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傍観その21

 3人とも肩で息をする中、にわかに緊張感が高かまる。

 間宮は振り乱した髪を直す事もなく、こちらを――愛実先輩を睨みつけている。

 ならば俺が前に出ようと踏み出そうとしたところで愛実先輩が振り返り、まるで任せてと言う様に頷く。


 流石にすぐには頷き返す事は出来なくて……でも、真剣な表情の愛美先輩に最終的に折れる。

 頷き返せばふわっと一瞬嬉しそうに微笑んでくれて、でも、すぐ真剣な表情を浮かべて間宮へと向き直る愛実先輩。

 勿論任せるとは言え何かあれば飛び出せるよう準備はしておく。

 直後口を開いたのは愛実先輩ではなく間宮だった。


「なによなによなによなによ!! そんな通じ合ってますみたいな有り得ない!!

 モブキャラの癖に!! ライバルキャラの癖にぃぃぃぃいいいいい!!」


 まるで駄々っ子のように癇癪を起こして愛実先輩につかみ掛かろうとする間宮。

 勿論準備が出来ていた俺は飛び込んで――飛び込もうとしたら先に愛実先輩が踏み込み強烈なビンタを間宮にかます。

 完全に予想外の出来事に固まる俺に、腰でも抜けたのかへたりこんで頬を押さえ呆然と愛実先輩を見つめる間宮。


「ねぇ? 痛い? ゲームなら痛みなんか感じないよね?

 私だって痛いよ。傷ついたよ。ゲームのキャラだから何でもしていいって思ってたの?

 皆ちゃんと生きているんだよ? 何で皆をちゃんと見ないの?」


 淡々と語り始める愛実先輩。

 その表情はどうなっているのだろう? ただ後ろ姿を見つめる俺には判断出来なかった。

 それでも、間宮が更に驚きの表情になったから何かしら変化はあったとうかがえる。


「だ、だって……だって誰も私を見てくれないんだもん……」


 まるで憑き物が落ちたかのように、半ば呆然としながら口にした間宮に愛実先輩が近づきながら言葉を紡ぐ。


「そう。でも、今私は貴方を。間宮 翔子を見ているわ」


「違うもん! 貴方も間宮 翔子を見てるだけで私を見てないもん!

 皆そう!! 私を……ち、近寄らないで!!」


 まるで子供のように返す間宮に、愛実先輩は尚も近づく。

 もう手が届く距離までくれば、さっきのビンタのイメージが思い起こされたのか怯える間宮。

 無論、腰が抜けている状態じゃ体を仰け反らせるだけで精一杯だったようだが、愛実先輩はそれでも尚も近づいて――ギュッとその体を抱きしめた。


「……大丈夫。大丈夫だよ。ちゃんと貴方を見るから。

 だから、……大丈夫」


「あっ……」


 優しくあやすように言う愛実先輩。

 間宮は吐息を漏らしたかと思うと、すぐに目に一杯に涙を溜め、まるで子供のように大声を上げて泣き出した。


 うん、俺どうしたら良いのだろう? 最早下手に手を出せない状況だし。完全に空気になるべきだとは分かるが、切ない。

 と、流石にこれだけ大声で泣き叫べば場所も分かると言うものだろう、続々と校長室に居た面々が到着し、皆に入ってこないようにジェスチャーを送る。

 何故このような状況になっているか分かっていない皆は、俺以上に困惑した様子を見せた後、どうやら俺のジェスチャーの意味を察してくれたようで教室の外に待機してくれるようだ。


