傍観その16
同時に喚いているが故に何を言ってるのか、何が言いたいのかさっぱり分からない間宮達。
と言うか、さっき流れるように1人ずつ喋っていったのは何だったのだろう。
偶々と言う事か。
が、相手の方が人数が多いとやはりそれだけでも十分威圧感はあり、もし俺1人なら怯んでいたかもしれない。
ジリジリと詰め寄られれば、思わず下がりたいと心のどこかで思ってしまう。
それでも俺の前に立つ宮城先輩の姿に勇気を貰う。何より後ろに庇っている南先輩の為にもみっともない姿は晒せない。
格好つけると面と向かって言った事もあるんだ。有言実行でここは男を見せるところだろう。
俺の肩に乗せている南先輩の手の上に自分の手を重ね、必ず守りますと言う思いを込めてほどほどの力で握り込む。
「1人ずつ喋ろよ。お前等はどうかしらんが、俺は同時に喋られて同時に対応出来るほど器用じゃないんでね。
ああ、でもそれすら分からないのならお前等は俺以下か。すまんすまん」
煽るような宮城先輩の口調。
苛立ちを伴ったそれは動揺で震えたような物ではなく、実に堂々とした響きを伴っていた。
それを受け一瞬黙り直後目を向く男達。が、1人だけ余裕を持ったままだった為先んじて口を開く。
「はん、いきがるのは良いがお前の親父、明日も仕事があると良いな」
バ会長の言葉に押し黙る宮城先輩。
他はともかくやはりこいつを何とかしないとダメだ。
どいつもそれなりの家柄とは言え、奴だけ突出しているし、それ故に別にゲームとは違い特別な権力がある訳でもない生徒会で、奴だけはゲームと同等かそれ以上の権力を使っているように思える。
正直小物臭しかしないのに、その所為でより厄介な相手になろうとは。
「そこまで! 何の騒ぎか分からないがもう休み時間も終わるぞ」
悔しい思いを胸にしたところでそんな声が響く。
どうやら矢部先輩が追いついたようで、肩で息をしている。
直後林も現れ……うん、キツそうだな。ありがとう、俺に教えてくれた時も急いでくれたみたいだし、改めて大事な友人だと再確認したよ。
「ねぇ、時間が来たのなら戻りましょう。こんな人達の為に遅れる必要はないと思うわ。
それに、十分反省しただろうしね」
突如会長達ににこやかな笑みを見せる間宮。
ああ、ダメだ。最早この女に対して良い感情を抱けれる事はないだろう。
翔子が言うならと会長達も間宮とともに去って行く。
ふと間宮がこちらを振り返ったのだが、まるで勝ち誇ったかのような表情を浮かべ俺を――いや、後ろにいる先輩を見下したようだった。
なるほど、矢部先輩こそ元々攻略キャラだしタメを張るが、俺も林も容姿は並だし、宮城先輩もイケメンとは言え容姿のみなら攻略キャラ達に比べれは劣るだろう、つまり周りの男の容姿のレベルのみで南先輩を見下したって訳か。
ふむふむ、俺の大事な友人に先輩を外面だけで決めつけた上、愛しい人を見下したか。
はははは、元から敵認定は済んでいたのだが、もう誰が許そうと俺を諭そうとお前を許す事はないと断言出来るぞ。
俺の大事な人達を傷つけ怒らせた報い、必ず受けさせてやるからな。
心の中でどす黒い何かが湧き上がるのを自覚しながら、そんな些細な事より南先輩に改めて声を掛ける。
「先輩、駆けつけるのが遅くなってしまって本当にすみませんでした」
「ううん、ううん。来てくれて……ありがとう」
泣き出しそうな南先輩、その姿が胸を突き、さっきまでの感情などどこかにいって気付けば再び抱き締めていた。
加減をと思うものの、どうしても力が入りすぎている気がするからきっと痛いくらいだろう、だが、それでも南先輩も力強く抱き締めてくれて……矢部先輩達が何も言わない事を良い事にしばらく抱きしめ合う。
とうに鐘は鳴っていたので、先生には怒られるだろうが、そんな事知ったこっちゃないし、甘んじでお叱りは受けるつもりだ。
だから、今は……せめて南先輩の心が少しでも落ち着くまでは離すつもりはなかった。
「いやー、見せつけてくれるねー」
プシュッと缶コーラの蓋を開けながら宮城先輩が口にする。
