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少女の事情その5

 結局眠れずに1夜を過ごしてしまう。

 わぁ、バッチリ目の下にクマが出来ちゃってる。

 普段は殆どしないのだけど、体調が悪い時にやるようにお化粧で誤魔化す。


 お父さんは気が付かなかったようだけど、お母さんに心配そうに見送られちゃう。

 学校でも明美にすぐ気付かれちゃって、物凄い心配させちゃった。

 ちょっと夜更かししちゃってと誤魔化したんだけど、どれだけ信じてくれた事やら。

 でも、多分言いたい事は他にあっただろうにそれを飲み込んで誤魔化されてくれて。ただ、本当にきつかったら保健室行きなよとだけ言ってくれる。

 その優しさが胸にしみて、思わず涙が溢れちゃった。



 やっぱり体調が整っていないせいか、授業を受けるので精一杯。

 と、先生が雅也を呼びに来るけどいつものように居ない。

 困り顔の先生に訳を聞けば頼まれていた仕事を放棄しているみたいで、連れ戻してきますと申し出て探しに行く。

 今日も間宮ちゃんのところ居て、いつものように最初に何故か間宮ちゃんに物申したくなるのをそれは筋違いだからとグッと堪える。

 なんでか癖になっちゃってるみたいだし、気を付けないと。

 でも、雅也に向き直っても体調のせいかいつものように強気になれず、心が中途半端のまま言葉を掛けた。


「ねぇ、雅也! 貴方先生から頼まれてたプリント集めてないでしょ! 早く――」


「あーもう! いい加減にしてくれ!

 ピーピーうっせーんだよ! 今日こそは言い返すつもりだったが、最近マジでうるさい。

 目を釣り上げて怒鳴り散らして、さぞストレス発散出来てる事だろうよ」


 珍しく他の人は居なくて、間宮ちゃんと2人きりで話していたみたいだけど、眉間にシワを寄せ厳しい目付きで睨む雅也。

 今日は普通に話し掛けてしまったせいか、それに怯んで1歩下がってしまう。


「今な、珍しく邪魔者が居なくて翔子とゆっくり話してたんだ。

 邪魔すんな」


「で、でも、先生が呼んで――」


「知らねーよ! いちいちいちいちお前マジでうるせぇよ!!」


 益々激昂する雅也。

 と、周りの皆が雅也に同調するように口々に私を責め立てる。

 そりゃぁそうだ、いつも喚き散らしているのは私なのだから……。

 それに、間宮ちゃんに最初に何か言おうとするのもどうかと思うと言われれば、自覚があるだけに言葉を返せない。

 ふと間宮ちゃんを見れば、そんな中でニコニコとお人形さんの様に微笑んでいて……怖い。


「ご、ごめんなさい!」


 気付けばそう口にしていて、慌てて逃げるように踵を返した。

 足がもつれて転びそうになるけど、何とか転ぶ事はなくそのまま一心不乱に1人になれる場所を探す。

 泣くな泣くな、まだ泣くな!

 既に視界が歪んでいるけど、目に熱を持って溜まっている物が溢れないうちにどこかに入らないと――。


 階段を駆け上がっていると彼がいて、一瞬頭が真っ白になる。

 歪んだ視界でも気付けた訳だけど、すぐに今の自分を思い出せるきっかけにもなってすぐにもう1度駆け出し彼の横を通り抜けた。

 ああ、物凄い情けない姿を見られちゃった。

 恥ずかしい。


 ぐちゃぐちゃな心のまま走っていると明美の姿が見えて、そのまま抱きついてしまう。

 驚いた様子の明美だったけど、私の姿を見て察してくれたのか保健室に行こうと言って付き添ってくれた。

 保健室に着けば先生が私の顔を見るや優しく横になりなさいとすぐに言ってくれたので、よほど酷い顔をしていたのだろう。

 明美に後をお願いして先生の言葉に甘えてベッドに横になる。


 ああ、何もかも上手くいかない。

 私はどうしたら良いのかな?


