『ファンタジーの世界に近代兵器を持った青年がやってきた』
「分かった。俺をファンタジーの世界へ向かわせてくれ」
『それでは』
俺は光に包まれて意識を失った。
「囚人デブッ!! さっさと石を持っていかんかァッ!!」
「……はい」
俺はツルハシで掘られた石を木のバケツぽいのに入れて地上に出る。
地上に出ると太陽の光を浴びながら石をその辺に投げる。
「さっさと戻れデブッ!!」
「……はい」
俺は再び穴に入って石を入れて地上に出て捨てる作業を繰り返す。
「……こんなはずじゃなかったのに……」
俺はポツリとそう呟いた。
俺は三流の大学の四回生だった。就活はしているが、内定は取れてない。
それに俺は元々ポッチャリであり、女にはモテない。
ミリタリーオタクでもあるがな。そんな時、俺は不幸にも交通事故で死んだはずなんだが……生きてた。
目が覚めるとそこは白い空間で、何かの画面が出ていた。
画面によれば異世界に行けるとの事だった。しかも拒否権無しときた。
仕方なく俺は了承してRPGの世界に来たんだが……場所が悪かった。
転移した場所が王宮の玉座であり、しかも勇者召喚の儀式をしていた時だ。
俺が転移した時は既に勇者が召喚されていた。イケメンの勇者だけどな。
俺が召喚された事に勇者は「こいつが勇者なわけない」と切り捨て王や他の者も同意して王宮に侵入した盗賊として捕らわれた。
そして五十年間の炭鉱仕事を無理矢理命じられた。俺を擁護する奴等は一人もいないし。
そして炭鉱で働いて既に一ヶ月が経過していた。他の炭鉱夫に聞けばどうやら魔王が復活さして魔物が活発化しているらしい。
「確かに俺はファンタジーの世界を望んだけどよ……これは無いだろ……」
しかも太っているから囚人の名前は勝手にデブとされた。本当の名前は出雲一樹だ。
「おいカズキ。大丈夫か?」
「おやっさん」
一人の炭鉱夫が俺に声をかけてきた。あだ名がおやっさんという二十年間この炭鉱で働いてきている炭鉱夫だ。
このおやっさんは唯一俺を名前で呼んでくれてる。
「何とか大丈夫です」
「そうか、何かあったら俺に言ってこいよ」
おやっさんはガハハハと笑って石を運んで行った。
「おい囚人デブッ!! さっさと働けッ!!」
そう言ってきたのはこの炭鉱を警備する兵士の一人、ヒルデカルド・クラウツだ。
女性のくせに炭鉱で警備している。体型も出ているところは出ているのでそのためか囚人達の中では人気の女性兵士だ。
てかデブデブデブと言っているが一ヶ月間でかなり痩せているけどな。
「聞いているのかデブッ!!」
「聞いてます」
「ちぃッ!!」
クラウツは舌打ちすると何処かに行った。
俺も仕事をするか。
「ん? 紙?」
不味い晩飯を食べ終えて与えられた古いベッドに戻ると紙が置いてあった。
『やぁ、私はあの時の者だ。残念な転移だったね。これは私達の予想外だった。御詫びとしてRPGのダンジョンのように君が好きな武器をところどころに置くようにセッティングしておいた。これは建物の中や洞窟、森の中にも設置してある。手始めにその炭鉱で武器を探して大規模な脱走でもしてみるといいよ。それでは』
「……御詫びかいな。怪しいけど、調べてみる価値はあるな。それにこのまま炭鉱で働くのも嫌だしな」
取りあえず探してみるか。
〜〜探索中〜〜
「ん? これは……グロック17だな」
ベッドの下にグロック17が置いてあった。マガジンも五つもある。
「撃てるようにしておくか」
俺はスライドを引いておいた。
「おぉいデブ」
「ん? どうした?」
その時、他の囚人達が入ってきた。グロックは咄嗟にベッドの下に隠してある。
「脱走しないか?」
「脱走?」
「あぁ、お前も外に出たいだろ?」
「そりゃ出たいが……」
「だろ? 俺達も限界なんだ」
……何か怪しいよな……まぁ大丈夫だろ。
「てことは俺は囮か?」
「……バレた?」
「やっぱり……それで脱走するのは何人なんだ?」
……こいつらは……だが、丁度いいな。此方もグロックが本物かどうか調べたいしな。
「今のところは十人だがよ。それがどうしたのかデブ?」
「……もっと増やそう。脱走する時に他の囚人にも進めていけば紛れて脱走出来るはずだ。ついでに反乱したらいい」
「ふむ、成る程な」
「おやっさんにも話せば理解してくれるだろ」
俺はそう付け足した。そして計画は進められた。
「まさかカズキも加わっているたぁな」
「それは此方の台詞ですよおやっさん。まさかおやっさんも脱走を考えてたなんて……」
「まぁな。そろそろ炭鉱も飽きたからな。ガハハハ」
恐ろしいおやっさんだな……。
「それで、引き金を引くのはカズキだって?」
「あぁ、急病の嘘でな」
計画だと一週間後に発動する。それまでに炭鉱内に武器があるか探しておくか。
一週間後、俺は突然腹痛で作業場で倒れた振りをした。
「何をしている囚人デブッ!!」
あの女性兵士のクラウツが俺を罵倒している。
「こりゃダメですぜ。恐らく病気かもしれない」
おやっさんが苦しむ振りをする俺を見てそう言った。
「ち、分かった。おい、運ぶぞ。お前らは仕事をしてろッ!!」
