表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔獣使い  作者: ムク文鳥
プロローグ
1/89

序章

 その国は病んでいた。

 それも末期の死病に。

 大陸の最北端に存在するその国は、他国から見ればさほど魅力のない国だった。

 雪の多い土地柄ゆえに水は豊富なものの冬が長く、作物を育てるには不向き。

 平地よりも山地が多く、森林資源や鉱物資源はあるものの、莫大な軍事費を注ぎ込んでまで手に入れようとする程のものでもない。

 それゆえに大陸に存在するどの国も、征服よりは交易でそれらの資源を求めることを選んだ。

 逆にその国は、それらの資源を提供することで、長い冬のための食糧を買い込むことができた。

 そんな持ちつ持たれつの関係が、その国を争いとは無縁の時間を永く過ごさせることになる。

 永い永い平穏がその国をゆっくりと、だが確実に腐らせていったのだ。

 王侯貴族は民を守ることよりも、自身の欲望を叶えることばかりを考えるようになり、当然その皺寄せは民たちへと向けられる。

 ただでさえ少ない作物は、その殆どが支配者階級に占められて。

 貧しい民たちは、作物の育たない長い冬の間に農作業以外の仕事をすることで何とか生き長らえている状態。

 それを知ってなお、支配者たちは民に手を差し伸べることはせず、それどころか自分たちの懐を暖めるため、より厳しい税を課していくまさに悪循環。

 贈収賄がまかり通り、国内の治安も荒れに荒れ、街や村の外側では野盗や追い剥ぎが、そして内側では盗賊が好き勝手に暴れ回る。

 そんな膿み爛れ、腐れ落ちる寸前の状態に、支配者たちは気付いていない。いや、気付いていたとしても気付かない振りを続けていた。

 そんな末期の死病に取り憑かれた国。その国の名はカノルドス王国といった。



 カノルドス王国の屋台骨たる支配者たちは、自分の利益ばかりを追求し、民を救うどころか支配者同士で互いの足を引っ張り合う。

 より一層の財を求め、自分よりも財を持つ者を陥れようと。より高い地位を得ようと、自分よりも高い地位の者を亡き者にせんと。

 当然見向きもされぬ被支配者たちは、ますます貧困に喘ぐことになる。

 だが、そんな朽ち果てるのを待つばかりのカノルドスに、一筋の光が射し込んだ。

 腐り果てた支配者たちを打倒しようと、一人の少年が立ち上がる。

 その少年は幾つかの心ある辺境の小貴族の協力を得て、『カノルドス解放軍』を立ち上げた。

 しかも、その少年は自身が遠く王の血を引くと主張し、自身こそが王位に相応しいと告げて。

 その王の証こそが、その少年が身に宿す異能であった。



 異能。

 それはまさに通常では考えられぬような異常を引き起こす力。

 異能には様々な種類がある。手を触れずに物を動かす者、他者の心を読む者、動物や植物と心を通じ合わせる者など。

 かつては、異能を持つことこそが王の証とされた時代があった。

 これはカノルドスの建国王が異能者であったからだとされ、事実カノルドス王家には多くの異能者が生まれた。

 元々異能者は千人に一人、万人に一人とも言われるほど、異能を持つ者は極めて少ない。

 そんな異能を持つことこそ、王として選ばれる条件とされていたのだ。

 だが長い年月の中で、王の血筋に異能が現われることが徐々に減っていった。

 事実ここ数代の王の中で、異能を宿した者は一人もいない。

 だが少年は、そんな異能を実に二つも宿していた。

 一つは如何なる敵をもなぎ倒す『雷』の異能。

 もう一つは味方のどんな傷でも癒す『治癒』の異能。

 とりわけ『雷』の異能は、長いカノルドス王国の歴史の中でも、王族にしか現れたことがないとされ、まさに王の証ともいうべき異能であった。

 この『雷』の異能こそが自身が王たる証であるとして、少年は腐り果てた支配者たちへと戦いを挑んだ。

 これが後の世に『解放戦争』と呼ばれる戦いの始まりであった。



 『解放戦争』は一年に渡り続き、少年はその戦いに勝利する。

 『カノルドス解放軍』は少数ながらも高い士気と練度を誇り、数の上では圧倒的に不利でありながら、王国軍に一歩も劣らず戦い続けた。

 これはもちろん少年が持つ異能のなせる業。そしてそれだけではなく、少年は人々を惹き付ける何かを持っていた。

 数多くの優秀な人材が少年の元に集まり、寡兵ながら『カノルドス解放軍』は戦った。

 もちろん時に敗走もしたが、『カノルドス解放軍』は最後まで戦い続けた。

 更に加えて、類が友を呼んだのか、それとも天の采配か。少年の元には少年以外にも異能者が集ったのだ。

 優秀な人材、複数の異能者、そしてなにより民衆の支持。

 数では勝りながらも、腐れ爛れ切った王国軍が『カノルドス解放軍』に敵うはずがなく、一年という僅かな月日で少年は玉座へと辿り付いた。

 共に戦った『カノルドス解放軍』の仲間たちを国の中枢に据え、少年は新生カノルドス王国の誕生を宣言した。

 沸き返る民衆は口々に少年の名を口にし、新しい王国と新しい国王の誕生を祝った。

 ユイシーク・アーザミルド・カノルドス。それが新しい国王の名前であった。

 この時少年は僅か16歳。実に年若い国王の誕生であった。



 新王国と新国王の誕生から2年。

 王国北東部のとある辺境の村で、一人の青年と一人の女性が出会ったところから、この物語は始まる。

 プロローグは『辺境令嬢輿入物語』と共有。最後の一文だけが違う仕様。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