表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/52

少女の事情その3

 放課後、自ら来ると言ったにも関わらず雅也は会議に来なかった。

 それに対して今まで我慢してきた事もあり不満を爆発させる皆を先生と何とか宥め、今日も何とか出来る範囲の話し合いを始める。

 とは言え、それは今までで充分してきている訳で、だからこそ雅也に出てきて欲しかったのだし、正直今日の会議は無駄と言っていい集まりになってしまう。


 各部に委員会の希望などのすり合わせを改めてした後、今度こそ雅也を連れてくると言う事で解散した。

 帰りに、流石に先生からも注意しておくと言ってもらい。よろしくお願いしますと答える。




 ……自分で言い出した事なのに、どうして?

 帰り道悲しい気持ちで疑問に思っていると、見知った女の子が前を塞いだ。


「……間宮ちゃん」


 彼女を見て胸がむずむずとしたのだけど、それはおかしいと強く思ったらすぐに四散する。

 うん、相手の事もよく知らず思い込むってダメだよね。

 そんな事を思っていると、彼女はどこか勝ち誇ったような顔で口を開く。


「ねぇ、南先輩。今のお気持ちはどうですか?

 貴方が何を企んでいるかは知りませんが、雅也先輩は傷つけさせませんから」


 キツい口調で言う彼女に、私は信じられない気持ちを抱いた。

 企むだなんて、どこまで誤解しているのだろう。


「そんな、私は何も企んでなんかいないよ」


「嘘よ! 私には貴方が嘘を付いている事くらい分かる!」


 何故か決め付ける間宮ちゃん。

 全然面識が無かったと言うのに何が分かるの言うのだろう?


「お願いだから話を聞いて! 貴方の誤解なのよ」


「誤解ですって? いいえ、そんな事ないわ。

 だって私は知っているんですもの」


「知っているって、何を知っているの?」


 強気な態度を崩さない間宮ちゃん。

 どうしてここまで強気なんだろうって思いそう口にする。


「ふふふ、そう、私は何でも知っているんだから」


 と、クスクスと意味深に笑う間宮ちゃん。

 全く答えになっていないそれに、流石に腹立たしい気持ちが湧き上がる。


「それ全然答えになってないよ!

 ねぇ、ちゃんと相手の事を見て話さないと分かんないでしょ!」


 気持ちのままそう言葉を放てば、今までと違い驚きを顕にする間宮ちゃん。

 もしかすればこのまま話を聞いてくれるかもしれないと思い、なおも言葉を重ねる。


「間宮ちゃん。決めつけちゃダメだよ。

 ちゃんと相手の話を聞いて、気持ちを聞かなきゃ」


「で、でも! あ、あんただって私を見ないじゃない!」


 言い聞かせるように言えば、急に激情を表に出す間宮ちゃん。

 何故そのように急変したのかは分からないけど、やっと彼女の本当の心に触れられた気がして、思わず笑みを浮かべてしまう。

 まぁ、こんな場面で微笑むなんて思わなかったようで、間宮ちゃんが怪訝な表情を浮かべちゃったけど。


「ううん、ちゃんと見るよ。

 でも、間宮ちゃんが隠しちゃったら何にも見えないよ。

 私は貴方の本当の思いが知りたいし、だから……お願い。見せて」


 私の言葉に瞳を揺らす間宮ちゃん。

 こう言う場合は急かさず、間宮ちゃんが自分から話してくれるのを待つべきだろう。

 そう思って、私は口を開けては閉めるを繰り返す間宮ちゃんに言葉を紡ぐ。


「大丈夫、焦らなくてもちゃんと聞くから。

 だから、お願いだから教えてちょうだい。

 その後は、私の話もちゃんと聞いて欲しいな」


 今度は俯く間宮ちゃん。

 後は彼女次第だとじっと待つ。




 どのくらい待っただろうか、決心が付いたのか間宮ちゃんが顔を上げる。

 その直後第3者の声が響いた。


「愛実。翔子に何をやっているんだ?」


 はっと振り返れば肩を上下させ、怒りを顕にしている雅也の姿が。

 彼はなおも私に言葉を放つ。


「涙まで浮かべさせて、そんな奴だとは思わなかったぞ!

 気に食わなかった奴には今までそんな事してきたのか!

