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魔獣使い  作者: ムク文鳥
第2部
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38-アンナ・レポート

 私はアンナ・グールド。王立学問所・魔獣生態研究室に所属する研究員である。

 今回、私は最近巷で『ガルダックの英雄』とも『魔獣使いの英雄』とも呼ばれるリョウト・グララン氏と幸運にも親交を得る機会があり、又、グララン氏からとある事件への協力を依頼され、その対価としてグララン氏の使役する魔獣を間近で観察させてもらえるという又とない好機を得た。

 よって、ここに氏が使役する魔獣について、魔獣生体研究員としての立場からの意見も含めた記録を残すために本書を執筆した次第である。




 まず、グララン氏が親交を結んでいる──氏いわく、断じて氏が所有しているわけではない、との事──魔獣は全部で六体。その詳細は飛竜、癒蛾(いやしが)闇鯨(やみくじら)斑熊(まだらぐま)岩魚竜(いわぎょりゅう)黒粘塊(くろねんかい)の計六体である。

 グララン氏が使役する魔獣は全てが希少種であるか、もしくは性格が凶暴なためこれまで詳細な観察記録をつける者は皆無だった。そういう意味でも、今回のこの機会はまさに千載一遇と言えるのではなかろうか。

 では、順番にグララン氏の魔獣について記述をしていこう。




 最初の魔獣は飛竜。この飛竜に、グララン氏は「バロム」という個体名称を与えている。

 この飛竜の大きさは二十メートル近くに及び、その背に成人した人間が三、四人乗る事も可能である。

 飛竜は亜竜の一種であり、前肢は被膜状の翼となっている。後肢は意外に発達しており、この後肢を以て地上を馬車ぐらいの速度で走ることもできる。とはいえ、飛竜の主な移動方法はやはり翼を用いた飛行であり、その速度は人間が歩く十倍以上はあるとグララン氏は語っていた。

 実際、この飛竜に乗せてもらう機会にも恵まれ、その時の体感速度は確かに氏の言っていたぐらいであった事を併記しておく。

 なお、余談であるが、この飛竜こそがグララン氏が最初に親交を結んだ魔獣であり、氏にとっても最も気心のしれた魔獣であるという。

 また、これは後日グララン氏から聞いたのだが、このバロムという飛竜こそが、魔境として名高い「魔獣の森」に君臨する魔獣の森の長なのだそうだ。




 次は癒蛾。この個体の個別名称は「ファレナ」。

 翼を広げた大きさは三十センチから四十センチという巨大な蛾の姿をした魔獣である。

 その翼には、極彩色の美しい模様が描かれている。

 癒蛾と言えば、その鱗粉の治癒効果は極めて有名であり、その鱗粉が高額で取引されている事は周知の事と思われる。

 そのため、一時は鱗粉目的で乱獲され、現在ではその数は極めて稀となっている。

 癒蛾の鱗粉は怪我の治療だけに留まらず、火傷の治療や解毒作用まで有しており、まさに万能の霊薬と言えるだろう。

 また、これはグララン氏から聞いて初めて知った事実であり、今まで世間では殆ど知られていないが、癒蛾の鱗粉には幻覚作用や麻痺作用があるという。

 これらは癒蛾が外敵から身を守るための手段であるが、これらの鱗粉を使用すると著しく個体の体力を消耗するらしい。そのため、滅多に使われることはなく、今までその事実が知られていなかったと推測する。




 次の魔獣は斑熊である。個別名称は「ガドン」という。

 全長五メートルを超える大型の熊の魔獣であるものの、その白黒に塗り分けられた外見とユーモラスな動きから愛敬さえ感じさせる魔獣である。

 だが、見た目で騙されてはいけない。斑熊は怪力の持ち主であり、その膂力は先述した飛竜さえ陵駕するという。

 事実、かの『ガルダックの大火災』では、漆喰で固められた石造りの家屋を前肢の一振りで容易く破壊したそうであり、その事からもこの魔獣が恐るべき力の持ち主である事が知れる。

