表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔獣使い  作者: ムク文鳥
第1部
12/89

11-王都へ

 今回にて、『魔獣使い』の第1部は終了となります。

 そして、今回で第1部を終了させるため、いつもより長めになってしまいました。

 ご了承ください。

 アリシアとルベッタ、そしてリョウト。三人の初めての熱い夜は明けた。

 夕べはどちらが先にリョウトに抱かれるかで、アリシアとルベッタの意見が対立した。

 どちらも自分が先だと譲らなかったが、リョウトが自分は女性を抱いた経験がないと告白したため、ルベッタが先に抱かれる事に決まった。

 リョウトとアリシアという互いに初めて同士では、何かと問題が起こるかもしれない。ひょっとすると上手く行かないかもと、ルベッタが最もらしい事を主張して先行権を手に入れたのだ。

 その時、彼女が心の中で自分がリョウトの初めて女性となり、また、リョウトの初めてを奪うのも自分だ、とこっそり優越感に浸ったのは言うまでもなく。

 だが、そんな優越感は実際にリョウトに抱かれるとあっという間に吹き飛ばされる事になる。

 リョウトは荒々しかった。

 初めての体験でがむしゃらだったという事ももちろんあるが、それを差し引いたとしても彼は暴風のようだった。

 ルベッタとて男性の経験はあるものの、百戦錬磨というわけではない。あくまでもそれなりの経験がある、という程度に過ぎない。

 そのルベッタをリョウトは蹂躙した。

 まさに蹂躙。

 幼い頃より、英雄であった祖父に鍛え上げられたリョウトの身体。例え彼に剣を扱う才能が今一つ欠けていても、その確かに鍛え上げられた身体とは別問題である。

 そしてその身体の下で、ルベッタは悶え狂った。

 ルベッタの身体には、傭兵時代に負っただろう傷痕が無数にあった。しかし、それが彼女の美しさを損なうような事はない。

 リョウトがルベッタのその柔らかくしなやかな身体の奥に、男の欲望を解き放った時には既にルベッタは息絶え絶えの状態だった。

 だが、リョウトはそれで終わらない。

 彼の次の標的はもちろんアリシア。

 リョウトとルベッタの行為を全て間近で見ていたアリシア。今まで男性の経験がないアリシアの眼には、その激しさは一段と激しいものに映った。

 あまりの激しさに怖じ気づくアリシアだったが、暴走寸前のリョウトがそれで彼女を見逃す筈がなく。

 アリシアもまた、リョウトという名前の竜巻をその身体でまともに受け止める事になった。



 その後、二人は何度も何度もリョウトに抱かれた。

 激しく腰を打ち付け、容赦なく乳房を揉みしだかれ、時に甘く唇と唇を合わせて快感へといざなう。

 上になり下になり、前から後ろから、何度も何度も高みに押し上げられた。

 アリシアとルベッタの体力が限界を超えて気を失うように眠りに落ちた時、既に空の一部が白み始めていた。



 アリシアとルベッタの二人は、すっかり陽が高くなってもベッドから起き上がる事ができずにいた。

 対してリョウトはといえば、実にすっきりとした表情で町に用事あると二人に告げると、朝早くから部屋を後にした。

 そんなリョウトを見送る二人は、いまだにベッドにぐったりと沈み込んだまま。


「野獣だ……リョウト様は野獣……いや、あそこまで行くと野獣では生ぬるい……魔獣だな、あれは……」

「……男の人って……皆……ああなの……?」

「そんな事はない……リョウト様が規格外なだけだ。安心していいぞ?」

「あ、安心って何よ……わ、私、リョウト様以外に抱かれるつもりはないわ」


