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傍観その12

「それで、話したい事ってなんだね?」


 軽く自己紹介を終えた後、浩一さんがそう聞いてくる。

 穏やかな雰囲気から、この姿が本来の姿なのだろうと思う。


「……話し難い事かもしれませんが、以前お仕事なさっていた時の事を話して頂ければと思います」


 色々考えたのだが、さっきまでやり取りを経てならば、回りくどいことは必要ないだろうと単刀直入に口を開く。

 苦々しい顔になるかもと思っていたのだが、目を見開いて驚きの顔を作る浩一さん。


「おや、てっきり愛実の事に付いての話しかと思ったのだが。

 付き合ってるのだろう?」


「お父さん!」


 俺が返事をする前に慌てたように奥から先輩が声を上げる。

 それに思わず苦笑いを浮かべながら口を開く。


「僕は付き合いたいと思っているのですが、実は告白すらまだでして。

 勿論真剣な気持ちなのですが、まだ気持ちを伝えるべきではないと思っていましたから」


 再び目を丸くする浩一さんと、あらまぁとどこか嬉しそうに微笑む幸子さん。

 先輩は顔を赤くして口をパクパクさせている。可愛い。


「なら、何故そんな正直に……」


「それは、先輩と真剣にお付き合いをする為です。

 僕は付き合うならちゃんと結婚を見据えて付き合いたいと思っています。

 子供が何を青臭い事をとお思いになるかもしれませんが、僕なりに考えているつもりですし、だからこそ何か僕が力になれないかと思うんです。

 偽善とかではなく、単純に先輩が欲しいからと言う気持ちがあるんです。

 ですから、僕の話を聞いて頂けませんか?」


 押し黙る浩一さんと幸子さん。

 南先輩は……ああ、なんか物凄い表現し難い表情をしているな。


 どのくらい沈黙が流れたか、自分の感覚ではとても長い気がしたが、緊張している為実際はそんなに長くなかったのかもしれない。

 幸いな事に最終的に浩一さんは頷いてくれた。


「分かった。聞かせてくれないか?」


「はい、ありがとうございます」


 思わず笑みが溢れる。

 良かった、首を横に振られたらどうしようかと……正直ここで畳み掛けておかないと、今後先輩と顔を合わせ難い状態に陥ったかもしれないからな。

 だが、気を緩める訳にはいかないので、改めて気を引き締めつつ言葉を選ぶ。


「僕は結婚とは家と家との結びつきだと考えています。

 勿論当人同士の気持ちも大事だと思いますけど、だからこそ一番身近に育ててくれた人、育った人皆の気持ちを無視するのは違うのじゃないかと。

 そう言う意味で考えると、好きな人の家庭が困っているのなら助けたいと思うのも僕の中では自然な流れでした。

 確かに人様の家庭に首を突っ込むのは宜しくないでしょうし、学生という身分の僕がどれだけ覚悟しても足りないのかもしれません。

 それでも、部外者でまだ子供な僕でも何か少しでも力になれる事があるんじゃないかと散々考え、こうやって出しゃばらせて貰ったのです。

 勿論未来の事なんて分かりませんし、世の中永遠と思っている気持ちも変わる事だってあるのでしょう。

 でも、この想いを……すみません、支離滅裂になってますね。少し落ち着きます」


 選ぶとは言え、あくまでも自分の本当の気持ちを誤解せずに伝える為であり、だからこそ少しは真剣な思いは伝わったと思いたい。

 だが、いかんせん感情が先走りしすぎて自分でも言いたい事が言えているかわからなくなってしまう。

 くそっ、こんなにも頭が回らなくなるなんて、しっかりしろ俺。


 自分を叱咤しつつ、落ち着かせる為に深呼吸をしていると、浩一さんが語りかけてくる。


「君はなんだか難しい事を考えているのだね。

 その年らしくないと言うか、良く言えば大人びているだろうし悪く言えば生意気だろうか。

 ああ、大丈夫。真剣な思いはちゃんと伝わっているよ、寧ろ感心しているくらいだ。

 だから慌てなくて大丈夫、気を落ち着かせてゆっくり自分のペースで話しさない」


 生意気と言う言葉にショックを受けてしまうものの、穏やかに語られたそれにすぅっと力みが抜けていくのを感じる。

 ああ、これが年季の差って奴か。しみじみ自分の未熟差加減を実感するが、実際まだまだ若輩者なんだ、無理に背伸びしすぎずちゃんと地に足を付けて対応しよう。


「ありがとうございます。

 まぁ、要約すれば先輩と結婚したいからその問題を取り除きたいって事ですね。

 告白もする前から本人もいる前で言う事ではないんでしょうけど。

 ああ、先輩。ちゃんと告白は改めてしますので、待っていて下さると嬉しいです」


 最後に先輩に笑みを見せながら言えば、ぷいっとそっぽを向かれてしまう。

 いや、本気で凹むんだけど。頑張って表面に出ないようにしてるけど、間違いなくこわばってるよ。


 と、俺と先輩を交互に見ながらクスクスと微笑む浩一さんと幸子さん。

 うん、非常に恥ずかしい。


「ほんとぶっちゃけたなぁ。俺一応仮にも愛実の父親だぞ?

