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傍観その8

 軽く雑談をした後帰ろうとしたのだが、寝てだいぶ調子も良くなったので玄関までお見送りをすると言い出した先輩。

 顔色はまだ少し悪いのだけど、そのくらいなら大丈夫のような感じだったので見送られる事にした。玄関までだしな。


 んー、結局家庭で何かあったのかは後で聞くしかないかな?

 少々期待外れ感を感じるのだが、まだまだちゃんと知り合って日数も少ないし、先ずはもっと仲良くなるのを優先するべきだろう。

 それに、先輩の愛らしい姿を見れたから全てを補って有り余るし。

 つい口元が綻んでしまっていたら、固定電話が鳴りだしたのか電話音が響き出す。


 と、ビクッと大げさに反応する先輩におやっと首を傾げる。

 普通電話が鳴ったくらいじゃこんな反応しないよな? まさか何かあるのか?


「先輩、どうかしましたか?」


「あっ……ううん、何でもないよ」


 ……明らかに何でもないって雰囲気じゃないんだけど。

 むぅ、しかし先輩に無理をさせる訳にも行くまい。ちゃんと復調して学校に出て来た時に改めて聞いてみよう。

 そう思ったからそうですかとだけ口にして歩を進める。


「あら? もう帰っちゃうの?」


 丁度靴を履き終えたところでお姉さ……お母さんが丁度扉を開いて姿を表す。


「ええ、お見舞いですし、長居は無用でしょう。

 お邪魔しました」


 頭を下げつつ、俺と先輩に気付くまで表情が暗かった事に頭を働かせる。

 多分何かある、が、まだ今は聞くべきではないだろう。どう考えても家庭の事情に首を突っ込むのなら、最低でも相応に親しくなるまでは止めておくべきだろうし、それでもたかが学生の俺に話そうとご両親が思うのは難しいものがあると思うから。

 実際、話を聞いたところで全く力になれない可能性だってなきにしもあらずなんだ。手札はなくはないとは言え、確実に使える訳じゃないと言う以上最初から宛にしてはいけないとも思う。

 少なくとも先輩から信頼を得て、愚痴だけでもいいから聞いて心を軽くしてあげられればと決意を新たにする。


 2人と笑顔を交わして見送ってもらったのだが、帰り道でもどうするべきか、何が出来るかを必死に考える。

 俺に出来る事……色々思いつくが、ゲームの知識を活かさない手はないだろう。

 思い出せる全ての事に手を出す必要は感じないが、先輩が巻き込まれそうな場合は黙って傍観を続けている場合ではない。

 巻き込まれそうな可能性が高いイベントも幾つか思い出したし、ならばそもそもそんな事態が起こらないよう行動も起こしておくべきか。

 幸いにして矢部先輩と宮城先輩の助力を得られそうだから、遠慮せずに積極的に頼っていく方針にする。

 間宮と直接関わっても良いのだが、そうなれば先輩との問題だけじゃなく間宮の抱える問題とも関わらないといけなくなりそうな気がして……最早そんな事までしてあげるつもりは俺にはサラサラなかった。


 無論、状況に応じては対応してもいいだろうが、目的と手段を履き違えてはならない。

 少々薄情かもしれないが、先輩を助けたいが為に行動するんだ、他に気を使ってそれを疎かにする可能性のある真似は慎んでおくべきだろう。


 ならば、間宮に関してはこのまま傍観を続けるとするか。見ておく必要は十分にあるし、ゲームの世界と混同している節がある以上ゲームの進行状況と照らし合わせも必要だと思うから。

 せめてもう少し現実との区別さえついていそうなら忠告も出来ると言うのに、矢部先輩が割ときつい事言ったらしいのにそれすら聞いていないならば、たかがモブキャラと思われる俺の言う事はもっと聞かないだろうし。