 二人は一つのベッドで並んで突っ伏している。その身には何も纏っていない。いや、唯一奴隷の首輪だけが彼女たちの身体を飾っていた。


「それで、リョウトはどこへ行ったのだ? 何か聞いていないか?」


 テーブルの上でうずくまっていたローが呆れた顔──竜なのになぜかそれだけは理解できた──で、ベッドに伏せる二人に尋ねる。

 だが、二人にできるのは黙って首を振る事だけ。身体を起こす事さえ億劫そうだ。


「やれやれ。人間とは何かと面倒なものだな……」


 どこか人間くさい仕草でそう呟いたローは、再びテーブルの上でうずくまる。


「そう言えばガラムも言っていたな。いつかこのような時がリョウトにも来ると」


 ガラムがローに語ったのは、人間の男女の交わりについて。いつかリョウトにもそういう相手が現われるだろう、とガラムが生前ローに語っていた。


「だが、ガラムは人間の男と女は一対一で情を交わすと言っていた筈……はて、これはガラムの話が間違っているのか? それともリョウトたちが逸脱しているのか?」


 まあ、どちらでも本人たちが満足しているのなら別に構うまい。

 そう心中で結論付けると、ローは再びテーブルの上でゆっくりと目を閉じた。



 一方その頃。宿を出たリョウトはゼルガーの町を歩いていた。

 既に町は完全に起きていて、商店の軒先には商品が並び、通りにはかなりの人が歩いている。

 そんな中をリョウトは目的地に向かって真っ直ぐに歩く。そしてリョウトが訪れた先。それは先日アリシアとルベッタを買い取ったロズロイ奴隷商だった。

 館に入ったリョウトは迷う事なく受付へと向かう。本日受付にいたのはロームではなく、別の年若い剣呑そうな男性だった。


「店主はいるかい?」


 受付へと向かったリョウトがその男性に声をかける。

 かけられた男性は、相手が少年といっていい年のリョウトを見て、あからさまに眉を寄せた。


「あぁ? おい、坊主。ここがどこだか判ってんのか?」

「もちろん。ここは奴隷商人の館だろう」

「ほぅ? するってぇと、坊主が奴隷を買いに来ってぇのか? それとも誰かの使い走りか?」


 明らかにリョウトを見下しているその男性は、彼を客だとは認めていないようだった。

 確かに今のリョウトの格好は富裕層の人間には見えず、とても高価な奴隷を買い求めてきたとは思えない。だから男はリョウトを単なる冷やかしだと判断したのだ。


「奴隷なら昨日ここで二人も買ったから、もう必要ないよ。それより、店主にリョウトが来たって伝えてくれないかな?」


 リョウトのその答えに、受付の男の顔が見る見る青ざめる。

 彼は聞いていたのだ。昨日、竜倒の三英雄の関係者が、この館で奴隷を二人買ったという噂を。

 そしてその噂は事実であり、店主であるローム直々に、もしリョウトと名乗る客が来店したら丁重に接客しろ、と厳しく言い渡されていた。


「し、失礼致しました! すぐに店主を呼んで参りますので、しばらくお待ちいただけますでしょうか?」


 態度を一転させた男は、リョウトが頷いたのを確認すると慌てて店の奥へと駆け込んで行った。



「お待たせ致しました、リョウト様」


 現われたロームは、昨日同様慇懃にリョウトに腰を折る。

 そして店主自らリョウトを先導し、昨日とは別の応接室へと案内された。


「して、本日は如何様なご用件で? もし、奴隷がまだ必要とあらば幾らでも用意致しますが。昨日リョウト様が買い求められた、アリシアという娘より少し前に入荷した奴隷なのですが、元貴族の男奴隷が三人おります。彼らなら格安でお譲りいたしますよ?」