「全くだ。思わず僕も彼女が欲しくなったよ」
にこやかに話す矢部先輩。何気にこのままサボってしまおうと言いだしたのはこの人だ。
間違いなくゲームと比べれば柔軟な人になってるよな。良い事だと少なくとも俺はそう思う。
「ほんとですよね。いよっ、このバカップル!」
茶化すように、でも嬉しそうに言ってくれる林。
そして、皆の言葉に恥ずかしそうにうつむく南先輩。
でも、こっそり俺の腕の裾部分を掴んで離さないのがなお可愛らしくて、愛おしさが更に湧き上がってくる。
「宮城先輩。矢部先輩。林も皆……皆本当に……本当にありがとうございました」
同時に感情に突き動かされるまま、深く頭を下げる。
なんだろう、こう思うのは癪で仕方がないのだが、それでも間宮達とのやり取りがあったからこそより絆が深まった。
そんな気がする。
「いやー、なんか無駄に大人びてて可愛くない面も多い田中にそこまで感謝されると照れるわな」
最初に口を開いたのは宮城先輩で、どこか照れ隠しのように言う。
実際少し照れているのか少し頬が赤くなっている。
なるほど、ハイスペックイケメンはギャップまできちんと網羅していると言う事か。
「まぁ、友達だからな」
どこか軽い感じで言う林。ああ、なんだろう、この安心できる雰囲気がつい色々喋ってしまいたくなるのだろうな。
人の話を聞いて情報収集しているだけと言うのが、なんとなくだけど実感を感じられた。
「敬われると言う事は、困った時に助けになってあげれる事。なのかもしれないな。
まぁ、つまりそう言う事だ」
クールメガネのクールはどこに消えたんですか? なんて無粋な事を一瞬考えてしまうものの、素敵な考え方には俺も同意する。
先輩だけは攻略キャラ達の中で唯一更に男前になってますよ。
そのまま穏やかで楽しい時間を過ごし、きっちりサボった事を教師達から絞られるのだが、それすら幸せだと感じられた。
南先輩だけでなく、一緒に帰れる所まで皆で楽しく帰路に付き、何と俺だけ逆方向だったという悲しい現実も知らされちょこっとだけ凹んだ後、まぁ今は実家からだから同じ方向だし良しとしとこうと開き直る。
さて、南先輩を送り届けたし、家まではまだあるから少し気になる点を考えておくか。
間宮達どいつにも言えるのだが、キャラ崩壊が進みすぎていてとんでもない事になっているように感じる。
会長も俺様とは言えもう少し周りが見れたはずだし、風紀委員長は自分にも厳しかったはずだ。ヤンキーはズレているだけで気遣いが出来ない訳ではないし、教師も遥かに自重して自責の念も持っていた。幼馴染もワンコ系無害キャラが基本のはずだが……そうか、根本的に間宮がゲームのヒロインと違いすぎるからかもしれない。
何をどう考えても人の不幸を見て悲しみ、人の幸せを見て共に喜べるような人間じゃない。
そう、あれは人の不幸を見て悦び、人の幸せを見れば嫉妬し妬み悔しがるような人間だ。
もしかするとここまで断言するほどの人間じゃないのかもしれない。が、少なくとも今の俺にはそうとしか思えないし、よほどの事でもない限りこの考えは変われないだろう。
道を違えない方法もあったのかもしれない。俺が傍観ではなく関わり合いを持ちに行ってたら変えられたのかもしれない。
が、過ぎた事を悔やんでも仕方がないし、何よりこの道を選んだのは間宮な訳だ。
全く見知らぬ、ただもしかするとこの世界がゲームの世界と似てると言う知識だけが共通点の相手に、少なくとも何かしてあげる義理も理由も俺にはないとしか思えないし、それがなくて何かするほどお人よしでもなければ間宮に魅力を感じる事もなかった。
つまり、間宮が変わらない以上今は全て必然だったとも言えるのかもしれない。
さて、今まで南先輩が関わる事以外には基本的に傍観を貫いてきたが……最早そんな事をやっている場合でもないな。
場合によっては直接的な対応も必要だろう。が、やはり自分の責任は自分で取ってもらわないとなと思う。
忠告は散々南先輩がしてあげているのだし、ならば躊躇する必要もないな。