6. 森の中にて・・・
ハジメは現在、村から数十分歩いた森の中にある。この村の周辺は魔物が出没しやすく、特に近くの森はこの大陸最大の広さを持っており、多くの魔物が徘徊している。奥地には冒険者でも危険な大型種がいるという噂があるほどらしい。そんな中を2人で進んでいく。
「今回はこの森でホーンラビットを相手にしていただきます。もし余裕であればもう少し上のクラスを相手していただきます。それで試験は終了です。」
そう冒険者の男はハジメに言った。
「ホーンラビットですか・・・大丈夫かなぁ。」
ハジメは初の戦闘試験に胃が痛くなるのを感じた。ホーンラビットとはその名の通りウサギに鋭利な角が付いている魔物だ。一般人にとっても危険なレベルである。切ってよし突いてよしの角は厄介なのである。森の中のほうが出現率は高いのだが、草原でも十分に現れる魔物だ。余裕で倒せるならその上のレベルの魔物を、という事で森を選んだようだが・・・。ハジメはそう思いながら周辺を警戒する為、目の前の茂みに目を凝らした。
「ん?」
ハジメは、森の一部が微妙に歪んでいるのに気がついた。
「これは・・・?」
いつも武器や防具を見る時、歪んだ所を目を凝らすと情報が現れる。いつも通りに目に力を入れると茂みの中ほどにある文字が浮かぶ。
・ホーンラビット LV1 HP10/10
「!! まさか・・・これが俺の能力なのか?」
ハジメは自分の能力の開花に驚くと同時に落胆した。元々は何も見えなかったのだが、鍛冶屋で受付をしていく内に武器や防具にぼんやりと霞がかった状況が度々置き、さらに意識を集中すると武器名や能力などが見えるようになったのだ。その時も驚いたのだが、ハジメは誰にも言わずにいた。なぜなら武器名や能力の判断できる勇者ってなんの役に立つであろうか?魔王との戦いに武器防具鑑定できる勇者・・・熟練の武器屋で十分肩代わりできる能力である。あってもいいけど、勇者にはいらない能力だ。ハジメはそう思い黙っていることにしたのだ。まあ、不意打ち防止にも使えるのでいいかもしれないが・・・。しかも今頃・・・。
「どうしました?」
冒険者が話しかけてきたので、振り返りながらハジメは答えた。
「あそこに、ホーンラビットがいたので・・・・・・。」
そう言いつつ、ハジメの表情が固まった。なぜならハジメの視線の先には・・・。
・ザック LV25 HP 245/250 職業 暗殺者/冒険者
と、冒険者の情報がはっきりと目に入ってしまったからである。特に職業暗殺者という点がハジメには禍々しく目に映って見えた。今回の突然の実地試験という聞いたことも無い試験。しかも今まで来た騎士ではなく、冒険者という監視官。町の外でしかも森の中という試験会場。すべてがハジメに危険を警告しているかのようだ。
「どうしました?おや、確かにホーンラビットがいますね。それではさっそく試験といきましょうか?」
そう、ザックは言いながらハジメの後ろへと数歩下がっていく。
「私はレベルが高いので警戒されると思いますので多少距離を置かせていただきます。ハジメさんはホーンラビットを倒してください。」
ザックの声が徐々に離れていくと同時に藪の中からホーンラビットが出てきた。
「ど、どうしよう・・・取りあえずは前に集中しないと!」
ハジメはザックに対しての警戒心と疑問を抑えつつ、目の前のホーンラビットに集中した。LV1でもあの角に突かれたら一般人は大怪我である。しかもハジメの装備は銅の剣のみであり、防具は普段着のままである。よく考えれば防具は何も無い状態での試験というのも変だと今更ながら疑問がわく。そうこう考えているうちにホーンラビットが頭を屈めながら頭の角をハジメに向かって突き上げてくる。
「くっ!」
かろうじて避けるハジメ。ハジメの服のわきがホーンラビットの角に引っかかり破れてしまう。思っている以上に角は鋭いようである。ハジメはこの角に銅の剣を当てると剣が欠けてしまうかもしれないという考えを持ち、カウンターで剣道の小手の要領で首を狙うことにした。
「キュウっ」
ホーンラビットの突進をさけ、首に剣を振り下ろすとホーンラビットは鳴き声を放ち、そのまま倒れる。
・ホーンラビット LV1 0/10
その後ラビットの輪郭がぼやけ、その場所に肉の塊と角が現れる。
・アイテム:ラビットの肉 角(中)
「へぇー、魔物を倒すとこんな風になるのか。」
ハジメは初の戦いの感動と共に、戦闘後のアイテムを眺めた。どうやら武器や魔物情報、人物情報だけではなくアイテム鑑定もできるようだ。
「おー、さすがですね。このレベルでは問題なさそうですね。」
「!!」
ハジメの真後ろから声がする。いつの間にか、ザックがハジメの背後に立ちながらホーンラビットのドロップアイテムを見る。ハジメは接近が気づけなかった事に、より一層の警戒心と恐怖心が沸いてきた。
「ラビットの肉と角が同時に出るとは運がいいですね。戦い方もなかなか筋がありますよ。」
と冒険者的な発言をしつつ、ハジメに視線を投げかけてくる。なんとなく観察というか見極められている様な気がしてしまう。
「いえ・・・どうにか勝てたんですよ。本当に運がいいだけです。」
そうハジメは謙遜しながら答えた。その時にザックの腰の短剣が目に入った。
・アサシンダガー 攻撃力+50 防御+10 耐久力 40/45 スキル:キラースタッブ
「!!」
ハジメの背中に冷や汗がぞぞっと出てきた。いかにもな名前の武器に、いかにもなスキル・・・。ハジメは頭の中で警告のサイレンが木霊した気がした。確実にザックの情報を知る毎に自身の命の危険性が増していっている気がする。
「どうしました?ホーンラビットは余裕な様ですね。先にいきましょうか?」
ハジメの目が自分の腰の武器にいったのを気付いたのか、気付いていないのか表情を表に出さずに話を進めて奥に進んでいくザック。ハジメはその後についていくのだった。