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少女の事情その2

 3年生の教室に今日もやって来た女の子……間宮 翔子ちゃん。

 そのバイタリティに純粋に凄いなぁとは思うのだけど、なんでか容姿が整ってて人気のある男子生徒数人に声を掛けているみたい。

 それなのに、他の誰が話し掛けたりしても物凄い素っ気ない感じ。

 だから、とっても可愛い子なのに3年生の間ではあまり評判は宜しくなくて。中には注意しようとした子もいるみたいだけど、雅也のお気に入りだと分かれば関わる事を止めたって話も聞いた。


「それにしても、あの子度胸があると言うか能天気と言うか。いろんな意味で凄いわ」


 小学校からの付き合いで親友の明美がそう零す。


「うん、行動力があるのって凄いよね」


 思ったままを返したら、なんでか呆れた様な視線を向けられる。

 あれ? なんで?


「そうやって愛実が何でも好意的に受け止めるの好きなんだけど、今回ばかりはちょっとどうかと思うわ」


「あっ、や、その明らかに見た目とかだけで態度をあれだけ変えるのは私もどうかと思うよ?

 ただ、自分の気持ちに素直に行動出来るのはやっぱり凄いなって思って」


 そう言えば溜息を吐き出される。


「確かに凄い事かもしれないけど、あれって完全に男漁りに来てるだけでしょう。

 同性として恥ずかしいと私は思うわ」


「でも、やっぱり気になる人に自分から声を掛けれるのって凄いと思うの」


 もう入学式から1週間も経つのに話し掛ける事も出来ずにいる私。

 色んな事情が重なってと言うのもあるのだけど、それでも彼女程行動力があれば話に行く事くらいは出来たかもしれないのにと思う。


 と、ニヤニヤとこちらを見つめる明美に気が付いて、恥ずかしくて思わず俯く。

 ううー、そんな顔するくらいなら口にしてくれれば良いのに。

 もう、本当に恥ずかしい。


 ただ、雅也が出席しない事により生徒会の活動が色々と滞り、その所為で休み時間も作業に追われているのは事実で、それをほっぽり出す真似は少なくとも私には出来ない。

 今年は雅也が生徒会長になり、真宮寺家の寄付のお陰で部費等色々融通が出来るのならば、生徒会長にもなった事だし真宮寺家の人間に融通出来る分の采配を任せようと言う学校の判断が完全に裏目に出ちゃった形だ。

 こんな事を思いたくはないのだけど、間宮ちゃんと出会う前の雅也なら問題なく対応出来ていた筈なのに。


 お陰で各委員長に部長の意見をまとめるのだけでてんてこ舞いな状態だ。

 しかも、雅也が出席しない以上最終的な判断を下せないままだし。

 救いは皆雅也の状況を知っていて、大事な備品が壊れた等緊急を要するもの以外は待ってもらえている事。

 緊急を要するものだけは、後で怒られても仕方ないと残ったメンバーと顧問の先生とで判断させて貰っている。

 だからか先生も現状に色々思うところがあるのだろう、先生方の会議で問題提議するとおっしゃっていた。


「まぁ状況によるでしょうよ。

 あんたはとてもそんな暇がないだけじゃない。

 ったく真宮寺はどうしたって言うのよ。いつもなら最低限の事くらいはしてたのに全部放置して、男漁りをする女に入れあげるだなんて」


 しばらくニヤニヤと私を見つめた後、不意に表情を変え呆れたように言い、忌々しそうに雅也と間宮ちゃんを睨む明美。

 うん、やっぱり怖がってちゃダメだよね。

 何より、それで皆が困っているんだし。


「そうだね。雅也がちゃんとする事をしてくれないから皆迷惑してるしね。

 でもそんな事言わないで。間宮ちゃんだって悪気はないんだろうし、雅也も人を好きになるのは自由じゃない。

 勿論、それで何もかもが許される訳じゃないし、ちゃんと私が言うから」


 そう口にすると、思いっきり溜息を吐いてから苦笑いを浮かべる明美。


「全く、本当に昔っから好んで貧乏クジを引きたがるんだから」


 そう言われて、私も苦笑いを浮かべてしまった。




 次の休み時間、意を決して雅也の元へ向かう。

 正直少し足が震えているのだけど……ええい、女は度胸よ!