 いや、もうそこまで行くと小気味いいけどさ」


「本当ね。

 愛実も良かったじゃない。こんな素敵な彼氏がいて」


「ま、まだ付き合ってないもん!」


 恥ずかしがるように言う先輩。うん、きっとそうだ。と言うか、全力で否定しないでも……。

 内心でガックリと肩を落としつつも、まだちゃんと話しておくべき事はあるので口を開く。


「まぁ、これから先輩は全力で口説かせてもらうとして。

 浩一さん。単刀直入に言います。就職の件微力ながら力になれるかもしれません。

 勿論僕の力ではないので確約出来ませんし、完全に可能性の段階なのですが、実は僕の父はとても顔の広い人で、その伝手を頼れば何とかなるかもしれないんです。

 なので、先輩を安心して口説く為にも1度任せて貰えませんか?」


 再び目を見開いた後、苦笑いを浮かべられる。


「何と言うか、本当に突き抜けた子だなぁ。

 ……分かった。そこまで言ってくれるのならお願いしよう。

 この歳だと本当に就職先がなくてね。

 実は資格も大したものは持ってないんだ。前の職場では忙しさにかまけて実務は出来ているんだからと取らなくてね。

 正直後悔しかしていないよ」


「そうなんですか。是非その辺を詳しく教えて下さい。

 父に話す時も少しでも詳しい事を話せた方が良いですし」


 俺のともすれば自分勝手な願いを広い器で受け止めてくれた浩一さんに感謝の念は尽きない。

 無論、弱っている今だからこそと言うものもあるだろうが、初対面で年下の、それも娘を好きだなんて言っている男に頼るだなんて中々出来るものではないのだろう。

 多分出会った時のやり取りのお陰である程度の信用をして貰えたと言う事なのだろうが、ならばその信用に全力で応えなければなるまい。


 1時間以上か、たっぷり語り合った後、最後はよろしく頼むと固い握手を交わす。

 もしかすると浩一さん本人の事ではなく、南先輩の事なのかもしれなかったが、本人でない以上本位は分からない。

 ただ、俺は俺に出来る事を全力でやるだけだ。

 どうせなら皆が笑顔を迎えれるに越した事はないだろうからな。




「今日は……えっと、そのぉ……」


 いよいよ帰る時、ご両親が気を利かせてくれたのか南先輩のみがわざわざ玄関の外までお見送りに来てくた。

 そのまま別れの挨拶――とはいかず何かを言いたそうに、でも言えずにいる先輩に思わず笑みを浮かべてしまう。


「先輩。今日はお邪魔しました。

 今日言った事は全て僕の本心ですが、ちゃんと全部解決して、その後先輩が僕との事を考えれる余裕を持った時に改めて告白しますので、返事はその時にお願いします」


 俺の言葉に先輩の瞳が揺れる。

 きっと何かを言わないとなんて思っているのだろう、だから更に言葉を重ねる。


「それにですね、今僕は格好付けている訳です。

 是非格好付けてる姿を見て惚れて下さい。これも口説いてる一環ですよ。

 ちゃんと口説かれて下さいね」


 勿論本心なのだが、わざと茶化すように言い軽い雰囲気になるようにする。

 目論見は見事に成功し、先輩の笑顔を引き出す事に成功する。


「もぅ。ずるいなぁ」


 ポツリと呟く先輩。

 直後にっこりと微笑みながら芝居がかったように言葉を告げる。


「うん、ちゃんと見ててあげようではないか」 


「はい、見てて下さいね」


「うん……それじゃぁ、気を付けて」


「はい。それではまた学校で」


 控えめに手を振られ、こちらも手を振り返す。

 先輩の姿が見えなくなるまで何度も振り返れば、家に戻らずずっとこちらを見つめてくれてて、その度に手を振り合う。

 なんだろう、凄くいいな。

 俺は物凄い達成感と幸福感とに包まれながら帰路に付く。



 さて、それじゃぁ強敵と戦いに行こうかね。

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