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魔獣使い  作者: ムク文鳥
第1部
11/89

10-認めて認められて

「驚いたぞ、リョウト様」

「本当に。リョウト様があんなに唄が上手いなんて思いませんでした」


 唄を語り終わり、アリシアたちを連れて部屋へと戻ったところで、彼の二人の奴隷たちが主人の唄の技量を誉め称えた。


「え? リョウト……様?」


 今までルベッタはリョウトを少年、アリシアはリョウトと呼んでいた筈なのに、急に二人から様を付けて呼ばれたリョウトは戸惑いを露にする。


「俺たちはリョウト様の奴隷だからな。いつまでも名前で呼んだり少年呼ばわりしているわけにはいかないだろう」

「僕は別にそれでもいいんだけどね。まあ、君たちがそれでいいなら構わないよ」


 何だかちょっと気恥ずかしいけどね、とリョウトは含羞はにかむ。

 そしてリョウトはベッドの一つに座る。その対面のベッドにアリシアとルベッタもまた腰を下ろした。


「でも、本当にあの唄の技量には驚きました」

「うん。どうやら僕は爺さんの才能は受け継がなかったけど、父さんからは受け継いだみたいでね」

「お父さんの?」

「うん。僕の父親は吟遊詩人だったんだ」


 リョウトのその言葉に、ルベッタが興味を示す。


「ほう。だが、ガラン・グラランの息子が吟遊詩人だったとは知らなかったな」

「いや、父さんは爺さんの息子じゃないよ?」


 ん? と理解できない顔のルベッタに、リョウトは簡単な事さと前置いて説明する。


「爺さんの実子は母さんの方だからさ。つまり、父さんは爺さんの義息子ってわけだね。で、母さんは各地で傭兵をしていたそうだよ。爺さん譲りの双剣使いで腕もたち、傭兵仲間の間では結構有名だったらしい。で、とある場所で吟遊詩人だった父さんと出会い、結婚して僕が生まれた」


 その説明を聞き、ルベッタはなるほどと相槌を打つ。


「リョウト様の母上殿は傭兵だったのか。母上殿の名前を聞いてもいいかな?」

「母さんの名前はセレナ・グララン。結婚してからはセレナ・ウィードだけど」

「な……に……? せ、セレナ・ウィードだと……?」


 あまり取り乱す事のないルベッタが、珍しく驚きを露にする。と言っても、ルベッタとリョウトの付き合いはまだ一日も経っていないのだが。


「傭兵のセレナ・ウィードといえば、あの『狂乱剣舞』だろうっ!? リョウト様が『狂乱剣舞』の息子? 信じられんっ!! そもそもセレナ・ウィードがガラン・グラランの娘だというのも初耳だがな」

「母さんを知っているのか? もしかしてルベッタも……」

「ああ。俺も元傭兵だ」


 ルベッタは着ているワンピースの胸元を開き、その白い胸元とくっきりとした胸の谷間を露にした。

 彼女の左の乳房の隆起が始まってすぐの辺りに、弓矢と狼の頭を象った入れ墨があるのがリョウトとアリシアの目に入る。

 その入れ墨が意味するものを、リョウトとアリシアは知っていた。

 それは傭兵の証。

 傭兵は己の身体に得意とする得物と、所属する傭兵団の象徴を入れ墨として刻む。どこの傭兵団にも所属しないフリーランスの傭兵は、得物だけを刻んでいるが。

 リョウトも、彼女の鍛えられた身体つきから単なる村娘ではないと思っていたが、元傭兵だというのならそれも納得がいく。


「俺は元『銀狼牙ぎんろうが』という傭兵団に所属していた傭兵でな。得意な得物はこの入れ墨の通り弓だ」

「それで、リョウト様のお母さんの『狂乱剣舞』ってどういう意味なの?」


 アリシアが中々に痛いその異名の意味を尋ねる。

 リョウトも母親が傭兵だったという過去は知っているが、そんな恥ずかしい異名を持っている事までは知らなかった。


「うむ……息子であるリョウト様の前で言っていいのか判断に困るところだが……」


 ルベッタがリョウトへと視線を流すと、リョウトは無言で頷いた。


「『狂乱剣舞』のセレナ・ウィード。対峙した敵は必ず切り刻む惨殺者。例え女であろうが子供であろうが老人であろうが、自分に武器を向ける者には絶対に容赦しない。双剣を用いて狂ったように、舞うように敵を切り刻む姿からいつしか『狂乱剣舞』と呼ばれるようになった女傭兵。俺がセレナ・ウィードについて知っているのはこれぐらいだな」


