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魔獣使い  作者: ムク文鳥
第2部
23/89

11-岩魚竜攻防戦

 強烈な衝撃に、ぐらりと身体をよろめかせる岩魚竜(いわぎょりゅう)

 続けて第二撃を打ち込もうとしたアリシアだったが、今日初めて実戦で使う不慣れな棹斧(ポールアックス)の目測を少々謝り、二撃目は先端の斧部分が岩魚竜の身体を掠めるに終わった。

 間髪入れずにアリシアの隣にいたリークスが、槍を力一杯真っ直ぐに繰り出す。

 だが、リークスの一撃は、岩魚竜のその固い体表を貫く事ができず、軽い音と共に弾かれただけだった。


「ぐ──っ、な、何て固いんだ……っ!!」


 痺れる腕に無理矢理力を込めつつ、リークスが苦しげに呻く。

 そして、岩魚竜の感情の読めない大きな目玉が、ぎょろりと自分に打撃を与えた存在に向けられる。

 背中に薄ら寒いものを感じたアリシアは、棹斧の彼女の身長の半分ほどもある斧部分を身体の前方に翳して両手で支える。

 そこにがつんと、とてつもなく重い衝撃が来た。

 身体をぐるりと回転させた岩魚竜が、その巨体に見合った膂力で巨大な尻尾を横凪にふるったのだ。

 間一髪間に合ったものの、尻尾の勢いを完全に殺す事ができなかったアリシアの身体は、大地に二つの溝を刻みながら数メートルの後退を強制させられた。

 リークスの方は尻尾の一撃を素早くしゃがみ込んで躱しており、伸び上がりざまに再び槍を突き入れるも、先程同様虚しく弾かれるだけだった。


「槍で攻撃するなら鱗の隙間か、鰭の付け根を狙え!」


 背後からリョウトの指示が飛ぶ。


「うるさい! 確かに協力するとは言ったが、おまえに従うとは言っていないっ!!」


 振り向くような愚かな真似こそしないものの、不満たらたらの声でリークスが叫ぶ。

 そんなリークスを、再び横に並ぶように立ったアリシアが一喝する。


「リョウト様の指示に従ってっ!! いいわねっ!?」

「むぅ、アリシアさんがそう言うなら……ん? リョウト()……?」


 アリシアの一言が気にかかったリークスだったが、今はそれどころではないと一時的に頭の隅にそれを追いやる。

 改めて岩魚竜へと目を向ければ、その岩魚竜は四肢の代わりに(ひれ)を用いて大地にしっかりと己の身体を固定させたところだった。

 その姿勢は先程も見た、水を噴射する際の態勢に間違いない。

 慌てて岩魚竜の正面から退避するアリシアとリークス。

 だが、岩魚竜の口から放出された水は、先程のように真っ直ぐに吐き出されるのではなく、散弾のように周囲にまき散らされるように飛び出した。



「………………」


 リョウトたちと岩魚竜が死闘を繰り広げている戦場から少し離れた場所で。

 アンナは腕の中のローを抱き締めながら、じっと戦況を見詰めていた。

 いや、正確に言えば、彼女が注視しているのは戦況ではなく岩魚竜そのものだ。

 攻撃に移る際のちょっとした前動作。固い体表の中で少しでも柔らかそうな箇所など。

 少しでもリョウトの役に立とうと、アンナは必死になって岩魚竜を観察する。

 と、岩魚竜が各鰭を踏ん張るように広げた。


「あれは──っ!!」


 水噴射の態勢。

 アンナはその事をリョウトたちに告げようとした。が、彼女が指摘するより早く、リョウトたちは咄嗟に散開し、岩魚竜の前より退避する。

 それを見たアンナがほぅと安堵の息を吐くより早く、岩魚竜の口から水が噴射された。

 しかし、それは先程の様な直線状の噴射ではなく、前方に無作為に散まかれるように吐き出されたのだ。


「────っ!!」


 声にならない悲鳴を上げるアンナ。

 だが、散弾状の水噴射は直線状の噴射に比べて速度・威力とも劣るようで、至近距離にいたアリシアは棹斧を再び楯のように掲げて直撃を防ぎ、比較的距離のあったリョウトは左手の楯を翳しながら何とか防御に成功したようだった。