 どのくらい経っただろう、間宮が己の中に溜まった何かを吐き出すように泣き声をあげる間ずっと抱きしめ頭を撫で、優しく声をかけ続けた愛実先輩。

 散々泣いて落ち着いたのか、徐々に静かになった後間宮はゆっくりと喋りだした。


「あのね……私ね……前世の記憶があるの。

 でね……私、何でも皆より出来て、でも、なんでか皆私と距離をおいて……。

 本当はね、別に特別何でも出来る訳じゃないんだよって、言いたくて。

 でも、皆もう私の事聞いてくれなくて、見てくれなくなって。

 前世でね、11歳だったんだ。体弱くて、でもお父さんもお母さんも愛してくれて幸せで。

 なのに、お父さんもお母さんも仕事ばかり。

 ずっと寂しくて、でも、高校に来たら前世でね、最後にお父さんに買ってもらったゲームで。友達がね、これが凄い面白いって言ってくれて。

 前世もね全然学校行けなかったから、話したくてずっとやってたんだ。

 高校入ったらその世界で……運命なんだって。私、やっと自分を見てもらえるんだって。

 でも、どうしたら良いか分かんなくて。ゲーム通り行動したら皆私を構ってくれたけど……でも、ある時気付いたの。皆ゲームの間宮 翔子を見てるだけで私を見てないって。

 だから、でも、……愛実ちゃんがね、いつもなんか本当に私を見つめてくれてるようで、でも、口では何にも言ってくれなくて。

 悔しくて……寂しくて……やっと見てくれたと思ったらどっか行っちゃうし。皆は相変わらずだし。私が何をやっても怒ってくれないし」


 支離滅裂で意味不明な言葉羅列。でも、間違いなく心に浮かんだ本音を、その断片をただただ間宮は口に零しているのだろう。

 それを面倒くさがらず全てに相槌を打つ愛実先輩。


 と言うか、11歳か。……生まれた時からその記憶があったか、物心付く頃あったのかは分からないが、全能感は半端じゃなかっただろうし、同時に物凄く孤独だったのだろうな。

 多分俺以外……いや、愛実先輩も本気で聞いているかもしれない。だけど、俺も間宮が話している事が真実だと思える。

 きっと精神も壊れない為に守りに入って成長出来なかったのだろう。

 歪なままここまで来てしまって、だからこそあんな真似をずっとやって来たって訳か。

 思うところは色々あるし、言いたい事は山ほどあるのだが……ここは全て愛実先輩に託そう。


「うん、大丈夫。私達はまだまだ子供だよ? 友達だってこれからいっぱい作ればいいよ。

 お父さんお母さんに今から寂しかったって伝えればいいよ。

 大丈夫。皆、本当の貴方を見るから」


 優しい響きの声に、幼い表情で本当と聞く間宮。

 それに頷き更に愛実先輩は言葉を重ねる。


「だからね、先ずはごめんなさいしよう。

 迷惑を掛けた皆に。

 勿論皆許してくれるって無責任な事は言えないけれど。大丈夫、私が付いているから。だから、ちゃんと謝ろうね」


 先輩の言葉にそのままうんと声に出して頷く間宮。

 そのまま立ち上がり、先ずは愛実先輩に頭を深く下げる。


「南……愛実先輩。ごめんなさい」


「うん、許す」


 にっこり笑みを浮かべて答えた愛実先輩に、ぱっと落ち込みまくった表情から喜色を浮かべ腕に抱きつく。

 ってかそこは俺の場所だ。こんな雰囲気じゃぁ言えないけどしっかり後で言い聞かせねば。


 なんて思いつつ見ていれば、俺と目が合うや否や真面目な顔になり深々と頭を下げる間宮。


「田中……雄星君。ごめんなさい」


「……愛実先輩が許した以上俺も許すさ。

 今後気を付ければいい。なんたって俺達はまだまだ子供で未熟なんだからさ」


 俺の言葉が意外だったのか、目を見開く間宮。

 そりゃぁ複雑な気持ちだが、言葉にした通り愛実先輩が許した以上俺が怒る理由の大半が消えてしまうし。多分俺の友人も先輩達だって許してしまうような気がする。

 ならば、許さない訳にはいかないと思うし、何より実際にまだまだ子供で未熟なんだ。失敗としてはいささか大きすぎるかもしれないが、取り返しが付かない所までは来てないだろう。


 そのまま全員の名前を言いながら頭を下げていく間宮。

 会長達はどうやら校長室から出て来ていないようで、その事実に気付いた時間宮が泣きそうな顔を浮かべたが、ずっと隣にいた愛実先輩がキュッと手を繋いだ事により弱々しくも笑みを浮かべていた。

 俺は……勿論間宮とは逆側の愛実先輩の横で、手を繋げる雰囲気でもないのでひたすら我慢して付いて回ったけどな。うん、多分ずっと仏頂面だったと自分でも思う。


 1つ意外な事に、間宮は何と全校生徒の名前を覚えていて、全員の名前を言いながら謝罪していったのだ。

 何々キャラだと口にしながらも、本当に飢えていたのだろうな。

 それに感激する奴もいたし、笑って許す人も、困惑する人も……無視する人も今更何をと憤る人も色々居た。

 それでも、全員に謝り続け、最終的に会長達にも謝りそれを見届けた校長が退学ではなく反省文と1週間の停学処分のみに留める処分を下す。

 多分1週間の停学は寧ろ親と話す時間を作る為だと思う。

 なんかそんな気がした。


 そして、会長達は……複雑そうな顔で結局何も口にする事はなかった。

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[良い点] やはり小学生だなー
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