クラウツはそう言って俺の左肩を持ち、もう一人の警備兵と共に医務室へ向かった。
「おい、こいつを治せ」
いったッ!! もう少し優しくしろよ……。
「おぅおぅ、ちょっと待ちな……」
老いた医務官がそう告げた瞬間、俺は隠し持っていたガラスの破片で隣にいた警備兵の喉を切った。
「ガッ!?」
ブシャっと警備兵の血がクラウツと俺に振り掛かる。
「……ぇ……」
刹那の出来事にクラウツは唖然としている。俺は倒れた警備兵に更に止めを刺すと血が付着したガラスの破片をクラウツに向けた。
「ヒィッ!?」
「こいつみたいに死にたく……ないよな?」
クラウツが腰を抜かして膝から地面に倒れた。ちなみに医務官は警備兵の死体を処理している。
この医務官も仲間だったりする。
「……こ、このゲスが……」
「死にたいのか?」
「ヒィッ!?」
クラウツがそう言葉を返すが俺は破片を喉元に押し付ける。押し付けた拍子に少し血が垂れた。
「おぅカズキ。片付けたか?」
「おやっさん、そっちは?」
「二人しかいないからな。ツルハシで一発だガハハハッ!!」
返り血を身体に浴びたおやっさんが豪快に笑う。
「カズキ、早くしろよ。警備兵の連中が気付くぞ」
それもそうだな。
「おい、お前も来い」
「ぐ」
俺はクラウツの手を引いた。
「人質か?」
「まぁな。逃げ切って奴隷市場に売れば儲けるだろ」
この世界では奴隷も存在していた。
「いたぞッ!!」
「脱走なんぞしおってッ!!」
そこへ武装した警備兵が現れた。
「ちぃッ!!」
俺はグロックを出して引き金を引いて二発撃った。
至近距離だったため、顔に命中して倒れた。
「ヒュウ。面白い武器だな」
「まぁな」
「な、何だこれは……」
おやっさんが褒め、クラウツが驚いている。
「さっさと行くか」
三人は外へ出た。
「クラウツ警備兵ッ!! 何故そこにいるッ!!」
外に出ると槍や弓を持って武装した警備兵が多数いた。
「こ、これは……」
「おっと、クラウツは此方側なんでな」
「何だとッ!?」
「ッ!?」
そこへ俺が口を挟む。これでクラウツは俺達側だ。
ククク、何時も何時も俺を罵倒しやがって……流石の俺でもキレるからな。
「えぇい、こうなればクラウツもろとも始末してやるッ!!」
「そ、そんな……」
「そうは問屋が卸さんよッ!!」
俺はグロックで警備兵を撃った。やられた警備兵は次々と地面に倒れていく。
「な、何だあれはッ!?」
警備兵が驚く中、俺達三人(クラウツは無理矢理手を引っ張った)はそこを突破して炭鉱の監視所に入った。
「ふぅ……ん?」
机の上には無造作に銃が置かれていたけどこれは……。
「……八九式小銃……」
自衛隊が採用した八九式小銃だった。マガジンは十はある。
「こりゃぁいいや」
俺はマガジンを挿入して槓桿を引いて初弾を装填する。
「出てこい囚人どもッ!!」
そしてドアが開かれた。俺はレに変えて警備兵に照準して引き金を引いた。
「グワアァァァァァッ!!」
先頭にいた警備兵が蜂の巣になる。てかレは止めとこ。
三点制限点射にしとくか。
「何ッ!?」
「退け退けェッ!!」
警備兵達が一旦逃げていく。まぁそりゃそうだよな。
「このまま中央突破するぞッ!!」
「分かったおやっさんッ!! こいクラウツッ!!」
「く……」
「逃がすなァッ!!」
今度は数を増やした警備兵達が弓矢を撃ってくる。
「グゥッ!?」
「おやっさんッ!?」
矢がおやっさんの背中に数本が命中して倒れた。
「俺に構うなッ!! 行けカズキィッ!!」
「……また何処かで会おうぞおやっさんッ!!」
おやっさんの言葉に俺はそう言ってクラウツの手を引いて走った。
「くらえやッ!!」
逃げながら射撃をして警備兵の命を刈り取る。さっきからクラウツは黙ったままだ。
炎上している炭鉱の関所を突破した俺達は近くの森に逃げ込んだ。
「……此処まで来れば問題無いだろ。もう帰っていいぞクラウツさんよ」
「……帰れるわけないだろッ!! 帰れば私は反乱者として処刑されるッ!!」
「ふーん」
「……貴様が私を連れ出しさせしなければこんな事には……」
「知らんな。たまたま人質がお前だった話だ」
「……そうだ。お前今から勇者の一行と合流して魔王退治に参加しろ。そうすれば私も処刑されないッ!!」
「ほぅ、俺の脱走も許されるよな?」
「あぁ多分な」
「……ふむ……だが断る」
「へ?」
クラウツが唖然としている。
「何でこの世界の人間じゃない俺が魔王退治なんかしなきゃならんのだ。勇者一行で良いだろ」
「だ、だが私は……」
「戻れば死。俺と行けば生きる可能性もあるぞ?」
「……勇者じゃないくせに……何なんだその武器は……」
「これは俺の世界の武器だな」
俺はクラウツに八九式小銃を見せる。
「いたぞッ!!」
「ちぃッ!!」
警備兵に見つかったが直ぐに射殺した。集まってくるのも時間の問題だな。
「さて、どうするかな?」
「……分かった。貴様に付いてく。かなりの不本意だがな」
「ようし、なら行くか」
俺は八九式小銃を構えて突き進むのであった。
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