 アリシアはその説明を聞き呆気に取られる。リョウトも自分の知らない母親の姿を知り驚きを隠せないようだった。


「どちらかというと穏やかな気性で人のいいリョウト様が、『狂乱剣舞』の息子とは正直言って信じられないのだがね」


 ルベッタもまた、肩を竦めて苦笑を浮かべる。

 どうやら彼は、性格と才能を父親の血筋から色濃く受け継いだのだろう。


「……うーん……。確かに気性の激しい人だったけどね、母さんは……。まさか、そこまで言われているとは予想もしていなかったよ」

「リョウト様? ちょっと気になったのだが、今の言い方だと……」


 リョウトの過去形の物言いにルベッタは気づいたようだった。


「うん。両親はもう故人だ。十年以上前にね」


 旅先で知り合い結婚した彼の両親。リョウトが生まれるまでは各地を放浪していたようだが、リョウトが生まれて数年は何処かの街に定住していたらしい。らしい、というのは彼もよく覚えていなからだ。

 リョウトが五歳ぐらいになると、両親は彼を祖父であるガランに預け、再び各地を放浪し始める。そしてある時、大規模な野盗の襲撃に遭遇した。


「父さんはその時に殺され、母さんは野盗たちに捕えられて散々陵辱されたらしい。それでも何とか野盗たちから逃げ出して、ボロボロになりながらも爺さんのところまで辿り着いた。けど、結局はその時の傷が原因ですぐに亡くなったよ」


