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魔獣使い  作者: ムク文鳥
第3部
58/89

08-新たな依頼


 モンデオへの道すがら聞いたところによると、この隊商の主人であるキートンという商人は、単なる行商人ではなくモンデオにかなり大きな店を構える商人とのことだった。

 最初こそ魔獣を怯えてか、あまりリョウトに近づいて来なかったキートンも、日が経つにつれリョウトと言葉を交わすようになっていった。

 そのキートンの話によると、今回彼が五台もの馬車を率いているのは、領主であるエーブル伯爵から依頼された品物を王都やその近郊の町で仕入れたかららしい。

 五台の馬車の内、三台が王都で仕入れた品物──剣や槍、そして各種防具──で一杯になっていた。


「どうしてこんなに大量の武具を?」

「ご領主様が抱えている兵士たちの武具が経年で随分とくたびれてきたそうでして。ご領主様はこの際だからそれらを一新するとおっしゃっておりましたな」


 キートンは馬車に満載された武具を、自慢げに眺めながらリョウトの質問に答えてくれた。

 そしてその武具を、ルベッタが興味深そうに幾つか手にとって品質を確かめている。


「……ふむ。これは大したものだぞ、リョウト様。これだけの品質の武具を、この量揃えるのは並大抵じゃない。キートン殿はかなりやり手の商売人だな」


 元傭兵だけあり、ルベッタの武具を見る目は確かだ。そのルベッタがそこまで誉めるという事は、彼女の言葉通りこのキートンという商人はただ者ではないのだろう。


「もしも、リョウト殿たちも必要とする武具がありましたら、お気軽に声をかけてくだされ。さすがに無料というわけにはいきませんが、大恩あるリョウト殿なら格安でお譲りいたしますぞ。もちろん、武具以外にも様々な商品を取り扱っております」


 どうやら、美貌のルベッタに誉められたのが嬉しかったようで、キートンは実に気前のいい事をリョウトに提言した。


「でも、こんなにたくさんの武具を一度に発注しても大丈夫なのかしら?」


 一貴族が一度にたくさんの武具を手に入れる。当然、国の上層部はその貴族に注目し、時には疑惑の目を向けるだろう。

 なぜなら、そのような事態で上層部がまず最初に疑うのは、その貴族の反乱だからだ。

 反乱を起こすために大量の武具を入手する。そう考えるのは想像に容易い。

 戦争をするためには、様々な物が必要になる。兵士、馬、馬車、食料、武具。何より、それらを購入するための資金。

 このように大量の武具を一度に仕入れるのは、エーブル伯爵には謀反の心づもりがあるのではないか。国がそのような疑惑を感じても不思議ではない。元貴族の娘であったアリシアは、その点が気にかかったようだった。


「それなら大丈夫だとご領主様はおっしゃっておりましたぞ。前もって王国には兵士の武具を一新すると報告し、国王様から許可をいただいたと」

「…………あの国王様の事だからな。深く考えなかっただけじゃないのか?」


 キートンには聞こえないように呟いたルベッタ。しかし、キートンには聞こえなかったが、彼女の傍にいたリョウトにはしっかりと聞こえていた。

 リョウトも先日遭遇した、あまり国王らしくない気安い態度の彼の人物を思い出す。

 確かにあの人物はとても国王とは思えない程ざっくばらんな人物であったが、ルベッタが言うほど浅慮な人間でもあるまい。

 それに彼の国王の周りには、ジェイクを始めとした有能な人間が揃っていると聞く。仮に国王その人が浅慮だったとしても、周囲が黙ってはいないだろう。

 そう思いながら、リョウトは武具の山から視線をそらし、隊商全体を見回す。

 現在、隊商は小休止中であり、隊商に所属する者たちも直接地面に座り込むなど、思い思いに寛いでいる。

 だが、中には忙しそうに動き回って雑用をこなす者もいる。良く良く見れば、そんな者たちの首には首輪が填められおり、彼らがキートンが所有する労働奴隷である事を示していた。

