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魔獣使い  作者: ムク文鳥
第2部
19/89

07-再びゼルガーへ

「……まさか、再びここに来る事になるなんてね……」

「……遺憾だが同感だ」


 顔を顰めながらそう呟いたのはアリシアとルベッタの二人。

 だが、彼女たちが陰鬱な気分になるのも無理はないだろう。

 なぜなら彼女たちは今、以前に二人が奴隷として売られたロズロイ奴隷商に再びいるのだから。



 ゼルガーの町。

 リョウトが二人の奴隷の主となった場所。三人の旅の始まりの場所。リョウトたちにとって様々な縁のあるこの町に、今再び彼らは訪れていた。

 目的はもちろん、この町を流れるコラー川の下流に出没する岩魚竜(いわぎょりゅう)討伐のためだ。

 事前に皆で相談した結果、まずはこの町で岩魚竜に関する情報を集める事にした。

 そのためアリシアとルベッタは、以前この町に滞在した時に宿にしていた『雲雀(ひばり)の止まり木』亭に向かうとばかり思っていた。

 酒場や宿屋は様々な情報が行き交う場所である。事実、彼らが以前に逗留していた時にも、数多くの魔獣狩り(ハンター)たちが『雲雀の止まり木』亭を宿としていた。

 だからアリシアとルベッタは、てっきりそんな魔獣狩りたちから岩魚竜に関する情報を集めるのだとばかり思っていたのだ。

 しかし。

 この町に到着したリョウトは、そのまま真っ直ぐにとある場所へと足を向けた。

 そのとある場所こそが、以前に彼女たちが奴隷として落とされたロズロイ奴隷商であったのだ。



「お久しぶりでございます、リョウト様。片紅目(かたあかめ)の吟遊詩人の王都での評判は、この町まで届いておりますぞ」


 ロズロイ奴隷商を訪れたリョウトたちは、すぐに奥の部屋へと案内された。

 そしてそれほど待つ事もなく、ここの主人であるロームが姿を見せた。


「して、本日はどのようなご用件で? まさかそちらの女性を奴隷として売りたい……というわけではありませんでしょう?」


 ロームの視線がリョウトの隣に座るアンナへと向けられる。

 奴隷として売る、という言葉に思わずびくりと震えながら、アンナは隣のリョウトをおそるおそる見る。

 そのアンナに、リョウトは苦笑しながら否定の意味で首を横に振ると、改めてロームに切り出した。


「僕がここを訪れたのは情報が欲しいからだ。コラー川の下流に出没するという岩魚竜の詳細な情報が欲しい」

「コラー川の岩魚竜……でございますか?」


 一瞬だけ不思議そうな顔をしたロームだったが、リョウトやアリシアたちが身につけている魔獣鎧(まじゅうがい)魔獣器(まじゅうき)を見て、得心したように頷くと言葉を続けた。


「なるほど。あの依頼を受けたのがリョウト様でしたか。いやはや、奇遇でございますな」


 今度はリョウトたちが不思議そうな顔をする番だった。


「実はわたくしが国に陳情したのですよ。コラー川の岩魚竜を何とかして欲しい、と。この件が国軍では手に負えず魔獣狩りに回されたという話は聞き及んでおりましたが……まさか、それを受けたのがリョウト様だったとは」


 聞けば、彼の商会が所有する船が既に何艘も岩魚竜によって沈められているらしい。

 そういえば奴隷以外にも扱う商品があると、以前にロームから聞かされた事をリョウトは思い出した。



「最近の船が沈められたのはここ……カノルドスと隣国のオーネスとの国境付近です」


 ロームはテーブルの上に広げられた地図の一点を、彼と同じように地図を覗き込んでいるリョウトたちに指し示す。


「それ以外の船は?」

「やはり大体同じ辺りですな。沈められた船の乗員の生き残りから聞いた情報なので間違いございません」


 幸いにも、船は沈められたが乗員はその殆どが無事に岸に泳ぎ着く事ができた。

 もちろん、中には怪我を負った者も少なくないが、その殆どは軽傷だった。しかし、不幸にも命を落とした者もいる以上、岩魚竜を野放しにするのは問題だとロームは判断したのだ。