「ねぇ雅也。少し話良いかしら?」


 そう口にしても無視して間宮ちゃんと話を続ける雅也。

 これは良くない。

 緊張して心臓がバクバクとなっているのだけど、大きな声を上げる。


「雅也! いい加減にして! 皆迷惑してるの分からないの!」


 私が大きな声を上げたからか、目を見開き驚きを顕にしてこちらを向く雅也。

 間宮ちゃんは驚いた顔をした後、何やらにやっと笑ったのだけど、それよりも雅也が気を取り直す前にとそちらに集中する。


「ねぇ、雅也が会長として働いてくれないから色んな人が迷惑してるんだよ。

 それに、会長になったんだしやるべき事はちゃんとやるって言ってたじゃない。

 自分に嘘付くの?」


 必死にうったえれば瞳を揺らす雅也。

 口を開いて言葉を発する――前に間宮ちゃんが言葉を紡ぎ出す。


「そうやってまた真宮寺先輩を拘束する気なんですね。

 自由にしてあげて下さいって言ったじゃないですか」


 必死の形相に寧ろこちらが困惑してしまう。

 何を言っているのだろうこの子。


「真宮寺先輩。これが彼女の手口ですよ。

 そして、先輩の力を使って色々勝手をやり始めるんです。

 私分かるんです」


「あ、あの。間宮ちゃん! ちょっと落ち着いて!」


 物凄い勘違いをしているだろう事は分かったので、慌てて声を上げる。

 と、さっと雅也の陰に隠れる間宮ちゃん。


「なんで名乗ってもないのに私の名前を知ってるんですか!

 ほら、言ったでしょ。影で真宮寺先輩に近づこうとしている女を牽制しているって。

 これが証拠です」


 待って待って! 貴方だって私の名前を名乗る前から知っていたでしょう?

 もしかして自分が噂されているって気が付いていない?

 と言うか、影で女の子を牽制してるとか、逆にされた事はあってもした事ないよ!


 完全に予想外の展開について行けず混乱し、その場に固まってしまう私。


 と、いつの間にか雅也がこちらを睨んでいて口を開く。


「分かったよ、お前のやり口が。

 本当に嫌な女だなお前」


 かぁっと頭に血が上ったのが分かったのだけど、言葉は出てくる事はなくて。落ち着かなきゃと深呼吸する。

 よし、少し落ち着いた。


「私が嫌な女で良いよ。だけど、お願いだからいい加減会議には出て。

 雅也が最終的な権限持っている事覚えているでしょ? 本当は決まってなきゃいけない事がまだ決まってないの」


 そう口にすると、何故か勝ち誇ったような顔をする間宮ちゃんと、苦虫を噛み潰したかのような顔になる雅也。


「……分かった。今日の放課後は出る。

 だから、もう話し掛けんな」


 そう吐き捨てて間宮ちゃんの手を握って教室から出て行く雅也。

 その姿を見届けると、緊張から解放された安心感からかその場に座り込んでしまう私。


 クラスの皆は何だあれと憤り、私を慰めてくれた。

 本当に訳が分からない。

 訳が分からないんだけど……間宮ちゃんも雅也も勘違いしちゃっている事にきっと違いないと思う。

 皆は絶対関わらないって決めちゃったみたいだし……うん、じゃぁ勘違いさせた原因っぽい私が何とかしなきゃ。


 そう心に決意したのだけど、ふと明美が……いや、周りの皆が物凄い心配そうにこちらを見ている事に気が付く。


「大丈夫だよ、皆心配しないで。

 それに、ちゃんと誤解を解けばきっと大丈夫だから」


「愛実……あんたのお人よしも筋金入りねぇ……。

 ったく、好きにしなさい。でも、真宮寺が絡む以上あまり助けれないかもしれないけど、私達はあんたの味方だからね。

 ねぇ! 皆!」


 明美が代表するかのように口にし、皆が頷いてくれる。

 どうしよう、嬉しくて、な、涙が出ちゃいそう。

 そんな私は何とかありがとうと口にするので精一杯だった。




 さぁ、これが終わって一段落したら、今度こそ彼に会いに行こう。

 頑張らなきゃね!

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