「冗談じゃない。もう奴隷はいらないよ。それよりその三人、余程手を焼かせているみたいだね?」


 ロームが言う三人とは、アリシアたちと魔獣の森に来ていた三人組の事だろう。昨日の彼らの態度を思い出し、ロームでもあの三人には手子摺っているとリョウトは判断した。


「ええ、まあ。ですが、あまり言う事を聞かない奴隷は商品になりませんからな。そろそろ、それなりの調教を施そうかと考えております」


 相変わらず慇懃な態度のまま、何やら物騒な事を言うローム。そんなロームにリョウトは肩を竦めて、今日この店に来た用件を改めて告げた。


「──どう? 何か問題はあるかい?」

「いえ、別段問題はありませんが……本当にそれをなさるのですか?」


 ロームの確認に、リョウトは無言で頷く。


「承知致しました。急いで準備致しましょう。ですが、リョウト様のお求めの品ですと、それなりの料金となりますが?」

「具体的には幾らぐらい?」

「そうですな……一つ銀貨1000枚といったところですか」

「では、二つで銀貨2000枚か」

「そうなりますな。ですが、ここはリョウト様の顔を立てて少々勉強させていただきましょう。二つで銀貨1600枚で如何ですか?」

「そんなに負けて大丈夫?」

「ははは、今後も当店をご贔屓にしていただければ、何の問題もありません。しかし、銀貨1600枚は大金ですぞ? 僭越ながらご用意できますかな?」


 一日の生活費が、一般的な家庭で約銀貨五枚。裕福な家庭でもだいたい銀貨八枚ほど。それから考えても銀貨1600枚は大金である。

 だが、リョウトには何とかなりそうな算段があった。


「何とかなるだろう。毎日稼げば二週間ほどで準備できると思う」

「ほほぅ。さすがは今評判の吟遊詩人のリョウト様ですな」

「へぇ。もうあなたの耳にも入っていたんだ」

「もちろんです。時に情報は重要な商品となりますからな」


 すっかり評判になったリョウトの唄は、一晩で実に銀貨100枚以上の収入となっている。

 当然三人分の生活費なども必要になるが、今後も彼の唄が更に評判になれば、おそらく二週間で銀貨1600枚を稼ぐのは不可能ではないだろう。


「では、次にリョウト様がご来店くださるまでに、ご希望の商品の方を準備致しましょう。ところで話は変わりますが、先日わたくしがお伝えした件、考えて頂けましたかな?」

「僕が統治者になるって話かい?」

「ええ、そうです」

「幾ら何でもそれは無理だろう。実際、どやったら僕のような平民が統治者になれるっていうんだ?」

「今の国王陛下は、有能な者は出自にこだわらず登用する御方だそうですぞ」


 その話ならリョウトも耳にした事があった。

 数年前に即位した新しい国王は、それまでの伝統とか慣例といったものを全て無視し、自分の眼にかなった者は誰でも要職に就けているという。

 そのため、今の王宮に務める者は有能な者ばかりという噂だ。


「リョウト様が何らかの活躍をなさり、国王陛下のお目に留まれば登用されるのも夢ではないと思います」

「それで、仮に僕が登用されたとして、あなたにどんな利点があるんです?」

「ははは、リョウト様が出世なさり、以後も我が商会をご贔屓にしてくだされば、それなりの利点が生まれますとも」

「なるほどね。先行投資ってわけか。あなたはなかなか抜け目のない商人のようだ」

「お誉めに預かり恐悦至極です」


 と、ロームは相変わらず慇懃に頭を下げた。



 それから約二週間、リョウトは毎晩「雲雀の止まり木」亭で唄った。

 彼の唄は噂が噂を呼び、大勢の人が毎晩「雲雀の止まり木」亭に詰めかけた。

 もちろん、唄い終わったリョウトに投げ込まれる銀貨は日を追うごとに増え、彼が目標としていた銀貨1600枚はあっという間に貯まった。

 それでもリョウトは更に数日「雲雀の止まり木」亭で唄い続けた。