 岩魚竜との距離の開いていたルベッタに至っては、彼女の所まで到達した水噴射は極僅かだったという事もあり、事もなげに回避している。

 唯一、防御手段が回避しかなかったリークスだけが、幾つかの水の散弾を喰らったようで仰向けに倒れ込んでいた。

 よく見れば何とか起き上がろうとしているので、大事には至っていないらしい。


「厄介だな、あれは」


 腕の中のローが呟き、それにアンナも同意してこくんと頷いた。

 岩魚竜は水を噴射する際、鰭を踏ん張るように広げた態勢を取る。

 そこまではいいのだが、その吐き出される水が直線状なのか散弾状なのかの区別がつかないのだ。

 直線状なら前方から退避するだけでいいのだが、散弾状ではそうはいかない。

 どんな些細な事でもいい。水を吐き出す際に直線状と散弾状の違いが判れば。

 アンナはその差異を見極めんと、更に岩魚竜の挙動に意識を集中させた。



「アリシア! リークスが起き上がるまで傍で彼のガード! ルベッタ! 少しでいいから注意を引きつけろ!」

「判ったわ!」

「承知!」


 リョウトの指示にアリシアとルベッタは口々に了承を告げると、それぞれ素早く動き出す。

 アリシアは倒れたリークスの前に立つと、先程同様棹斧を前方に掲げて防御姿勢を取る。

 ちらりとリークスの様子を伺えば、彼の板金製の胸鎧が数ヶ所べこりと凹んでいた。だが、リークスは呻きながらも何とか身体を起こそうとしているので、骨などにまでダメージは及んではいないようだ。