 俺を散々弄んでいたのもこの為か!」


 いけない、勘違いしちゃってる。

 慌てて私も口を開く。


「違う! 間宮ちゃんとちゃんと話し合おうとしているだけだし、雅也だって大事な幼馴染だよ!」


「いつもそうだ! お前は中途半端に大事な幼馴染だって。そんな偽善が俺は昔から大嫌いだったんだ!!」


 雅也の叫びにまるで金縛りにあったかのようになってしまう。

 こちらを睨みつけているものの、どこか泣き出しそうで心が締め付けられる。


 そのまま沈黙が私達を包んだ後、最初に口を開いたのは雅也だった。


「……翔子、行こう」


 そう雅也が間宮ちゃんに手を差し出し、1度それを見て私に視線を向けてくる間宮ちゃん。


「ほら、翔子。そんな奴相手にする事ないぞ」


「で、でも……」


 まるで助けを求めるようにこちらを見つめてくる間宮ちゃん。

 雅也の叫びを受けて動けなかった私も、その姿を見たら何とか口だけは動かせた。


「お、お願い。ちゃんと話をさせて。

 雅也も間宮ちゃんも誤解しているよ」


 震える声で言ったものの、鋭い雅也の視線に思わず1歩下がってしまう。


「誤解? いいや、してないね。

 翔子が色々教えてくれたよ。なるほどと思ったね。

 それに、俺が今までどんな思いをしてきたか、お前こそ知らないじゃないか。

 だからこそさっきみたいな残酷な言葉を俺に吐けるんだろうしな」


 端々に怒りを滲ませた口調に、更にひるんでしまう。

 何とか首を横に振るのだけど、言葉が出てこない。

 間宮ちゃんを見れば、泣き出しそうな顔をしていた。


「もういい、頼むから俺を自由にさせてくれ。

 お前といるの疲れた」


 ふと、懇願するように口にした雅也に、だからこそ何も言えなくなってしまう。

 そのまま立ち尽くす私を残し、雅也は間宮ちゃんの手を取って連れて行く。

 1度こちらを振り返った間宮ちゃんだけど、結局はそのまま雅也と去っていった。



 私、ずっと雅也を苦しめていたの?

 答えを持っている人はもうこの場には居なくて、その疑問を胸に抱えたまま眠る事なんて出来なかった。





 翌日、姿はなかったのだけど休み時間の度にあった再三の呼び出しを無視したのだろう、お昼休みに入るやいなや生徒会顧問の先生が雅也の元にやって来る。


「真宮寺! お前何を考えているんだ!」


「何を考えているとは何の事で? 俺は忙しいんです。邪魔をしないで下さい」


 しれっと言い切った雅也に、先生が目を釣り上げたのが遠目で分かる。


「生徒会の仕事の事だ! お前の所為で全く何も進まないのは分かっているのか?

 しかも来ると言っておきながら来ない。呼び出しは無視をする。

 どう言うつもりだ!」


 かなりお怒りのようで、今にも手が出そうな雰囲気に皆固唾を飲んで見守る。

 と、失笑する雅也に唖然とする私達。


「はははは、どう言うつもりも真宮寺家の人間のつもりですが何か?」


 楽しそうに口にする雅也。

 ……自らの力ではどうしようもない時、本当に悔しそうにその名を口にする事は何度かあったのだけど、でも、こんな風にまるで見せつけるかのように口にしたのは久しぶりだった。

 高校入学したての頃もそんな感じになった事があるのだけど、あの時と同じようにどこかヤケになっているようにも思えてしまう。


 ただ、その場に居た全員が思った事だろう。暴君が再臨したと。

 入学当初、気に食わないと生徒だろうが教師だろうが辞めさせまくった雅也。

 1ヶ月ほどでそれも落ち着いたのだけど……、その間に暴君と言うあだ名が本人が居ない場所で定着し。それ以降力を使う事はなかったのだけど未だにそう呼ぶ人の方が多かった。

 あの時は何故だか分からなかったし、私の言う事も一切聞いてくれなくて悲しい思いをしたのだけど、今回は明らかに私が引き金なんだろう事が分かっているからこそなお悲しい。


 先生も顔を青ざめさせ口を塞ぐ、その姿を見て鼻を鳴らし用がないなら行きますと教室を出て行く雅也。

 重苦しい雰囲気に包まれたクラスは、しばらくの沈黙の後皆息を潜めるように行動を再開する。




 私のせいなら私が何とかしないと。たとえもっと嫌われる事になったとしても。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