4. ホーランド城 4
どうにか続けて書くことが出来ました。
「・・・これは・・・・魔法量・魔法力ともに一般人並ですな。」
いいながらもコバックは、自分の目が間違っているのではないかと水晶球を凝視しながらハジメに答えた。
「は?」
思わずハジメの口から間の抜けた声がでてしまう。いやマジで?
「ほっ他に何か特殊な能力とかでてませんか?すごい魔法が使えそうとか?」
慌ててコバックに詰め寄るハジメ。
「いえ、何も魔力的なスキルはないようですな・・・。魔力量もこれといって・・・。普通の人に対する反応ですな。これは・・・」
コバックも申し訳ない声で答える。ハジメは、かなり落ち込んでしまった。
「うあ、かなりショックだ・・・。ありえなくない・・・。」
ファンタジー定番の魔力が一般人並?それ以外のすげー能力ゼロ?普通の人って事は、偉大な魔法使いにはなれないって事ですよね。コバックの落ち込みようからすると一般人の魔力はあまり役に立たたない魔力量のようだ。
「きっとハジメ殿は、戦士としての適正があるのですな。そちらの適正を確認しましょう。」
コバックが慰める様にハジメに優しく話しかけてくれる。
「ですね。きっとそちらの方にすごい何かが・・・。」
ここはお約束なパワーがきっとあるはずだ。巨人もびっくりの腕力。妖精もびっくりのスピード力。剣豪もびっくりの剣術。そう、きっとそうに違いない。
一緒に騎士や騎士見習いが練習をしている訓練場みたいな場所に連れて行ってもらった。多くの戦士が武器や盾を使って訓練を行っている。
「サルヴァール殿!」
その中で一段と圧巻な迫力を持つ騎士にコバックが話しかける。
「どうしました?コバック殿?」
「この方が例の・・・。よろしくお願いできますかな?」
「はっ、畏まりました。では、こちらへ。」
よーしやるぞーーーと気合を入れてハジメは騎士の後についていった。
・・・まあ、結果から言おう。何も無かった。巨人もびっくりの腕力。妖精もびっくりのスピード力。剣豪もびっくりの剣術。以上何一つもなかったのだ。騎士の訓練場のような場所で剣を渡されたら余りの重さにまともに持てずフラフラになりながら構え、剣を振ったら剣の重さに振り回された。身体スピードも別段速いわけではなく、あっという間にスタミナ切れで息切れしてしまう。まあ、営業で鍛えた脚力と体力といっても歴戦の鍛えた戦士には勝てないです。剣術にいたっては学生時代にちょっとかじった剣道しかないので騎士の剣術に勝てるはずも無く、ここでも一般人レベルと認定。いわゆる一般市民であると妙なお墨付きをもらえた。
「はぁ・・はぁ・・・はぁ・・・まじで・・・ありえん。」
ショックと疲れでまともに声が出ないハジメ。それ以上になんともいえない表情になっている周辺の人達。それはそうであろう、勇者召還で現れた人物が、なんの因果か魔力体力ともに一般市民並みという結果にどう反応すればいいというのだ。途中で人が入替わったのではないかと思うほどだ。
ハジメとしても自分が異世界に召還されたのではなく、同じ世界のどこかに出ているのではないか?もしかすると過去の世界にタイムスリップしたのではないかという位、頭が混乱している。ここにいる人すべてが中二病なら分かるが、さすがにそれは無い事は分かっている。
そのまま、微妙な雰囲気の中ハジメはメイド長に案内されて、あてがわれた自分の部屋に入った。ベットに腰掛けてまずは自分の頭の中にでてくる疑問を整理した。なぜ自分は異世界に召還されたのに何もお約束的な勇者の素質がないのであろう?そりゃ召還された事がないので理由はわからない。しかし、なんの素質もないことだけは証明されてしまった。果たしてこの世界は一般市民認定のハジメに魔王や魔物と戦ってくれというだろうか?あの王だとありえるのではないか?それはあって欲しくないところだが・・・。ハジメは今後の自分の身のあり方がまったく見えなかった。
「そりゃ、そうだよなー。市民並みの魔力と力って期待される価値が見当たらないな。一兵卒からスタートにしても、わざわざ異世界から一般兵士候補召還ってコストパフォーナンス的にどうよ?もっと色々投資できるだろう?」
自分でマネージメント的な突っ込みに落ち込んでしまった。これからどうなるんだろう俺?窓の外の星に思わず願うハジメだった。本人はそのままベットに倒れ、眠ってしまったのでその願った星が流れ星になったのは知らないのであった・・・。
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ある一室にて
「困った事になった。」
「いやはや誠に・・・」
薄暗いランプの明かりの前に3人の人物が顔を見合わせて話し合っている。
「しかし、ほんとうなのか?魔力、力ともにないというのは?」
「残念ながら、剣術はまったくです。何かしら学んだという感じはするのですが、実戦では騎士見習いにも勝てないでしょう。なんせ剣に振り回されているのですから・・・。体力はあるようですが、これも特別すごいというのではありませんな。」
全身鎧に身を包まれた人物が答える。
「魔力も同様ですな。反応はしましたが、魔力をもっているというだけで特別巨大な魔力ではありませんし、魔法量があるという訳でもありませぬ。何かしら特別な魔術特性もありませんでした。詳細までは分かりませぬが過去の勇者の記録と何一つ一致しませんですな。」
「・・・ううむ。どうしたものか。このままでは国をあげて勇者遠征という発表なぞできぬわ。というよりも存在自体表に出すことも出来ぬ。」
「王はなんと?」
「用済みだと一言で終わるじゃろう。」
「しかし、ここまでして召還したのですぞ。なにかしら利用は出来ませぬか?」
「何にというのじゃ?」
「・・・・・」 「・・・・・」 「・・・・・」
3人とも押し黙ってしまう。
「ロイエン国として100年待ち召還した勇者が勇者で無かったとは絶対に口が裂けてもいえぬ。そして、その事を他国に知られるわけには絶対いかぬ。」
「それでは、すべてが無かった事にするのですか?」
「今なら間に合うであろう?」
「はっ、部下には新人騎士見習の実地試験だったといっております。あの状態では誰一人勇者とは思いますまい。」
「神殿の者は、あの時は誰もおりませなんだ。よって問題はありませぬ。」
「城内も知る者はあまりおらぬ。王には資質の無い者であったとだけ報告いたそう。後は任せる。」
「はっ。」
「分かり申した。」
「困ったものだ・・・。」
魔道士の服を着た男が部屋の外に出て行った。その後に続こうとした全身鎧の男に神官服を着た男が話しかける。
「サルヴァール殿・・・。」
「なんでございますか?コバック様。」
「頼みたいことがあるのじゃ。それは・・・・・・・・・・。」
「は?しかし?・・・わかりました。その様に・・・」
サルヴァールが出て行った後に、一人コバックが残る。
「犠牲なくして目標は達成できぬという事は・・・。」
最後の一人が出て行き、ランプの明かりが徐々に無くなり完全な闇が訪れた。
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