 その間にルベッタは弾かれるのを承知で素早く矢を何本も撃ち込んだ。

 幾つも自分の体にぶつかってくる矢。岩魚竜は煩わしそうに矢の飛んでくる方へと一瞥をくれる。

 ほんの一時、岩魚竜の意識が後方のルベッタに向けられた隙に、リョウトは素早く岩魚竜に肉薄する。

 リョウトはアリシアとリークスの態勢が整うまで、前線で時間を稼ぐつもりなのだ。

 近づいた勢いもそのままに、彼は手にしたメイスをその鼻面に思いっ切り叩きつけた。

 がきんという景気のいい音と共に、思わず身体を仰け反らせるように頭部を振り上げる岩魚竜。

 頭部を振り上げたまま、ぎろりと岩魚竜の目が痛撃を与えたリョウトを上から捉えた。

 岩魚竜は振り上げた頭部を、そのまま眼下にいるリョウト目がけて打ち下ろす。

 まるで巨大な戦槌のような岩魚竜の頭部による殴打。その一撃はとっさに楯を構えたリョウトを確実に捉えた。

 どがんという轟音と地を揺らす衝撃。そして、もうもうと立ち籠める砂煙。


「リョウト様っ!?」


 その叫び声を上げたのはアリシアか、ルベッタか。それとも離れた場所のアンナであったかも知れない。

 悲痛に歪むアリシアの表情を盗み見ながら、リークスもそちらへと視線を向ける。

 丁度彼が視線を向けられた先で、立ち籠める砂煙を突き抜けて何かが飛び出した。

 それは地面の上を数回ごろごろと転がると、その勢いを利用して身体を起こす。


「リョウト様っ!!」


 歓喜にアリシアの表情がほころぶ。遠目で判りづらいが、きっとルベッタも表情を緩めているだろう。

 しかし、次の瞬間、起き上がったリョウトの間近にいたアリシアの表情が再び悲しげに歪められた。


「リョウト様っ!! 腕に怪我を────っ!!」


 アリシアの言葉通り、リョウトの左肩の辺りに大きな裂傷が刻まれ、多量の血が流れ出ていたのだ。


「心配ない。奴のエラが掠めただけだ」


 視線を岩魚竜に固定したままリョウトが告げる。

 魚の中には鋭い鰓を持つものが存在するが、どうやら岩魚竜もその例であったらしい。

 リョウトは楯で岩魚竜の打ち降ろしの頭突きを受け流そうとしたのだが、その際に鰓が左肩の辺りを掠めたらしく、そこを切り裂かれたのだ。


「簡単に手当てをする。二人で少し時間を稼いでくれ」

「はい!」

「あ、アリシアさんと一緒にかっ!? よ、よよよ、よし、任せろっ!!」


 元気よく頷くアリシアと、頬を紅潮させるリークス。

 リョウトは苦笑を浮かべながら素早く後退し、その彼と岩魚竜の間に飛び込んだ二人がそれぞれ武器を振り回して威嚇する。

 そうして後退したリョウトの元に、今度はルベッタが静かに近寄って来た。


「大丈夫か、リョウト様?」


 ルベッタはリョウトの傷の具合を確かめつつ声をかける。


「ああ。出血は酷いが深い傷じゃない。取りあえず、簡単な止血をしておけば大丈夫だろう。本格的な治療は狩りが終わってからだ」

「了解」


 ルベッタは腰に装備していたポーチから清潔な布を取り出すと、それでリョウトの肩を縛り止血とした。


「さすが元傭兵。手慣れたものだ」

「まあな。傭兵稼業じゃこんなのは日常茶飯事だからな」


 一応の手当てを済ませた二人は一瞬だけ視線を交わすと、互いに軽く唇同士を合わせて再び動き出す。

 リョウトは前衛の二人のカバーのために前へ。ルベッタは最適な狙撃場所を求めて後ろへ。

 岩魚竜との死闘はまだまだ続きそうだった。



 渾身の力を込めてアリシアが棹斧をふるう。

 がこんという派手な音と共に、岩魚竜の鱗が一枚剥がれて宙に舞う。

 そしてそこから流れ出した赤い血液が、たらたらと岩魚竜の体表を滴り落ちる。

 苦悶するように身を捩る岩魚竜。そしてその傷ついた箇所を、今度はリークスの槍が正確に抉り貫く。


「さすがだ、アリシア。リークスもなかなかの連携だな」


 背後からの声に振り返ったアリシアの顔がぱっと華やぐ。

 そんなアリシアを見たリークスの表情が、彼女とは真逆に悔しそうに歪む。


「怪我は大丈夫、リョウト様?」

「ああ、問題ない」


 すすっとリョウトへと身を寄せるアリシアと、そんな彼女を軽く抱き寄せながら告げるリョウト。

 アリシアは間近に迫ったリョウトの頬にさっと唇を触れさせる。

 そしてリョウトもお返しに彼女の頬に軽くキスを落とす。

 そのまま何事もなかったように離れる二人。だが、その光景をしっかりと見てしまったリークスは思わず立ち止まってあんぐりと口を開けた。


「リークス! 突っ立っていると危険だぞ!」

「う、うるさいっ!!」


 間髪入れずに注意を促すリョウトに、リークスは思わず叫び返すとそのままアリシアの後を追って走り出す。


「あ、ああああ、アリシアしゃん……っ!!」


 ひっくり返った声で背後から自分の名を呼ぶリークスに、アリシアは横目で視線だけを彼へと向ける。


「さ、ささささ、さっきのは……さっきのは一体……っ!?」

「あ、あれは………」


 ぼん、という音が聞こえそうな勢いで真っ赤になったアリシア。


「そ、その、あ、あれは、あ、あああああ、あれよっ!! け、景気づけっ!! そ、そう、景気づけよっ!!」


 真っ赤になったまま言い切るアリシアと、ぱっと顔を輝かせるリークス。だが、次の瞬間には彼はアリシアに劣らないほど真っ赤になった。


「そ、そそそそそそれなら、お、おおおおおおおお俺にも景気づけを──っ!!」


 緩んだ顔で自分の頬を指さしながら催促するリークスに、それまで真っ赤だったアリシアの顔色がすっと普段通りに戻った。


「い・や」


 きっぱりと。すっぱりと。ご丁寧に一字ずつ区切るように。

 アリシアはリークスの申し出をばっさりと切り捨てた。


「やれやれ。狩りの真っ最中に何をやっている……」


 そんな彼らを背後から見ていたリョウトが、呆れたように少し肩を落として呟いた。



 『魔獣使い』更新です。


 いや、今回何が書きたかったかって、戦闘中にいちゃつくリョウトたちが書きたかった。

 それと同時に道化なリークス君も書きたかった。はっきり言って彼は報われません。ええ。


 当『魔獣使い』もなんとか順当にここまで来ました。

 これらは偏に各種の支援をしてくださる皆さんのおかげです。ありがとうございます。


 今後ともよろしくお願いします。

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