 リョウトが語る両親の話に、アリシアは声を出す事すらできずにいる。

 だが、元傭兵であるルベッタはアリシアよりも冷静だった。

 どんな達人だろうと剣豪だろうと、数という力の前には敵わない。

 例えリョウトの母親が祖父譲りの腕の立つ双剣使いだったとしても、相手が五人、十人といればどうしても遅れを取る。

 そして女だてらに傭兵などをする以上、そうなった時に彼の母親のような境遇に遭うのもまた、覚悟の上だ。

 リョウトに告げるつもりは今のところないが、彼女自身、以前に敵対する陣営の傭兵に捕われ、犯された経験がある。

 その時は相手が小人数だったので隙を見て反撃し、全員の息の根を止めてそれを復讐とした。

 暗く沈み込みそうな雰囲気に部屋が支配されそうになるが、ルベッタが努めてそれを吹き飛ばすように明るい声を出す。


「そう言えばな、リョウト様」

「なに?」

「俺は今後リョウト様がどうするつもりなのか聞いてないぞ。リョウト様はしばらくこの街に滞在するのか? それともいっその事、定住でも考えているのかな?」

「いや、僕とアリシアの当面の目的は王都に行く事なんだけど……」


 リョウトは一旦言葉を区切り、視線をアリシアとルベッタへと向ける。正確には、彼女たちの首もとへと。


「その前に少しやりたい事ができた。だからもう少しこの街に滞在して、金を稼ごうと思っている」

「ほう。金を稼ぐか……」


 ルベッタは顎に手を当ててなにやら考え込む。しばらくそうしていた彼女が、何かを思いついたようにアリシアへと視線を向ける。

 その視線には明らかに意地の悪いものが含まれていたが。


「ならこういう手段はどうだろう? リョウト様の唄だけでも十分稼げるとは思うが、これならもっと稼ぐ事ができると思うぞ?」


 ルベッタの視線は相変わらずアリシアへ。当然そんな視線を向けられたアリシアはいい予感はしない。


「リョウト様の唄を聞いている観客の前で、アリシアが一枚ずつ服を脱いで……」

「ど、どうして私が公衆の面前で裸にならなきゃいけないのよっ!? 裸になりたければあなたがなりなさいっ!!」


 真っ赤になって吼えるアリシアに、ルベッタは至極真面目な顔で答える。


「そうはいかん。俺はリョウト様の奴隷だからな。リョウト様の許可もなしに容易く肌を晒すわけにはいかんのだよ」

「わ、私だってリョウト様の奴隷よっ!? それなら同じ条件じゃないっ!!」

「だから、そこはリョウト様が命じるのだよ。『アリシア、僕のために脱いでくれ』と」

「え? リョウト様のため……?」


 その一言に、アリシアは怒りとは別の意味で赤くなり、リョウトへと視線を向ける。

 その視線を受けて、リョウトは苦笑するとルベッタに諫めるように言う。


「アリシアをそんなに揶揄うんじゃない。アリシアもそんなに簡単に乗せられてどうする?」


 どうやら、思った以上にアリシアは素直な性格のようだ。これなら簡単に騙されてしまったのも頷けるなぁ、とリョウトはこっそりと思った。


「それにね? 僕はこう見えても結構独占欲は強い方なんだ」


 リョウトの言葉にアリシアとルベッタが軽い驚きを浮かべる。

 そして言葉を発したリョウトはというと、若干赤くなった顔を彼女たちから背けて更に続けた。


「まあ、形としては不本意というか、流されたというか、成り行きというか、そういう事も否めないけど、結果として君たちは僕の奴隷となった。この事実だけは動かしようがない。だから──」


 ここでリョウトは背けていた顔を戻し、真っ赤になりながらも正面から二人を見据える。


「──君たち二人は、もう僕のものだ。手放すつもりはないから覚悟してくれ」


 その言葉にアリシアは口元を両手で押さえながら、その瞳に涙を浮かべる。もちろん、その涙は冷たいものではなく暖かなもの。

 ルベッタも感心したような顔を一瞬だけ表にしたものの、次には明らかな喜びを浮かべた。


「だから、人前で軽々しく肌を晒すような事は口にするのも認めない。いいね?」


 そう言ったリョウトの口調は軽いもの。だが、若干の険しさが混じっているのをルベッタは感じ取った。

 だからルベッタは素直に両手を軽く挙げて了解の意を現わす。だが、それでもなお、悪戯をしかける子供のようなにやりとした笑みだけは消さなかった。


「それはご主人様? 人前でなければ肌を晒しても構わない、という事でしょうか?」


 ルベッタは敢えて丁寧な物言いでそう言うと、座っていたベッドから立ち上がり、対面のリョウトの隣に腰を下ろすと、彼の腕を巻き込んで胸元へと抱え込んだ。

 彼女の胸元は先程から開けられたままであり、リョウトの腕を抱え込んだ事でその豊かな胸の双丘の谷間が更にはっきりと強調される。

 思わずどきまぎしつつも、その谷間から目が離せないリョウト。そしてルベッタとは反対側に、とさりと誰かが腰を下ろす気配がした。

 もちろんそれはアリシアだ。彼女へと振り向いたリョウトとアリシアの視線がぶつかり合う。

 アリシアの視線には明らかなリョウトへの期待が、そしてこの後の行為に対する覚悟が浮かんでいた。


「あ、アリシア……」

「……もう、私はリョウト様のものなのでしょう?」


 アリシアもルベッタ同様、空いている彼の腕を巻き込んでリョウトへとしなだれかかった。


「さあ、リョウト様?」


 アリシアへと向けられた視線を取り戻すかのように、艶のあるルベッタの声がリョウトの耳に響く。


「……俺たちをリョウト様のものにしてくれ……」


 ルベッタは片手でリョウトの腕を抱いたまま、残った手で器用にワンピースのボタンを外していく。

 やがて完全に開いたワンピースの前から、予想以上に豊かで美しい彼女の乳房が零れ出た。


「……さあ……」

「……リョウト様……」


 こちらもいつの間にか半裸になっていたアリシアと、完全にワンピースを床に落としたルベッタは、リョウトの腕を片方ずつ取りながらゆっくりとベッドへと倒れ込んで行った。



 『魔獣使い』更新しました。


 今回にて三人の立場がはっきりと固まりました。

 できればあと一話で第1部終了まで行きたいところです。


 今後もよろしくお願いします。

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