 それ以外にもリョウトはロームから様々な情報を聞き出した後、腕を組んで考え始めた。

 奴隷であるアリシアとルベッタは言うに及ばず、ロームもアンナも黙って彼を見詰める。

 しばらくそうやって考え込んでいたリョウトが、アンナへと視線を向けた。


「岩魚竜の主食……主な食べ物は何か判るかい?」

「岩魚竜の主食ですか……? はい、少々お待ちください」


 アンナは背嚢から持参してきた資料を取り出すと、その内容に目を走らせる。


「──過去の調査記録によりますと、岩魚竜は主に他の魚を食べているようですね、はい」

「陸に揚がって他の動物を襲うような事は?」

「はい。少なくとも記録にはありません」


 次にリョウトが質問したのはロームだった。


「沈められた船の大きさは?」

「前回沈められたのは河川用の船とはいえ、積荷を積み込む必要がありますからそこそこの大きさです。そうですな、ざっと船の長さが10メートル弱、幅が4メートル強といったところですか。前回の船はこれまで沈められた船の中では最大の大きさで、これ以外に沈められたのはもっと小さな船でございます」


 リョウトは再びアンナに視線を戻す。


「岩魚竜の平均的な大きさは4メートルぐらいって話だったね?」


 その質問に、アンナは黙って頷いた。

 そして、次の質問は再びロームへと向けられたものだった。


「今回現れた岩魚竜の大きさは判るかい?」

「具体的な大きさは判りかねます。申し訳ございません」

「岩魚竜は、自分よりも大きなものに進んで襲いかかるような気の荒い魔獣なのか?」


 再度アンナに向けられた質問に、彼女は首を傾げながら自信なさそうに答えた。


「いえ……どちらかといえば、大人しい部類の魔獣だと聞いています。自分よりも大きなものに襲いかかるなんてことは……もちろん、攻撃を受ければ反撃をするでしょうが……はい……」


 それらの事を聞き出したリョウトは、再び腕を組んで考え込む姿勢になる。

 そんなリョウトを黙って見詰めていたルベッタが、なるほどと頷きながら小さく呟いた。


「……リョウト様が何を考えているのか判ったぞ」

「……どういう事?」


 そう聞き返したのは、もちろん隣にいたアリシアだ。


「きっとリョウト様はこう考えているのさ。本来大人しい筈の岩魚竜が、どうして自分よりも大きな船を沈めたりするのか、ってな」



 情報を集め終えたリョウトたちは、ロズロイ奴隷商を後にした。

 ロームは以後の情報だけでなく、実際に討伐する際の船の手配まで申し出てくれた。

 元々、彼が国に陳情した件であるし、リョウトたち以外の者が討伐に赴いても船は用意するつもりだったそうだ。

 リョウトたちにしても実際には陸で戦う予定だが、それでも船があるのはやはりありがたいので、ロームの申し出を受ける事にした。

 そして今、リョウトたちは『雲雀ひばりの止まり木』亭へと向かっていた。

 前回この町を出る時に、ここにまた来る時は『雲雀の止まり木』亭に泊まると宿の主人と約束していたし、他に妥当な宿屋を知らないリョウトは、迷う事なく今回も『雲雀の止まり木』亭を利用する事にしたのだ。


「おう、いらっしゃ……リョウトじゃねえか!」


 宿の入り口を潜った瞬間、リョウトを見た主人が嬉しそうな声を上げる。

 リョウトも主人の元気そうな顔を見て笑みを浮かべた。


「親父さんも元気そうでなにより」

「おまえもな。ん? この前より一人ばかり多いな。まさか、また奴隷を買ったのか?」

「違うよ。彼女はアンナ。今回の仕事の同行者だ。言ってみれば助言者(アドバイザー)ってところかな」


 と、リョウトはアンナを主人に紹介する。


「そうか。ま、何だっていいさ。おまえの連れなら歓迎するよ。ところで今、仕事って言ったな? どんな仕事でゼルガーに?」


 リョウトは岩魚竜の件を主人に説明した。

 主人はリョウトから話を聞いて、にやりと笑いながら改めてリョウトたちを眺める。


「確かに吟遊詩人が自衛のために武装するには仰々しいとは思っていたけどよ……まさか、魔獣狩りも兼業していたとはな」

「僕としては、兼業しているつもりは全くないけどね」


 そう言って笑い合うリョウトと主人。

 だが、主人が不意に何かを思い出したかのように笑いを止めた。

 そして店の酒場にいた魔獣狩りらしき男に声をかける。


「おい、ジャッド! リークスの奴、今朝方狩りに行くとか言って出ていったけど、どこへ何を狩りに行くったか知らねえか?」


 主人のその問いかけに、テーブルの一つで食事中だった男が顔を上げた。


「あいつなら、最近コラー川に出るっていう岩魚竜の噂を聞いて、それを狩るって言ってたぜ? 俺たちはおまえじゃまだ岩魚竜は無理だって言ったんだけどよ? 余計にむきになって結局行っちまったよ」


