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魔獣使い  作者: ムク文鳥
第2部
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02-愚鈍牛狩猟の理由



 その日、リョウトたち一行は静かな山間の村落を訪れていた。

 当面の目的地であった王都に辿り着いたリョウトたちは、次の目的をどうするか相談し合った結果、しばらくは王都で過ごして、その後はリョウトの当初の予定通り、王都を拠点としてこの国を旅する事と決まった。

 王都に滞在中はリョウトがその喉を遺憾なく発揮して、滞在費と次の旅に必要な路銀以上の金銭を容易に稼ぎ出した。

 近頃の王都では、片紅目かたあかめの吟遊詩人としてリョウトの名前はちょっとしたものにまでなっている。

 もちろん、彼の傍に常に付き従う、二人の美しい奴隷の存在も彼の名を高める助けとなっていた。

 そしてしばらく王都で過ごした後、三人は旅に出た。最初の目的地は北西部の山岳地帯。その辺りには有名な温泉町があると知り、興味を引かれたリョウトがそこを訪れる事に決めた。

 もちろん、二人の奴隷たちもそれに二つ返事で承知した。

 そしてバロムの翼の力を借りることなく、徒歩での数日の旅の後。彼らは目的地である山岳部の村落の一つに辿り着いた。

 そして、そこである問題に巻き込まれたのだ。



 リョウトたちが訪れた村は、どうやら獣人族が主な住人の村のようであった。

 獣人族とは、文字通り直立歩行する獣といった外観の種族で、様々な亜種が存在する。

 代表的なところでは犬人族コボルト猫人族カラカル豚人族イベリコ兎人族イヤロップなど。

 どの亜種も身長は人間の大人の腰ほどで、全ての亜種に共通する特徴として、力は人間よりも弱いが手先が器用で臆病な性格などがあげられる。

 獣人族の殆どは人間の街や村で暮らしているが、中には彼らが中心の集落や、彼らだけの集落を築く事もある。どうやらこの村はそんな村の一つらしい。

 人間の町などでは、人間の営む商店や食堂などで下働きをする事が多い。中には自身で商店や宿屋を営む者もいる。

 貴族などの上流社会の間では忌避される傾向なものの、一般市民の間では人間と同格の存在として扱われる。

 ちなみに、獣人族は全て男女で外観が変わらない。なので人間からすれば一目で獣人族の男女の見分けはまず不可能である。



 それは、リョウトたちが村に入り、幾つも軒を並べる温泉宿のどれに逗留しようか迷いながら村の通りを歩いていた時だった。

 背後から彼らに声をかけてきた人物がいたのだ。


「もし、あなたがたは魔獣狩り(ハンター)ですかな?」


 振り返ったリョウトたちの視線の先には一人の犬人族。

 灰色の長毛の犬人族で外見はシュナウザー種に似ている。そして声から判断して男性のようだ。それも年を経た十分に重みのある声。


「いや、僕たちは旅の者で魔獣狩りじゃない。この村へは温泉目的で来ただけだよ」

「その成りで……魔獣狩りではないと仰るか?」


 今、リョウトたちが身につけている装備は、とてもただの旅人が身に纏うようなものではなかった。

 三人とも赤褐色の鱗の目立つ魔獣の素材をふんだんに使った装備。その中でもリョウトの紫水竜の剣(アメジストソード)と、アリシアの飛竜刀(ワイヴァンブレード)は特に目を引いた。

 これらの装備の素材は飛竜のものだ。飛竜といえば魔獣の森の長であるバロムに代表されるように、かなりレベルの高い魔獣である。その飛竜の素材を用いた装備をしているのに、魔獣狩りではないと言ってもなかなか信じては貰えないだろう。

 これらの装備の元となった素材は、もちろんバロムのものである。

 実は先日、バロムが脱皮をしたのだ。

 脱皮した殻は、直接飛竜から剥ぎ取った皮膚や鱗、甲殻などに比べると強度的に劣る。だが、それでも並みの金属よりは強靭であり、巨躯を誇るバロムの殻は、リョウトたち三人分の装備に用いてもなお余る程であった。

 更に今まで傷ついたり痛んでいた牙や爪も脱皮の際に抜け落ち、新たなものが生え揃った。

 アリシアの飛竜刀はこの抜け落ちた爪で鍛えられているし、初撃で愚鈍牛の足を貫き転倒させたルベッタの矢も、飛竜の牙を鏃に用いてあった。

 その後、余った抜け殻は王都の魔獣の素材を扱う店に売ったのだが、その際、飛竜の脱皮した抜け殻を偶然旅の途中で見つけたと適当にごまかした。

 まさか、知り合いの飛竜が脱皮したものだとは言えないし、言ったとしても知り合いに飛竜がいるなど誰も信じないだろう。

 そんなわけであるから、リョウトたちを知らない者から見れば、彼らが魔獣狩りだと思っても無理のないことなのだった。



愚鈍牛ぐどんうし?」


 犬人族の男性──どうやらこの村の村長むらおさらしい──が言うには、近くの渓谷に愚鈍牛が住み付いたらしい。

 現在、リョウトたちは村長の案内で、村の中心にある温泉宿で彼から詳しい話を聞いていた。そして、その渓谷にはこの村の温泉の一番の目玉である渓谷沿いの露天風呂があるのだが、愚鈍牛のせいでその露天風呂が使えないのだそうだ。