 これは「雲雀の止まり木」亭の主人からの依頼である。リョウトが近日中に旅立つ事をしった主人から、せめてあと数日残ってくれと頼まれたのだ。

 リョウトも何かと世話になった主人の頼みを断り切れず、また、目的の銀貨1600枚以外にも王都までの道中の護身用の武具の調達や、旅費も必要だった事もある。

 そして遂に、リョウトは王都へ向かう決意をした。


「そうか。ようやく王都へ向かうのだな」

「予定より随分と長くこの町に滞在しちゃったわね」


 一つのベッドの上で、リョウトから旅立ちを聞かされた彼の美しい奴隷たちは、主であるリョウトに裸で寄り添いながら思い思いに呟いた。


「ところでリョウト様は、どうしてこんなに長くこの町に?」

「何やら金が必要だと以前に言っていたが……そろそろ教えてくれてもいいのではないか?」


 初めて三人が肌を合わせた夜から、ほぼ毎日三人はこうしてベッドを共にしている。

 最近ではリョウトも慣れてきたようで、最初の日ほどの激しさはなく、余裕をもって奴隷たちの相手をする事ができるようになっていた。


「うん、実はね──」


 リョウトはベッドから降りると、テーブルの上に置かれていた小さな布製の小袋を二つ手にして、再びベッドへと戻って来た。

 そしてその小袋の中から取り出した物を、それぞれ二人に差し出した。


「これは……」

「やれやれ……。まさか、こんな物を用意するためだったとはな……」


 リョウトが二人に差し出した物。

 それは親指の爪ほどの大きさの丸く磨かれた玉石を幾つも繋げた首飾りのようなものだった。

 よく見れば、その玉石の中の幾つかには何やら文字が一字ずつ彫り込まれている。


「これは君たちの新しい奴隷の首輪だ」


 確かに彫り込まれた文字を繋げれば、それはリョウトの名前となっている。

 リョウトはそれまで二人が嵌めていた革製の首輪を外すと、新しい首輪をそれぞれに嵌めてやった。

 アリシアにはその眼の色に合わせた翡翠の玉を繋げた首輪を。

 ルベッタには、やはり瞳の色に合わせた蒼水晶アクアオーラの首輪を。

 二週間前、リョウトがロームに特注したのが、この玉石の首輪だったのだ。


「本当はそれぞれ緑柱石エメラルド蒼玉サファイアで作りたかったんだけど、さすがに高価過ぎて無理だった。だからこれで我慢してくれないか?」

「が、我慢どころか……」

「ああ。奴隷の首輪で、これ以上望むものはないよ」


 二人の奴隷は、嬉しそうに首に嵌められた玉石の首輪に指を添える。


「これならぱっと見には奴隷の首輪と判らないだろう」


 リョウトの言う通り、これを初見で奴隷の首輪だと見る者はまずいないだろう。

 これまでリョウトが二人を連れて町を歩いた時、二人の首に奴隷の首輪があるのが判ると、途端に見下したような態度を取ったり、あからさまに嫌そうな表情をする者が何人かいた。

 それが気になったリョウトは、このような物をわざわざ特注して作らせたのだ。

 それに彼の二人の美しい奴隷に、革製の首輪は無骨過ぎて似合わない気もしていたし。


「とっても嬉しいわ、リョウト様」

「ああ。今晩はいつも以上にご奉仕しなくてはな」


 アリシアはとても嬉しそうに。ルベッタは何やら含みのある笑みを浮かべて。

 二人の奴隷はゆっくりと主人の身体に自分の身体を重ねて行った。



 翌日。リョウトたちは「雲雀の止まり木」亭の主人に旅立ちを告げた。


「そうか。行っちまうのか」

「今日まで色々お世話になりました」


 リョウトたちが頭を下げると、主人は照れたように頭を掻く。


「おまえたちが居なくなるのはちっと寂しいというか、稼ぎが減って残念というか……まぁ、なんだ。次にこの町に来ることがあれば、絶対にうちに泊まってくれよな。もちろん、宿代はまけてやるぜ」