 うん、自業自得だよな。誰も忠告も何もしていないならともかく、されてそれでも全く変わろうとしない奴を助けようとはやっぱり思わない。


「さて、帰ったらノートに書き出すかね」


 色々と頭で考えを巡らせていたが、重複してそうな感も感じているし、1度家に帰ったら整理しておく必要があると思い、思わず呟く。

 ああ、学生である以上きっちり勉強もしておかねば。成績を落として良い事等何もないわけだし。


 意気込んだ俺は歩くスピードを上げるのだった。




 翌日、どうやら先輩は無事に登校してきたようで、それにホッとする。

 しかし、林って意外と情報通らしく、聞いてもいないのに色々話してくれるのは好都合とも言える。偶にウザイけど、まぁ十分許容範囲内だろう。


「そう言えばさ、昨日間宮さん会長達に放課後連れ回されたらしいんだけど、ゲーセンに行った時これが好きだって言ったんだってさ。

 まぁ間宮さんには会長達が取って渡したそうだけど、これで俺もお揃いだぜ」


「……いや、それ悲しくないか?」


 自慢げに兎のヌイグルミを見せられてもな、正直痛いとしか思えない。

 思わず口にそうだせば、ガックリとうなだれる林。

 うん、多少は自覚あったのだな? ならばもうそう言う事は止めた方が良いと思うぞ。


 しかし、兎のヌイグルミねぇ。確かヤンキー君との専用イベだったはずなのに、最早色々無視してイベントのみ進め始めたっぽいな。

 ……このままキスイベなんかも同時にやるつもりか? やばい、ただでさえ理解不能だったのに更に未知の生物になりやがった。

 そう思いつつ視線を向ければ、4つの同じ兎のヌイグルミを取り出し会長達と話す間宮がいた。


 ああ、実に幸せそうで。まぁ勝手にやってくれている分には別に良いが、周りに迷惑を掛けるイベントだってあるんだ。

 もしそれすらやるようなら完全に見切り付けるから、出来ればやらないでくれよ。

 きっとこの願いは無視されるのだろうなと半ば確信しつつも、そう思わずにはいられなかった。




「あら? 南先輩も今日はご一緒なんですね?」


 お昼の時間再び矢部先輩と宮城先輩と昼食を取ろうとしたら、南先輩も一緒にいて思わずそうたずねる。


「むぅ、それは私がお邪魔って事かしら?」


「いえいえ、とても嬉しいって事ですよ」


 にっこり微笑んで言えば、若干頬を染める南先輩に少し意外そうな矢部先輩。そして何やら面白い物を見つけたとでもいった感じの宮城先輩。


「珍しい、こうも堂々と口説く奴だとは思わなかったぞ」


「ほぇ?」


「うんうん、男らしくて実にいい。それに撃墜女王が拗ねるだなんて珍しいものが見れたし。

 田中、ありがとうな」


「べ、別に拗ねてなんかないもん」


 3人のやり取りから仲が良いのだなぁと実感する。

 少々置いてきぼりにされた感は感じるものの、それ以上に微笑ましい光景に口元が緩む。


「3人とも仲が良いんですね」


「そりゃぁなんだかんだ2年以上付き合いがあるからな。

 こっちとしては南が田中に会いたいって言い出した方がビックリしたぞ」


 腕を組みながら矢部先輩が言えば、宮城先輩がニヤニヤ顔をこっちに向ける。


「そうそう、いつの間に仲良くなったのやら。

 まぁ俺は応援しているからな」


 うん、宮城先輩貴方楽しんでますね? いや、実際色々力になってくれそうなんだけど……少しイメージ変わってきたな。

 多分ノリも良いのだろうな。このハイスペックイケメンめ。


「あのー……」


「ああ。はいはい、それじゃぁお邪魔虫は退散しますから頑張って」


「ちょっ、違うんだからね」


「照れる南も珍しいな。まぁ先に席を取っておくから話が済んだら合流しに来ればいい。

 拓哉行くぞ」


 ああ、そりゃぁからかいたくもなるわ。

 去って行く先輩達を見送りつつそう思う。

 でも、2人きりで話したい事ってなんだろう? まぁ食堂内から移動する訳でもないし、人の目も集まっているから告白の類じゃない事くらいは流石に分かるけど。


「えっと、あのね。昨日お見舞いありがとう」


「いえいえ、好きで行ったんですから。元気になったようで何よりです」


 律儀にお礼を言う先輩に、なるほどだからかと思う。

 寧ろすぐ思い当たらなかったあたり舞い上がっていたのだろうな。うん、落ち着こう。


「うん、お陰様で元気になりました。

 あ、フルーツ美味しかったよ。ありがとうね」


「喜んでいただけたら良かったです。

 さぁ、それでは僕らも食べ物を貰って行きましょうか」


「うん、田中君は何食べるの?」


「僕は――」


 その後4人で仲良く昼食を取ったのだった。

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