 助けて……誰か助けて……。




 いつの間にか眠っていたようで、チャイムの音で起きれば最後のHR(ホームルーム)の時間になってしまったみたい。

 化粧が崩れて大変な事になっていたのだけど、先生が女の子は色々あるものねと化粧落としを貸してくれたので何とか落とす事は出来る。

 うん、クマもある程度は薄くなってるし、いつものようにすっぴんで大丈夫かな。

 頭痛は残っていたのだけど、ここに来る前よりだいぶ体調は良くなっていたので先生にお礼を言って自分の教室へと向かう。

 教室へと着けば丁度放課後を告げるチャイムが鳴り響き、そんな中で先生や皆に心配される。


 ああ、この後はいつものように生徒会に各代表の集まりがあるのだけど……憂鬱で仕方がない。

 雅也が居ても気まずいし、居なくてもやるせないし。また泣きそうになる弱気な自分を叱咤して生徒会室に向かった。


 案の定雅也は居なくて、どこかホッとしてしまう。

 そんな自分が嫌で……ああ、どうしよう、感情がぐちゃぐちゃ過ぎてもう訳が分からないよ。

 いつものように進まない会議を終え皆が心配そうな視線を向ける中、いつものように帰る前にとりあえず探してみるねとだけ告げて、返事も待たず逃げるように背を向ける。


 頭ではもう学校に残っている訳がないと分かっているのに、本当に何をやっているのだろう?

 何だか体は怠いし……心もバラバラになりそうで、自分が今ちゃんと歩けているのかすら不安になる。


 間宮ちゃんと一緒にいるならと1年生用の昇降口の方へと向かえば突然声を掛けられる。


「南先輩! ……ですよね」


 男子生徒の声に、これまで幾度か告白なんかされた事のある私は、こんな時にと思わず思ってしまい眉をひそめて視線を向けて――彼がいてそのまま固まってしまう。


「そう……だけど、貴方は……」


 混乱する頭で何とかそれだけを口にすれば、彼は余裕を持った様子で口を開く。


「あっ、すみません。自己紹介もしてないのに失礼でしたね。

 僕は田中 雄星と言います。

 あの、覚えてませんか? 先輩がその……泣いてた時すれ違ったんですけど」


 当たり前だけど覚えています。でも、言われて思わず息を飲んでしまう。

 そんな私に柔らかく微笑みつつ続ける田中君。


「実はそれがどうしても気になってしまって――」


「貴方には関係ない!」


 思わずそう怒鳴ってしまった。

 吐いてしまった言葉は当然戻せる訳もなくて、泣きたい気持ちになりながらも慌てて頭を下げる。


「あっ……ごめんなさい」


 感情のコントロールも全く出来てない。

 折角話し掛けてくれたのに、どうしよう。

 落ち込む私に、田中君は優しく言葉を再度掛けてくれる。


「先輩。僕は気にしていませんのでどうか頭を上げて下さい。

 寧ろ不躾に失礼な事を言ってしまってすみませんでした」


 ああ、やっぱり彼は素敵な人だ。突然怒鳴った人間にもこんなに優しくしてくれるなんて。

 だから尚更自分が恥ずかしくて、落ち着きを失ってしまう。


「そんな、私こそ怒鳴る必要なんてなかったのに」


「それじゃぁお互いなかったと言う事にしませんか?」


 何とか口にした言葉に茶目っ気たっぷりで返してくれる田中君。

 ああ、私に気負わせないように気遣ってくれているのだなぁ。


 それが物凄く胸にしみて、久しぶりに心が穏やかになるのを感じた。


「ではそう言う事で。

 後、先輩を呼び止めた理由ですが、会長達を探していらっしゃったんですよね?」


 言われてその目的を一瞬忘れてしまっていた事に気付いて、気まずい表情を浮かべつつ頷く。

 うう、いくら余裕がないとは言ってもこんな時に彼で頭が一杯になるなんて、私って実は物凄く単純なのかしら?


「実は僕は間宮さんと同じクラスなのですが、その……会長達とどこかに行くのを見かけたもので。

 なので、間違いなく校内には居ないですし、探す必要はないと思いますよ」


 そう言われれば、期待してはいなかったけど信じたくて……、でもその思いはまた裏切られたと言う事実に切なくなってしまう。


「そう、ありがとう。それじゃぁ私も帰るわ。

 君も……田中君も気をつけてね」


 もう私が校内をうろつく理由もなくなり、名残惜しいけど田中君とこれ以上一緒にいる理由もないのでそう口にした。


 だからこそ、彼が次に紡いだ言葉に驚いてしまう。


「先輩、もう遅いですし僕でよろしければ送ります」




 どどどどどど、どうしよう!?

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