「ええ。是非またこの宿に泊まりますよ」


 そしてリョウトは主人と握手を交わすと、「雲雀の止まり木」亭を後にした。

 この数週間、何度も歩いたゼルガーの町の目抜き通りを、町の門目指して三人は歩く。

 やがて門に辿り着くと、そこに詰めていた兵士の何人かが気軽にリョウトに話しかけてきた。

 彼らは何度も「雲雀の止まり木」亭にリョウトの唄を聞きに来ており、すっかり顔見知りになっていたのだ。

 そんな彼らも、リョウトたちが旅立つ事を知るととても残念がった。


「またこのゼルガーに来いよ。そして、またおまえの唄を聞かせてくれ」


 兵士たちに別れを告げ、街道を王都目指してリョウトたちは歩く。

 そしてしばらく歩き、ゼルガーの町が見えなくなったところで、急にリョウトは街道を外れた。

 アリシアとルベッタは、互いに顔を見合わせて訝しむも、主であるリョウトの後に黙って続く。

 街道からも外れ、小高い丘を超えたところでようやくリョウトは足を止めた。この場所は街道からは完全に死角になっている。


「こんなところで何をするの?」


 アリシアがこれまでずっと疑問だった事を尋ねると、リョウトは黙って左腕の袖を捲り上げた。


「王都へ向かうのがかなり遅くなったからね。だから、ちょっと時間を短縮しようと思って」


 そしてリョウトは告げた。彼の故郷ともいえる魔獣の森。そこに長い間君臨し続けた長の名前を。

 ぴしり、という音と共にリョウトの脇の何もない空間に黒い亀裂が走った。

 驚くアリシアとルベッタをよそに、その亀裂はどんどんと広がり、その奥から低く腹に響く咆哮が聞こえてくる。

 アリシアはその咆哮に聞き覚えがあった。

 あの日、魔獣の森で対峙した恐怖の象徴ともいうべき存在。その存在が上げる咆哮が、今聞こえてくるものと同一なのだ。

 そしてそれは現われた。

 空間の黒い亀裂を押し広げるように、赤褐色の巨大な生物が悠然と亀裂の向こうから現われる。


「バロム。来てくれてありがとう」


 リョウトが嬉しそうに告げると、赤褐色の巨大な生物も嬉しそうにその鼻面をリョウトに擦り付けた。


「ま……魔獣の森の長……」

「こ、これが魔獣の森の長……そしてリョウト様の異能か……」


 呆然と呟くアリシアとルベッタ。その声が聞こえたのか、バロムがぎょろりとその巨大な眼を二人へと向けた。

 途端、硬直する二人。

 全長10メートル程の巨大な飛竜に至近距離から睨まれれば、二人のように思わず硬直したとて無理はない。


「大丈夫だよ、バロム。この二人は僕の家族のようなものだから。僕にも君にも危害を加えたりしない」


 リョウトの言葉に、バロムはゆっくりとその巨大な鼻面を二人へと近づけ、匂いでも嗅ぐようにふんふんと鼻を鳴らす。

 その際、鼻孔の奥にちらちらと炎のような輝きが揺らめくのが目に入り、二人はまるで生きた心地がしない。

 やがて納得したのか、バロムはちろりとその巨大な口腔から細長い舌を伸ばし、ぺろりと二人の頬を優しく舐め上げた。

 どうやら自分たちの事を受け入れてくれたようだと、ほうと胸をなで下ろす二人。


「しかし、リョウト様はこの飛竜と言葉が交わせるのか?」


 先程のリョウトとバロムの遣り取りを見て、ルベッタが尋ねた。


「別に言葉が通じるわけじゃない。ただ何となく互いの感情が理解できるんだ。な、バロム」


 リョウトがバロムの鼻孔の脇を撫でると、バロムは嬉しそうにその太く強靭な尻尾をぶんぶんと揺らす。

 その様を見た二人の奴隷は、まるで巨大な犬のようだと感じた。


「王都の近くまで僕たちを運んでくれるかい?」


 バロムはリョウトの要請にばふうと小さく炎を吐いて肯を現わし、その太く頑強な足を折って地面に腹をつける。

 そしてリョウトは二人の奴隷を伴い、そのバロムの背に跨がり、背中に生えた刺に三人の荷物をしっかりと括りつけた。

 そしてアリシアとルベッタにしっかりと掴まるように告げると、バロムの背中をぺちぺちと数回叩く。

 合図を受けたバロムはゆっくりと立ち上がり、その巨大な翼を拡げて羽ばたき始める。

 やがて浮き上がる赤褐色の巨体。

 更に上昇を続けると、やがてバロムの巨大な身体がゆっくりと前方へと滑り出す。

 魔獣の森の長は、その背にリョウトたちを乗せて大空を舞う。

 その場で数回旋回したバロムは、リョウトが指し示す方向へと進み始める。

 悠然と空を舞うバロムの背中から、リョウトは遥か下方を見下ろした。

 遠くまで広がる緑の大地。緑といっても全て同じ色ではなく、所々色相の違った緑が拡がっている。

 それは草原だったり、畑だったり、森だったりするためだろう。

 そんな緑の大地の中を、何本もの赤茶色の線が走っている。そしてその線の上を蠢く小さな何か。

 赤茶色の線は街道であり、蠢くものは街道を行く旅人たち。

 そんな旅人たちの中で、なにやら一塊ひとかたまりの集団が北の方角から南へと進むのがリョウトの眼に映った。

 それはきっと馬車で移動する旅人なのだろう。馬車で移動するという事は、どこかの貴族が旅をしているのかも知れない。


(あの一団も王都を目指しているのかな?)


 その一団の進行方向からそう推測したリョウト。彼はバロムの背中をぽんと叩いて速度を上げるように指示する。

 この速度なら、彼らが目指す王都に着くのにそんなに時間はかからないだろう。




 『魔獣使い』更新しました。


 前書きにも書きましたが、これにて第1部は終了となります。

 次回からは第2部の王都編です。早ければ来週中に一度ぐらいは更新できるのではないかと考えています。


 それから、もうお気づきの方もいると思いますが、今回『辺境令嬢』とほんのちょっぴりクロスオーバーしました。今後もこんな感じでクロスオーバーを取り入れて行こうと考えています。


 今後ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