 ただ、性格は見た目同様温厚であり、その怪力が揮われる事は滅多にない。




 四番目の魔獣は闇鯨。

 全長十メートル近くに及ぶ真っ黒な外見をした鯨型の魔獣である。個体名称は「マーベク」。

 水中ではなく影の中に潜るという異能「影走り」を先天的に有する魔獣で、これまでその目撃例は殆どない。

 また、この異能は影から影へと移動する事もできるそうである。

 この魔獣が潜り込む影は、その大きさに関係なく、どんな小さな影にでも潜り込む事ができる。

 事実、小さな小石の影にこの魔獣が潜り込む様を見た時は、驚愕する思いであった。

 性格は意外に荒く、食性も雑食で何でも一呑みで飲み込んでしまう。




 五番目に紹介するのは岩魚竜。その個体名称は「フォルゼ」

 グララン氏が使役するこの魔獣は、まだ幼生と呼べる個体であり、その大きさは成体よりも若干小さい三メートル程。

 幼生のためなのか、随分と人なつっこい。グララン氏だけではなく、氏が所有する奴隷たちにも甘えるように身体をこすり付ける仕草を見せる事が多々あった。もちろん、私にもまるで犬がじゃれるように纏わり付いてくる様は何とも可愛いものであった。

 その名が示すようにこの魔獣の外皮は異常に固く、まさしく岩のようである。手触りもまた、鱗というよりは石か岩のような硬質なものであった。

 参考までに、この魔獣が最も最近グララン氏と親交を結んだ魔獣である事を併記しておく。




 最後の魔獣は黒粘塊。個体名称は「ルルード」である。

 これまた闇鯨同様に目撃例の殆どない魔獣であり、その能力は今まで未知の領域であった。しかし、今回僅かながらとはいえその能力を明確にできたのは、研究者として実に嬉しい事実である。

 粘塊状の身体から推測されるように、剣で斬り付けたり戦棍で殴りつけても全く無意味。この魔獣に傷を与えるには、炎などの手段を用いなければならない。

 この魔獣は一度その身体に包み込んだものの姿を記憶し、粘塊状の身体をその記憶の通りに変質させる「姿写し」という異能を有する。

 その身体の構造上動きは決して素早くないが、餌を捕らえる際には上記の異能を用いて獲物を待ち伏せするか、もしくは対象と同じ姿になって群れの中に入り込んで獲物を仕留めるものと推測される。そう考えると実に恐るべき魔獣であるといえる。

 また、これは氏の使役する個体特有の特徴なのか、それとも種全体の特徴なのか不明であるが、最も好む餌は人間が分泌したり排出したりする汗や老廃物であるという。

 もちろん、この魔獣はその気になれば鉱物以外は何でも消化吸収できるとの事なので、人間などは丸ごと包み込まれて生きながら消化されてしまうだろう。おそらく、この魔獣が人の汗や老廃物を好むのは、人間で言うところの甘味に相当するのではないだろうか。




 以上が、簡単ながらもグララン氏の魔獣に関する考察である。

 それぞれの魔獣の特性や特徴は実に興味深いものがある。それらに実際に間近で触れられた事は、一研究者として望外の喜びであると言えるだろう。

 また、私はグララン氏の使役する魔獣を間近で観察した結果、一つの事実に思い当たった。

 これははあくまでも私見であり、確たる証拠はない。それでも研究者の立場からの意見として、それを記述したいと思う。

 私が氏の魔獣たちと接して感じた事、それは氏の魔獣たちは軒並その知能が高いように思われたのだ。

 もちろん、これは先述したように私見であり、この説を立証する術は今のところない。

 この説を立証するには、氏の魔獣以外の同種の魔獣を何体も用意し、比較実験を行わなくてはならない。しかし、飛竜や黒粘塊といった魔獣を何体も用意できるはずもなく、立証するのは無理と言えるだろう。

 だが、例え私見に過ぎなくても、私はここに記したい。

 グララン氏の魔獣たちが軒並知能が高く感じた理由は、かの魔獣たちは全てが人の言葉を理解している節があるからだ。

 元より飛竜や闇鯨などは普通の動物よりも高い知能を有すると言われているが、それを遥かに上回る知能の片鱗を、氏の魔獣たちは──一般に知能は殆どないと言われる黒粘塊まで──ところどころに見せている。

 魔獣たちがグララン氏の言葉を理解するのは判る。氏と魔獣たちの間には、他者には理解できない共感があるという。これは氏の異能である「魔獣使い」の成せる業である。

 しかし、魔獣たちは氏だけではなく、彼の所有する奴隷たちの言葉も聞き分けているのだ。

 もちろん、グララン氏がそのように魔獣たちに指示しているからではあるが、それでも人の言葉を理解し、その言葉に反応まで示す氏の魔獣たちは、下手をすると人間の子供なみの知能を有しているのではないだろうか。

