美咲の恋模様4
今日のお父さんの店の一角には、私たち4姉妹に賢人、そして急遽誘った凪沙ちゃんが来ていた。
お客さんも多い中、お父さんは子供総勢7人に得意のフランス料理を振舞ってくれた。と言っても、しっかりしたフルコースではないけど。割とすぐに出来るものを用意してくれる。
「今日は『牛肉の赤ワイン煮』と軽めのオードブル。スープは『ブイヤベース』にしたよ。デザートもあるからお楽しみに。」
お父さんが、忙しいながらにも私たちのところへ出向いてくれた。いつも私たちがここでご飯を食べると、決まって顔を出してくれる。
「あ、お父さん?暇が出来たら、ちょっと話があるんだけど…。」
「おじさん、僕からも。」
お父さんは、じゃあクローズまでここにいればいい、と言い残し、また厨房に戻っていった。
いつも通り、お父さんの料理はおいしい。日本料理とか、フランス以外が作れないなん
てうそみたいなのよね。
「どうしたのお姉ちゃん~。賢人君と揃って話なんてさ~。」
胡桃は、ニヤニヤしながらスープを口に運んだ。さすが胡桃。こういう話には敏感な子なのよね。陽向も、胡桃と同じ表情で笑っている。
「おねえ、もしかして2人の仲が進展した報告しに来たんじゃないの?」
「そうだよ…。やっと気付いて貰えたんだよね。ここまで遠い道のりだったよ。」
賢人は、少し溜め息をついた。はいはい、どうせ私は鈍いんですから。
「みっさん、良かったですねぇ。ついに恋人になれて!」
な、凪沙ちゃん…。
クローズの時間は10:30で、雪奈は座ったまま眠ってしまった。お父さんは、すぐに私たちのところに来てくれた。
「それで、話って?」
何か言おうとした私を手で制して、賢人は口を開いた。どうやら、賢人から言ってくれるらしい。
「おじさん。あの、今日からなんですが…。美咲さんと、正式にお付き合いさせて頂くことになりました。」
「お父さんには、すぐに報告しておこうと思ったの…。」
お父さんの反応には、正直驚いた。普通に、良かったなぁ、なんて言ってるんだから。
さすがお父さん。おおらかで物分かりがいい。
「ほら、美咲は未来を亡くしてからずっと、学生らしい生活を送らせてあげられなかったからなぁ。美咲がこういう話をしてくれるのを、待っていたのも正直なところだ。」
「お父さん、そんなこと思ってたの?」
本当に、いいお父さんだと思う。娘のことは誰よりも分かっていて、気遣ってくれていて。
「それに、相手も相手だしな。賢人君なら、安心だよ。」
「そ、それは、ありがとうございます…。」
そして、思いがけず信頼されていた賢人。嬉しそうに顔をほころばせ、私の肩を少し引き寄せて言う。
「と、言うわけでこれからよろしく!」
帰り道。凪沙ちゃんの家に彼女を送り届けて、4姉妹での帰り道。お父さんは、今日は店に泊まりだと言っていた。
「おねぇ、良かったね。ようやく、賢人君の気持ちに気付いてさ。」
「そうよ。あたしたち、ずっとヤキモキしてたんだから~。両想いってこと、バレバレなのにいつまでたっても付き合わないんだもん。」
陽向と胡桃は口々に言う。雪奈だって分かってたわよ、と胡桃。
「しょうがないじゃない…。全然気付かなかったのは事実なんだから…。」
この手の話に疎いことくらい、あんたらが一番知ってるんでしょ?
「でも、何かお姉ちゃんに先越されるなんてちょっと悔しい。あたしの方が早く彼氏出来ると思ってたのにさぁ。」
「胡桃はしばらく無理なんじゃない?まずその我儘な性格直さなきゃさ。」
「どーゆー意味よ?ひなちゃんっ!!」
相変わらずとも言うべきか、2人の喧嘩が始まった。そんな2人を遠目に見ながらふと思う。
彼女って何するのか。そもそも付き合うって、幼馴染でいた頃と何が違うのか。
まぁ、今は分かんなくても、そのうち分かっていけばいいよね。
きらめく上弦の月が光る夜、私はまた一つ、成長した気がした。
恋模様美咲編はこれで終了!まぁ、まだまだ進展はありますが。
次は、陽向のせつない恋模様が始まります。