 そんな奴隷たちを、傍らのアリシアが複雑な表情で見詰めているのにリョウトは気づいた。


「アリシア? どうかしたのかい?」

「ええ、ちょっと、ね……もしもあの時、リョウト様が私を奴隷として買ってくれなければ、今頃はああして働かされていたかもしれないと思って……」


 リガルの奸計に嵌められ、奴隷として売られた翌日、アリシアはリョウトに奴隷として買われた。

 だが、もしもあの時にリョウトが現れなければ。今頃あのような雑用をやらされているか、もしくは娼婦にでもなっていたかもしれない。

 しかも、リョウトは奴隷としては破格の扱いをしてくれたし、短期間の内に奴隷から解放さえしてくれた。

 改めて考えれば、リョウトには言葉では言い表せないぐらいの恩義がある事をアリシアは実感する。

 アリシアの指が、無意識に自身の首にある翡翠の珠を連ねた首飾りに触れる。

 かつて彼女がリョウトの奴隷であった事を示してたい首輪は、今では彼女の身を飾る首飾りとなった。

 もちろん、以前のようにその首飾りにはリョウトの名前もある。

 確かにアリシアはリョウトの奴隷でなくなったが、彼女は今でも自分はリョウトのものであると思っている。いや、リョウトのものであることを誇りに感じている。

 そして、それはルベッタも同じ思いなのだろう。彼女の首にも以前同様、蒼水晶(アクアオーラ)の首飾りがある事からそれは推測できる。

 アリシアのそんな思いをよそに、小休止を終えた隊商は再び出発した。

 それから数日後、キートンの隊商は何事もなくモンデオの町まで到着するのであった。




 モンデオの町は、規模でいえばゼルガーと同じぐらいの町だった。

 町の中央には領主であるエーブル伯爵の居城があり、その城を中心にして町は広がっており、町の外周は強固な外壁で守られている。

 そんなモンデオの一角の一際大きな店舗。それがキートンが経営する商店だった。

 リョウトたちはそこで護衛の礼金を受け取り、同じように報酬を手にしたカロスたち傭兵連中と別れる事になった。


「色々とリョウトには世話になった。もしも俺たちにできる事があれば遠慮なく言ってくれ。なんと言ってもリョウトは俺たちの恩人だからな」


 別れ際にカロスたちは口々にリョウトに礼を言い、そして握手を交わす。彼らはまた、傭兵としての仕事を受けて別の土地へと流れていくのだろう。

 キートンの店を出たリョウトたちは、とりあえず宿を確保するためキートンに紹介された宿屋へと向かう。

 彼らが向かったその宿屋は相場よりもやや高めの宿だったが、キートンから紹介状を受け取っており、それがあればいくらか割り引いてくれるらしい。

 たとえその紹介状がなくても、今のリョウトたちにはジェイクから受け取った大金がある。少しぐらい高めの宿屋に泊まっても、懐に響くような事はない。

 もちろん、リョウトはこの町でも吟遊詩人として唄うつもりなので、ここでも評判を得る事ができれば所持金は減るどころか増える事になるだろう。

 ちなみに、ジェイクから得た報酬は全て銀貨100枚分の価値を持つ金貨で支払われていた。

 金貨は一般の市場で出回る事はまずなく、使い勝手も悪いため、何枚かの金貨を先程キートンに両替してもらった。このような両替も普通なら手数料がかかるものだが、キートンは気前よくその手数料を省いてくれた。

 野盗に襲われていたのを助けられた恩義からか、それともリョウトの噂を聞いたためかは判らないが、キートンはリョウトたちに親身だった。

 だが、それもこれで終わりだろうとリョウトは思っていた。所詮彼とは偶然知り合った護衛と護衛対象という関係であり、それ以下でもなければ以上でもない。護衛の仕事が終わった以上、彼との縁もこれまで。

 確かにリョウトはそう思っていた。しかし、彼との縁はもう少し続く事になる。

 一夜明けて、リョウトたちが泊まった宿に再びキートンが尋ねて来た事によって。




「領主のエーブル伯爵が僕に会いたがっているって?」


 宿屋の一階に設けられた食堂で、早くも再会したキートンは来訪した目的を手短に告げた。

 昨日、リョウトたちと別れた彼は、仕入れた荷物を依頼主であるエーブル伯爵の城まで届けた。その際、彼は旅の道中の土産話の一つとして、最近噂に聞く『魔獣使い』が偶然自分たちの護衛を務めた事をエーブル伯爵に話したのだ。

 その話を聞いた伯爵が、どうやらリョウトに興味を示したらしい。そしてキートンにリョウトに会ってみたいと言い出したらしかった。


「私もご領主様には何かとお世話になっておりまして。そのご領主様の願いを断るわけにもいかず、とりあえずリョウト殿の意向を聞いてみる事にいたしたのですが……どうでしょう? ご領主様に会ってはくださらないでしょうか?」


 貴族であるエーブル伯爵がリョウトに会いたい。そう聞かされた時のリョウトの顔は苦虫を噛み潰したようなものだった。

 今、彼がここにいる理由こそが、一人の身勝手な貴族のせいとも言えるのだ。ここでもまた、あの時のような事が起こるとも限らないと考えれば、彼が渋い表情をするのは最もだろう。

 だからリョウトは、最近あったとある貴族との経緯をキートンに説明し、領主との対面を断った。

 だが。


「ご領主様は吟遊詩人ではなく、魔獣狩り(ハンター)としてのリョウト殿にお話があるそうでして」

「魔獣狩りとして……?」

「はい。何でも、伯爵の領地の一角に魔獣が棲み着いたとかで、その魔獣を狩るために腕の立つ魔獣狩りを探していたそうなのです」


 キートンのこの言葉に、リョウトたちは互いに顔を見合わせた。

 モンデオは大きな町である。もちろん、王都には劣るものの、ここに居を構える魔獣狩りはいくらでもいるだろう。

 それなのに、敢えてリョウトに魔獣の狩猟を依頼するとは、その魔獣とはいかなる魔獣なのか。

 そんな興味本位から、キートンに尋ねたのはルベッタだった。


「それで、その棲み着いた魔獣とはどんな魔獣なんだ?」

「それが……」


 ルベッタの質問に、キートンは困った顔をしながらも答えた。


「……それが、どうやら飛竜らしいのです」



 『魔獣使い』更新しました。


 今回、きりの関係でいつもより短めです。

 ええ。きりの関係です。夏コミ用の本を作って──文字通り自分で製本している──からではありません。決して。


 当『魔獣使い』も8月で満一年を迎えます。よくぞここまで続いたものだと自分でも感心してたり(笑)。これらはひとえに目に見える形で各種支援してくださった方々のおかげです。やはりお気に入りが増えたり、評価ポイントが入ったり、感想がもらえたりするとテンションが上がります。誰でもそうだと思いますが、評価がはっきり判るとやる気も出るというものですよ。

 これから完結までどれだけかかるか未定ですが、少なくとも折り返し地点は過ぎています。絶対に最後まで書き上げる所存ですので、今後もよろしくお願いします。


 当面目標の達成はまだまだ先ですが、僅かでも確実に目標に向かって進んでいます。さあ、まだまだがんばるぞぅ!

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