5. ある村にて
ここは、ロイエン帝国の北西に位置する中規模な村。西は騎士の国ステリアとの国境にあり、北は魔族の国との間にルークリフ大河がある。比較的大規模な戦いは無いのだが、魔族の国との境のせいか、草原や森などには魔物が出てくる場所で、それに対して冒険者や騎士団などが利用するのでそれなりに反映しているむらである。
その村の一角にハンマーと剣の紋章が入った看板を下げた店がある。
カランっ
木製の扉についた鐘がなる。革鎧に鉄の胸当てを付けた戦士風の男が店内に入ってくる。
「あっ?いらっしゃい。今日は何のようですか?」
にこやかに声をかける。
「今日は、剣を新しいのに替えようと思ってね。良いのあるかい?」
使い込んだ銅製の両刃剣をカウンターに置きつつ声をかける。
「なるほど、ちょっと待ってくださいね。」
剣に対して目を凝らすと剣の上に徐々にあるものが剣の上に現れる。
・銅のブロードソード 攻撃力+10 防御力+1 耐久力 5/25 スキル 無し
「結構使ってますねー。それじゃあ、こちらの2本はどうでしょうか?」
奥の棚より鉄製の両刃剣と銅製の片刃剣を持ってくる。目を凝らすと剣の上にまた同じものが現れる。
・鉄のブロードソード 攻撃力+25 防御力+3 耐久力 35/35 スキル 切れ味+1
・銅のカタール 攻撃力+20 防御+2 耐久力 30/30 スキル 敏捷 +1
「どっちがいいかな?」
「そうですね。攻撃力は鉄の剣の方がありますけど、スピード重視なら銅の方が使いやすいはずです。」
武器のスキルを見つつ答える。
「そうか、じゃあこの銅のカタールをもらおうか。それとこの銅の剣の買取も頼む。」
「かしこまりました。それでは買取26銅貨でさせて頂きまして、剣の代金180銅貨から引きますと154銅貨でございます。いつもご利用いただいてますので、150銅貨とさせていただきます。」
営業時代の経験を元に利益計算とリピート対策でサービスをする。
「おお、悪いな。また装備を替える際は寄らせて貰うよ。」
ちょっと機嫌のよくなった戦士風の男が喜びつつ剣を持って店を出て行く。カランッ ドアの鐘が鳴り響く。
「おーい。そろそろ休憩していいぞ。」
奥から鍛冶長の声がする。
「あっわかりましたー。鍛冶長この銅の剣は、普通の剣ですので触媒として再利用しても大丈夫ですので、後はよろしくお願いします。」
「おう、わかった。行ってきな。」
その声を背に店を出てこの街一番の食堂へ向かう。
「今日は何を食おうかな~。」
数ヶ月前までこの様な生活がくるとは思っていなかったハジメであった。
あの騒動の後、ハジメは翌日全身鎧の騎士に連れられて、馬車に乗せられてこの村に来た。馬車の中での話によるとハジメは力も魔力も秀でたスキルもないので役立たずな人物として城内のお荷物となりかけていた。過激な考えもあったらしいが、ある方の恩情によってこの村で生活をするということになった。勇者として召還された事を誰にも言わずに余生を送る事が条件らしい。体よくいえば、城から邪魔者として追い出されたとか、邪魔にならないように隠遁生活をしなさいという事らしい。ハイランドさんにもコバックさんにも会えずに城からひっそりと出てきたのでハジメの存在を知る人はあまりいないのだろう。騎士に連れられ、村の中にある一軒屋に案内され、それなりに生活できるだけのお金(らしい)を渡され定期的に監視役が見に来るという話をうけ、そのまま去っていった。まあ、関わりたくないという感がしていたのでしょうがないが、一生過ごすにしては放置プレイではないか?まあ、一般人な自分に対してここまでしてもらえるのはすごいことなのかもしれないが・・・。そう思いつつめぐるましい自分の立場の変化に疲労を思えたのでハジメはそのままベットに倒れこみ、寝ることにした。村の探求は明日からすればいいだろう。いきなり隣人にハジメが来ておかしくはないのだろうか?それともこの世界では当たり前とか?色々な疑問がでつつもハジメは夢の世界へと誘われていった。
翌日目覚めたハジメは、騎士と村長の来訪を受け今後の流れの説明を受けた。内容は、毎月首都より確認の使者が来る。町の外に出てもよいが、長期外出は不可。基本的に村長の許可を得ることなどだった。この世界の知識がほとんど受けられなかった以上、旅に行くことも無いので問題ないが毎月の面談はなんとなく面倒だなとは思った。今後の生活に関しても持ち前の営業経験を元に受付の仕事を村長が探してくれるらしい。大まかな方針が決まった事で、騎士は首都に帰っていった。村長も基本ハジメにはタッチしないらしい。まあ、色々な諸事情のある首都からの問題児とは距離を置きたいのだろう。そうして紹介されたのが、武器屋の受付である。この武器屋はそこそこ腕のよいドワーフが経営しておりドワーフゆえに接客がぶっきらぼうなのが問題点だったらしい。そこへそれなりの営業経験があるハジメが行く事により1石2鳥の効果を期待したようだ。
監視も重要性で無いと判断されたのか、徐々に正規の騎士から派遣される人物の質が落ちてきていた。いまや、村にいるかいないかの確認ぐらいでまともに会話もしない状態だ。その上、騎士ではなく冒険者か旅人かと思う位の人物が確認に来ている。無害と判断されたのだろうか。
「こんにちわー今日のお薦めはなんですか?」
ハジメは、なじみの食堂に入った。すると店主と共に冒険者がこちらを振り返る。
「おーハジメかー。今日は暴走牛のカツレツだな。」
食堂の店主が本日のお薦めを教えてくれる。すると横に立っていた冒険者がハジメの方に近づいてきた。
「君がハジメ殿か?」
陰のある笑みで近づきながら話しかけてきた。今までの営業経験上こういう笑顔は裏があるパターンだ。
「はい、そうですが?あなたは?」
「私は今回面談を担当した者です。」
笑みを続けたまま、そういってきたが目が笑っていない。ますます警戒心が高くなる。
「そうですか?まあ、今回も何も問題ないと思います。ご安心ください。」
ハジメは、無難に今回も問題が無いことを告げる。
「いや、実は今回は実地試験も兼ねてまして・・・。」
面談にきた冒険者は、すまなそうにハジメに試験のことを伝えた。
「え?実地ですか?今まで無かったのに・・・。」
ハジメは聞き覚えの無い内容に囚われ様の無い不安を感じるのであった。