 その男がそう告げると、主人は渋い顔をしながらリョウトへと振り返った。


「聞いての通りだ。どうやら正規の討伐依頼が出ていた事を知らなかったようだな」


 魔獣狩りには彼らを取り纏める組織などはない。そのため、今回のようなケースは稀にだが発生する。

 基本的に、獲物は早い者勝ちであり、先に仕留めた者がその所有権を得る。

 だが、魔獣討伐の依頼を引き受ける酒場などは、できるだけこのようなブッキングの発生を避けたがる。

 なぜなら正規の依頼には依頼料が発生するからだ。その際、依頼を仲介した酒場などにはその依頼料の役一割が仲介料として納められる。

 例えば、依頼料が銀貨10000枚の討伐の場合、仲介した店に銀貨1000枚が、残りの9000枚が実際に討伐した魔獣狩りに支払われるのだ。

 普通は仕留めた魔獣の肉や皮、牙や爪を売り払ったものが魔獣狩りの収入となる。それに加えて依頼料も入る依頼討伐は、魔獣狩り側からしても美味しい仕事と言える。

 だからと言って、だれでも依頼討伐を受けられるわけではない。

 仲介する店側としても、依頼を成功させて初めて報酬が入るのだから、確実に依頼目標である魔獣を仕留められる実力を持った魔獣狩りに依頼する。

 だけど、今回のような偶然はどうしても防ぎようがない。

 そのため、依頼の仲介をする者は依頼討伐のある魔獣をあらかじめ公開し、ブッキングを避けるようにする。

 今回は王都で依頼討伐が発生したため、この町までその情報が伝わるのが遅くなったようだ。

 実際、この店の主人もここを根城にする魔獣狩りたちも、コラー川に出没する岩魚竜の噂は聞いていたが、その岩魚竜が依頼討伐の対象である事までは知らなかった。

 もし知っていれば、依頼を受けずに狩りに行くことはないし、周囲も絶対に行かせはしない。


「仕方ないよ。それより、その岩魚竜を狩ろうと出ていったって魔獣狩り、実力的には大丈夫なのかい?」


 リョウトのこの質問に、主人は露骨に顔を顰めた。


「いや、正直言って、実力不足もいいところだ。あいつ……リークスっていう奴なんだが、あいつの実力じゃ岩魚竜は狩れないだろう」


 主人のその言葉に、先程返事をしたジャッドという名の魔獣狩りもしきりに頷いている。


「じゃあ、どうして? 普通、魔獣狩りは実力に見合った獲物しか狩らないものでしょう?」


 アリシアのその疑問に答えたのは、この店の主人ではなくジャッドという名の魔獣狩りだった。


「あいつはむきになっているのさ。普段、周囲から妄想野郎って馬鹿にされているからな」

「妄想野郎?」

「そうそう。あいつは自分の妄想をしょっちゅう口にしているのさ。だからいつも周囲から揄われ、馬鹿にされたりする。それでも……いくら馬鹿にされようが揄われようが、妄想を口にし続ける根性だけは買うけどな」


 ジャッドの言葉を聞いたリョウトは、いまだにしょっぱい顔をしたままの店主へと向き直る。


「それで? そのリークスって魔獣狩りはどんな妄想を口にしているんだい?」

「ああ、あいつがいつも言うのは……暗黒竜バロステロスは生きているって言うのさ。しかも、バロステロスの力を封じ込めた封印が自分の中にあるって言うんだ」


 暗黒竜バロステロス。その名前を聞いた時、今度はリョウトがしょっぱい顔した。



 『魔獣使い』何とか更新できました。


 本当なら二日ほど前に更新できていた筈だったのに……途中まで書いた原稿をすっぱりと切り捨て、新しく書き直したためにすっかり遅くなってしまいました。申し訳ありません。

 ところで今回の最後に出てきた暗黒竜バロステロスですが……みんな覚えているかなぁ? 第1部で名前だけ出てるんだけど……。


 次こそはもう少し早く更新するように努力します。今後ともよろしくお願いします。

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