 実際、私も氏の許可を得て幾つか飛竜に言葉をかけて見たが、飛竜はそれらにきちんと反応し、簡単な頼み事──指示した木を倒せ、など──なども聞き入れてくれた。

 グララン氏が言うには、見知らぬ他人の言葉には耳も貸さないらしい。

 これは私が、この飛竜から「知り合い」という認定を受けているという意味であり、その事実を知った時には何とも嬉しい思いをしたものである。




 また、グララン氏にはこれら六体の魔獣とは別に、「ロー」という名称の特別な魔獣がいる。

 ロー氏──敢えて私は彼に「氏」を付ける──は、他の六体の魔獣とは違い、グララン氏とは異能を通じて結ばれてはいない。元々はグララン氏の祖父であり、かの竜斬の英雄(ドラゴンスレイヤー)の一人であるガラン・グララン氏の盟友であったらしい。

 近年、そのガラン・グラランが没した後は、ロー氏とグララン氏は常に行動を共にしているという。

 ロー氏はグララン氏にとっては家族同様であり、また、最高の相棒であるそうだ。

 ロー氏のその外見は、全長三十センチほどで全身が漆黒の鱗で覆われている。その姿は翼を持ったトカゲといった、小さいながらも我々が想像する竜の姿そのもの。

 そう、ロー氏はまぎれもなく竜なのだ。

 最近ではすっかり姿を見られなくなった、幻の魔獣といわれる竜。しかし、過去の文献などによれば、以前は時々その姿が見受けられたという。

 そんなロー氏から、彼ら竜に関する何とも興味深い話を聞いたので、それもまたここに記して置きたいと思う。




 ロー氏いわく、なぜ今の時代に竜の姿が見られないのかというと、今は竜たちにとって休眠期に当たるからだそうだ。

 竜たちは現在、人の寄りつかないような辺境や魔境で眠っているらしい。

 竜たちの活動周期は約三百年。三百年活動し、三百年休眠する。現在はその休眠期も終盤に差しかかっており、あと数十年もすれば竜たちは再び活動期に入り、世界中でその姿が見られるようになるという。

 なぜ、ロー氏は休眠期にも拘わらず現在活動しているのかと尋ねたら、ロー氏は単に「早起き」したに過ぎないとの事だった。

 活動周期は約三百年とはいえ、当然それには個体によって多少の差がある。

 ロー氏は今から四十年ほど前に目覚めてその直後にガラン・グラランと出会い、彼とは共感したものがあったのでその後は一緒にいたとの事だった。

 そして、ロー氏はガラン・グラランの孫であるリョウト・グラランとも出会う事になる。




 珍しい魔獣の生態とその姿の詳細な観察。また、幻の魔獣である竜に関する意外な真実。

 これらの中には、これまでには知られていない事実が幾つもあった。

 それは魔獣の生態を研究する者として、実に嬉しい発見である。特に、竜に関する真実はおそらく世間を大いに驚かせるであろう。

 これらの機会を与えてくれたリョウト・グララン氏とロー氏の両者に、限りない感謝を捧げて今回の記述を終えたいと思う。


              王立学問所・魔獣生態研究室所属 アンナ・グールド




 『魔獣使い』更新。


 今回で以て、第2部を終了します。

 実質は前話で終了しており、今回は閑話的な内容でリョウトの魔獣に関する総括となっております。それをアンナが上へと上げる提出書という形で纏めてみました。


 話は変わりますが、今回の更新に合わせて前回の話の後半を差し替えました。

 後から読み直してみると、どうしても気に入らなかったのでばっさりと差し替え。自分的にはこっちの方がすんなりとしているのでは、と思っております。お手数かもしれませんが、再び読み直していただけると幸いです。

 とはいえ、内容的には変わりはなく、シチュエーション的な変更のみなので読み直さなくても支障はないかと。

 また、感想でつっこまれた事に関しても少々言い訳してみました。かなりこじつけ臭いですが(笑)。


さて、次回からは第3部。いよいよ終末に向かいます。


※前回、当面目標を「総合評価20,000点超」と設定し、夏の終わりまでに達成できるか、と記述しましたが、夏の終わりまではおそらく無理でしょう(笑)。年内に達成できるかどうかといったところです。

 現在の総合評価が10,701点。前回より300点ほどは増えておりますが、まだまだ当分無理そうです(笑)。



 では、次回もよろしくお願いします。

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