陽向が語る「昼の日常」
次の語り手は、次女陽向です!!
「はい、ひなちゃん。今日もセーフだよ。あと30秒でした。」
はぁはぁ息切れするあたしに対して、涼しい表情の、片倉凪沙。小学生からずっと同じクラスなんだけど、まあ変人であることこの上ない。
「相変わらず、陽向は遅刻だけはしねぇな。たいてい間に合うっていう。」
同じく石島暁が、笑う。ナギと暁は、3人でずっと幼馴染をやってきた、いわば仲間であるんだけど。
あたしは、3日に一度は遅刻スレスレとなる。おねぇにばれると怒られるから、黙ってるのに、たいてい胡桃がどこからか情報を掴んで来ては、おねぇにチクる。
「おはよ、西野。」
隣の席の西野に話しかける。ちなみに、暁とナギは、あたしの手前の席に。西野は、中学から一緒になったんだけど、暁の親友。この2人は同じサッカー部だからな。
あ、ちなみにあたしはバスケ部。ナギは、読書部っていう幽霊部員がダントツで多いユルユルの部活。そして、ナギ自身も、読書部で読書はしていないらしい。とにかく、存在理由が明確でない部活であることは確かなのだ。
「北原、今日って体育あったっけ?」
「あるわよ!!あたしの大得意、バスケなんだから。気合も一人前に用意してきた。」
あたしは正直、おねぇのように成績は振るわない。たいして勉強の出来ない胡桃にさえ、負けたこともあるぐらい。つまり、あたしの唯一の取り得はスポーツ!!体育に命をかけてるの!体育なら、胡桃やおねぇはおろか、クラスの男子にも匹敵するくらい。
「あらあら、さすがひなちゃんですねぇ。体育のやる気だけは誰にも負けませんと。」
振り返ったナギは、ニヤニヤしている。暁も、ともにニヤッとしている。
「2人とも、完全にバカにしてんだろ。」
「いやいや。あーくんも私も奨励の眼差しを浮かべているだけですよ。」
あーくんっていうのは、暁のこと。ナギは、いちいち変な呼び方で呼ぶ。まぁ、構わないんだが。
「いつも凪沙は、微妙なコメントを…。」
暁がナギを見た。暁がナギを見る目は、あたしや他人を見る目とちょっと違う。
何と言うか、暖かい。
まぁ、理由は何となくわかるんだが。
今日は部活なし。部活をサボって来た(ナギ曰く、休暇届けを出してきた)ナギとともに帰る。
「ひなちゃん、あーくんの誕生日会、今年もひなちゃん宅でいいの?」
毎年、この3人や、それぞれの姉妹、その関係者の誕生日会は家で開いている。特に理由は無いけれどね。
「うん。大丈夫だと思う。で、誕プレ買った?」
ナギは、う~んと考えている。あたしは、もう買ったんだけど。暁は、欲しい物が正直分かんないからリストバンドを買った。
「あーくんの欲しいもの、分かんないんだよ。あの人、謎めいてるから。」
暁も、あんたにだけは言われたくないと思う。ナギほどではない。
それに、暁は、ナギのくれるものなら何だっていいだろうよ。
家に帰ったら、ご丁寧にも机に買い物リストが置いてあった。
今日は、あたしの担当らしい。胡桃は、既に帰って来ていて携帯と熱心に向き合っている。雪奈は、真面目にも勉強していた。雪奈曰く、理想の王子様を見つけるには知能が必要らしい。何だか、現実的なのか、非現実的なのか分からない。それに、雪奈には彼氏に近い子がいただろうに。いいんだろうか、それで…。
買い出しに、スーパーへと出向く。辺りは、主婦でいっぱい。学生なんて、殆どいない。
そりゃ、嫌だろうね…。胡桃は、こういった年寄り臭いことは嫌いだからね…。さすがにおねぇも、雪奈には頼まない。6歳だし、あの子は家の中で一番家事を手伝っている、幼いがしっかりした末っ子である。
適当にかごに放り込み、そそくさと買い物を終えた。
帰りを急いでいたら、部活の帰宅途中の西野に会った。
「そう言えば、西野も来るよね、暁の誕生会。」
「もちろん。あ、そうだ。北原に相談があるんだけど…。」
西野があたしに?珍しいことこの上ない。
「暁に、告白させてやりたいんだ。あいつ、いつから片倉のこと…?」
「幼稚園の頃からずっと。相変わらず一途だよ、暁は。」
暁は、ナギを想ってる。それは、ナギ以外みんな知っている。
いい加減、それにもケリをつけなきゃって思っているんだろう。
「いいんじゃない?」
あたしは、ちょっと考えてから言った。
それは、心からの言葉だけれど。だけど。
西野は何にも分かっちゃいないな。
暁がナギに告白しないのも、あたしがそのことを急かさないことも。幼馴染っていう、微妙すぎるラインに何年もいることも。
何にも知らないのは、ナギと西野だけだってことも。
長いなぁ…。
次は、胡桃ちゃん♪