議に思って聞いてみたら心配するようにそう口にした田中君。

 でも、実際体調崩していたのは嬉しくなかったですけどね。無理せずゆっくり休んで早く体調治して下さいねって言ってもらったの。

 と、田中君の事を思い出して少し顔が熱くなった気がする。

 それを見逃す明美じゃなくて、何故かジト目でこちらを見てきた。


「んー、色々言いたい事はあるのだけど……。

 うん、愛実が元気そうだし100歩譲って今回の件は水に流すわ。

 でも、その田中君とやら私達がしっかり見定めるから、ちゃんと紹介しなさいよ」


「見定めるって、田中君はいい人だよ」


「ダーメ。愛実はただでさえ人がいいのに、恋愛補正まで付いてたらどれだけ盲目になってるか分からないじゃない」


「そうそう、明らかに下心満載ですーって男相手にもいい人だねなんて言うし」


「うんうん、私達の愛実はそう簡単には渡せないわ!」


「ちょっと、麻子ちゃんに恵子ちゃんまで」


 突然会話に加わってくる仲良しメンバー。

 そのままワイワイと私達の愛美は渡さないんだからねと、なんでかその方向で盛り上がりを見せる皆。

 えっとね、出来れば私を置いてけぼりにして盛り上がらないで欲しいかな?





 お昼の時間今日は生徒会の集まりはなくて、久しぶりにいつものメンバーでご飯を食べようとなったところで宮城君がやって来て口を開く。


「おーい、南借りてって良いか?」


「えー、折角久しぶりに一緒にご飯食べようってのに。なんなのよ?」


 ニコニコといつものように笑顔を浮かべている宮城君に、不機嫌そうに答える明美。

 と、その笑顔がニヤッと彼にしては珍しい変化をした後、何故かこっそりと明美に耳打ちをする。

 聞いてて目を見開き、何故か満面の笑みで宮城君と握手をした。

 なんなのかな?


「じゃぁ、愛実。行くわよ。

 皆もほらほら」


「へ? えっと? どうして?」


「どうしてもなの」


 困惑する私をよそに、何故かお弁当も取り上げられちゃってそのままグイグイと楽しそうな明美に連れ出されちゃう。

 助けを求めようと他の皆を見てみると、なんでか宮城君と意味深に頷きあってたから多分無駄なんだと気付く。

 少しは説明してくれると嬉しいんだけどなぁ。

 そう思いながらも、大丈夫、悪い事じゃないからと言う宮城君の言葉を信じてされるがままになってみた。




 何故か途中で矢部君と宮城君と3人だけになって、明美達は見守ってるからねと先に食堂の中に入っていく。

 私のお弁当……。

 でも、見守ってるって何だろう?

 そう思っていると、予想だにしなかった人がやって来て思わず固まってしまう。


「あら? 南先輩も今日はご一緒なんですね?」


 不思議そうに口にした田中君。

 居ちゃ悪かったのかなと少し悲しくなり、でも明美達が見ている以上素直にそれを出すのも躊躇われて平静を頑張って装う。


「むぅ、それは私がお邪魔って事かしら?」


「いえいえ、とても嬉しいって事ですよ」


 失敗して拗ねたようになってしまったのだけど、本当に嬉しそうに言ってくれて思わず顔が熱くなる。


「珍しい、こうも堂々と口説く奴だとは思わなかったぞ」


「ほぇ?」


 矢部君の言葉に吃驚しちゃう。

 口説くだなんて……そうなの?


「うんうん、男らしくて実にいい。それに撃墜女王が拗ねるだなんて珍しいものが見れたし。

 田中、ありがとうな」


「べ、別に拗ねてなんかないもん」


 からかうような、かつ楽しそうな宮城君の言葉には思わずそう返しちゃう。


「3人とも仲が良いんですね」


「そりゃぁなんだかんだ2年以上付き合いがあるからな。

 こっちとしては南が田中に会いたいって言い出した方がビックリしたぞ」


 田中君の言葉にスムーズにそう返す矢部君。

 って、待って! 私そんな事言い出してないよ!

 そう思って宮城君を見れば物凄い悪い笑顔。か、確信犯だ……。


「そうそう、いつの間に仲良くなったのやら。

 まぁ俺は応援しているからな」


 しれっと言う宮城君。

 いや、応援は嬉しいし、田中君と会えたのも嬉しいのだけど、貴方絶対自分が楽しんでるよね?


「あのー……」


「ああ。はいはい、それじゃぁお邪魔虫は退散しますから頑張って」


「ちょっ、違うんだからね」


 1言言いたくて口を開いたのに、絶妙のタイミングで言葉を返してくる宮城君。

 慌ててそう口にしちゃったのだけど、矢部君がすぐに口を開く。


「照れる南も珍しいな。まぁ先に席を取っておくから話が済んだら合流しに来ればいい。

 拓哉行くぞ」


 ああん、矢部君多分本当の事情知らないのだろうけど、だからこそ何も言えなくなっちゃう。

 うう、確信犯め、ここまで織り込み済みだったのかしら?


 色々な感情が胸を埋める中、じっとこちらを見つめてくる田中君。

 そうか、何か私から喋りださないと。


「えっと、あのね。昨日お見舞いありがとう」


「いえいえ、好きで行ったんですから。元気になったようで何よりです」


 元々お礼を言いたかったし、丁度頭にも浮かんでくれたので口に出せば、実際嬉しそうに言ってくれる田中君。

 ああ、自然と私も笑顔になれる。


「うん、お陰様で元気になりました。

 あ、フルーツ美味しかったよ。ありがとうね」


「喜んでいただけたら良かったです。

 さぁ、それでは僕らも食べ物を貰って行きましょうか」


「うん、田中君は何食べるの?」


「僕は――」




 その後矢部君達とも合流して、皆で仲良くご飯を食べたのだけど。

 教室に戻る途中ニヤニヤととっても楽しそうな笑みを浮かべる明美達に掴まって、愛実途中で私らの事忘れてたでしょなんて図星を付かれちゃう。

 その後盛大にからかわれる事になっちゃうんだけど……ううー、宮城君め、覚えてなさいよー!

 そう思って視線を向ければ、しれっと田中と会えて良かっただろ? 今度から南も混ざれるんだし良かったな、なんて怒るのに困る事を言ってくる。

 私が微妙な表情を浮かべている事に気付いたのか、苦笑いを浮かべて宮城君はなおも言葉を重ねた。


「俺達嬉しい半面悔しいんだよ、南にとっては昔から気になってた人かもしれないけど、俺らにとっちゃぽっと現れた1年に美味しい所を持って行かれた様でさ。

 まっ、少しでも元気になったお祝いとでも受け取ってくれよ」


 その言葉に皆を見れば明美達からはギュッと抱きつかれ、矢部君はニコニコと微笑んでいた。

 ああ、どうしよう。凄い嬉しい。

 思わず涙が浮かんできて、でも心は物凄く温かくて。私の居場所はここにもちゃんとあったんだって、そう思えたの。

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