「それで、あんたは俺たちにその愚鈍牛の退治を依頼したかったわけか」

「はい。てっきりあなた方は魔獣狩りだと……しかも身に付けているものから判断しても、相当腕の立つ魔獣狩りだとばかり……」


 ルベッタの言葉に、村長は肩を落としながら答えた。

 ついでに、彼の耳もぺたんと力なく伏せられた。

 そんな村長の態度に、リョウトはふうと諦めの混じった息を零す。


「その愚鈍牛って強いのかい?」


 そうリョウトが尋ねたのは、今まで村長と話していたルベッタではなく、静かに控えていたアリシアの方だ。

 駆け出しだったとはいえ、魔獣狩りであった彼女なら、愚鈍牛の具体的な強さを知っているのではと思ったのだ。

 そしてその考えは的を得ていた。


「ええ、強いわ。もっとも、私は直接対決した事はないけどね。聞くところによると、動きは鈍いけど、力はかなり強いそうよ」

「俺は傭兵時代に一度だけ対峙した事があるな」

「へえ? それでどうだった?」

「今アリシアが言った通り、動きは鈍いから向こうの攻撃を避けるのは容易いし、こちらの攻撃も当てやすい。しかし、愚鈍牛の恐るべきところは攻撃力よりも防御力の方だな」


 相変わらず渋い口調でルベッタはそう告げた。


「それで倒せたのかい?」

「結果的にはな。ただし、俺を含めた五人がかりで三日かかった。愚鈍牛は何度剣で斬ろうが槍で突こうが一向に倒れない。本当に恐るべきタフさだったよ」


 肩をすくめるルベッタを横目に見つつ、リョウトは何かを考え込む様子を見せる。

 考え込んでいる主に聞こえないように、彼の二人の奴隷はこっそりと会話を交わす。


「まあ、どんなに強い魔獣だろうが、俺たちのご主人様が奥の手を使えば倒せない魔獣は少ないと思うがね」

「確かにそうね」


 二人が知るリョウトと縁を結んだ魔獣は飛竜のバロムだけだ。しかし、彼は全部で五体の魔獣と縁を結んだと言っていた筈である。だとすれば、バロムに匹敵する魔獣が他にもいたとしても不思議ではない。

 もし、リョウトが縁を結んだ全ての魔獣を一度に呼び寄せれば、きっと万の軍勢相手でも引けを取らないんじゃないかとひっそりと考える奴隷たちであった。



 結局、リョウトは村長の依頼を受ける事にした。

 村長が提示した報酬は銀貨5000枚。これは愚鈍牛の討伐依頼と考えるならば、破格の安値といえる値段だった。本来なら、愚鈍牛一頭の討伐はこれの倍あたりが相場だろう。

 リョウトが破格の値段で引き受けたのは、自分たちが本職の魔獣狩りではないことと、リョウトには現在奴隷たちにも告げていない秘かな目的があり、その目的のために本来の半額で受ける事にしたのだ。

 もちろん、鄙びたこの村に銀貨10000枚という大金を出すのは難しいという理由もある。その代わり、村の温泉施設は今後無料で自由に利用できるという約束を取り付けたが。

 そしてその日は村に泊まり、翌朝早くからリョウトたちは愚鈍牛狩りに出かけた。その際、村人総出で見送られたりして、なんともむずがゆいような気分の出立だったけど。

 村の住人の中には愚鈍牛の具体的な特性などを知っている物知りもいて、村長もどんなに早くてもリョウトたちが村に帰ってくるのは数日後だろうと思っていた。いや、下手をすると帰って来られない可能性も考えていた。

 だが、リョウトたちは出かけたその日の夕方前には村に戻ってきた。それも愚鈍牛を討伐した証に切り落とした頭部を携えて。

 露天風呂でリョウトの言った最後の仕事とは、この愚鈍牛の頭部を切り離す作業の事だった。

 あまりにも早い愚鈍牛の討伐に村長を始め村人全員が驚愕し、次いでリョウトたちを称える盛大な歓声が沸き起こる。

 そんな大歓声の中、出かける時よりも更にむずがゆい思いをしながら凱旋したリョウトたち。彼らは村人たちが見守る中、村長に愚鈍牛の頭部を入れた麻袋を引き渡した。

 小柄な獣人族である村長は、受け取った麻袋を支えきれず思わず尻餅をついた。


「約束通り、愚鈍牛を退治して来たよ」

「驚きましたな。まさかこんな短時間で愚鈍牛を退治されるとは……」


 尻餅をついた姿勢のまま、村長は感嘆の篭もった視線でリョウトを見上げた。


「後、約束通り愚鈍牛の後始末は任せていいよね?」

「もちろんですとも。村人総出で取りかかりましょう」


 退治した愚鈍牛の亡骸はそのまま森の中に放置してある。愚鈍牛はとても人間三人で運べるようなものではないからだ。

 リョウトの魔獣──ガドン辺りに協力して貰えば何とでもなるだろうが、彼が使役する魔獣の事はあまり他人に知られない方がいいので、愚鈍牛の亡骸の処置は予め村人たちに頼む事にしたのだ。

