「どうしたの?」「いいや」
「どうしたの?」
気まずい事に、女子高生[山本麻耶]の話に上の空だった事を感づかれた様だ。
「いや、その『赤備え』の人形。実は俺も欲しいんだ」
先ほど取った『ひこにゃん』という[ぬいぐるみ]に話を向け、話を逸らす。
別にこんな事をしなくとも良いと思うが、今回の仕事内容について考えていたとは言いたくなかった。
「モーリーってぬいぐるみとか好きなんだ?」
「いや、『赤備え』が好きなんだ。
決して猫がかわいいとか、なんだその愛らしいポーズ、とか思ってないぞ」
ちなみに正確な『赤備え』の意味は、赤の具足を着用した『部隊』であり『単体』ではない。
そういう意味で『赤備えのひこにゃん』を想像すると・・・とても幸せな気分になるかもしれない。
「・・・」
情けない事に、気づかれた次の瞬間だと言うのにまた違う事を考えてしまっていた。
彼女にまた感づかれるのではッ!?と、焦り彼女を見遣るが、彼女はジッと黙っていた。
「・・・ァハ」
いや・・・よく見ると笑いを堪えている感じで、顔を背け、時折笑い声を漏らしている。
「・・・フゥ。ったく、笑わせてくれるよモーリーは」
「何か面白いこと言ったか?」
「さっきの説明の仕方じゃ、好きなのを必死で隠してる子供みたいだったよ」
そう言い終わると彼女は思い出し笑いを始めてしまう。
ちなみに今回の仕事内容は【相談】である。
【相談】くらい昔のよしみで無料でやるのだが、
口実と料金さえあれば『俺の一日』を彼女は買えると知り、
俺の休みを使わずに【相談】しようと考えてくれた様である。
料金は1万円と多少するが、俺は既に交通費やら食事代やらで彼女に1万は奢っていた。
【相談】より【デート】に近い現状。
俺は今後の事を考えると少し滅入る気持ちもあった。
「・・・ごめん、何だか可愛くてつい」
笑いが収まり、ばつが悪そうに彼女は言う。
「怒った?」
これもまた、好く側と好かれる側の余裕の差なのだろうか。
社長なら決して聞きはしないだろう―――俺はそんな事を考えながら答える。
「いいや」