 それも、愚鈍牛の皮革や肉もそのまま村に寄贈するという条件で。

 実は愚鈍牛の肉は美味であると評判であり、王都にでも持ち込めばかなり高額で取引されるだろう。もっとも、愚鈍牛の肉の一部は村で薫製にして貰った上で、リョウトたちが貰い受ける約束になっているが。

 そんなわけなので、村長が早速嬉しそうに愚鈍牛の亡骸回収の指示を村人に出し始める。あまり長い時間亡骸を放っておくと、肉などが腐敗するのはもちろんだが、その死肉を目当てに他の魔獣がやって来ないとも限らないのだから。

 そんな時、ルベッタが村長にちょっとした事を申し出た。


「……はあ。愚鈍牛の皮膚の一部ですか?」

「ああ。実は愚鈍牛の皮膚というのは丈夫な上に弾力にも富んでいてな。弓や弦の素材に使えるんだよ」


 今、彼女が使っている弓は複数の木材を貼り合わせて作った合成弓(コンポジットボゥ)である。

 飛竜の抜け殻は硬度はあっても弾力には乏しいので、弓の素材には向いていなかった。だから今回、ルベッタは愚鈍牛の皮膚を用いて合成弓を強化するつもりなのだ。


「ええ、もちろん構いません。今回リョウト殿たちには散々お世話になりましたからな。それぐらいお安いご用ですとも」


 村長の快諾を得て、ルベッタは愚鈍牛の皮膚の一部を貰い受ける事になった。



 その後数日村に滞在したリョウトたちは、たっぷりと温泉を堪能して王都へと帰る事にした。

 人目のないところではローもこっそり温泉に浸かってご機嫌だった。もちろん、あの腹を上にしてぷかーと浮かぶ入浴方法で。

 リョウトも単に湯に浸かるだけでなく、湯で上気した奴隷たちの肌を散々堪能したりした。

 そして王都への帰路の途中、やはり上機嫌で彼の後ろを歩くアリシアとルベッタの気配を感じながら、リョウトは己の秘かな目的について思いを馳せた。

 彼の秘かな目的とはアリシアとルベッタを奴隷から解放する事であった。

 そのための手段として、彼はまず何らかの形で名声を得る事を求めた。

 吟遊詩人としてでもいいし、その他でも構わない。ともかく名声を得る。

 名声を手に入れた後は、それを元にどこかの貴族などの統治者と親睦を結ぶ。そして、その伝手でアリシアとルベッタを奴隷から解放するのだ。

 もしくは、名声を得てリョウト自身が何らかの形で統治者となってもいい。それでも彼の目的は果たされるだろうから。

 だから今回、彼は格安の値段で愚鈍牛の討伐を引き受けた。それも退治した愚鈍牛をそのまま村に譲るという破格の条件で、だ。

 幸い今回の舞台は人が集まる温泉町。リョウトたちの今回の活躍は、この町を訪れる人々の間にゆっくりとだが広まっていくだろう。

 もちろん、今回だけで十分な名声を得られるとは思っていない。今後も更に何らかの形で活躍し、人々の口に上る必要があるだろう。

 それが何年先になるのか判らない。ひょっとすると、正規の手続きをした方が早くアリシアたちを解放できるかも知れない。

 それでも、リョウトは名声を求めようと決心する。

 アリシアを自由にするために。ルベッタを解放するために。

 その結果、彼女たちがリョウトの元を離れようとも。それでも構わないとリョウトは思う。


「ん? どうかしたのか、リョウト様? 何やら力が入りすぎていないか?」

「本当。何かあったの、リョウト様?」


 彼の決心を敏感に感じたのか、後ろを歩く二人が声をかけた。

 そんな二人に振り返り、なんでもないと告げてリョウトは王都目指して黙々と歩く。

 何となく違和感を感じた奴隷たちだが、互いに顔を見合わせるだけ何も言わずに主の後を追う。

 何かあればきっと、彼は自分たちに話してくれると信じているから。



 そしてこれが、後に吟遊詩人たちによって語られる、『片紅目のリョウト』と彼に付き従う美しき奴隷たちの物語の最初の第一編なのであった。




 本日は『魔獣使い』を更新しました。


 内容としては前話の補足的なもの。どうしてリョウトたちが魔獣狩りのような事をしていたのか、という話と、狩猟後のちょっとした様子など。

 そして、リョウトの秘めた目的も明確になりました。


 今後も色々とご支援願えれば幸いです。よろしくお願いします。

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