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「やっぱり」 「それでも私は構わない」
TVの1セリフ等で「A」「B」を最初に決め、その間の物語を連想した10行小説もどきシリーズです。
「やっぱり」
"それ"は唐突にして無遠慮な"はじまり"の合図だった。
作ったばかりの【カツ丼】を乗せたお盆を受け取りつつ、彼女は俺に向けて言葉を発す。
「この仕事は飽きた、帰る」
彼女は無表情に、無配慮で、無差別に、俺の目を見据えて言う。
始めて1時間しかたっていない仕事を、自称16歳の[八王寺芽衣]はそう判断した。
「し、しかし社長。
今日一日は契約通りに派遣ホールスタッフとして働かないと・・・我が社の信頼が」
帰ろうとする彼女を控えめに引きとめようとする俺は、
彼女の下で働く[モーリー]こと[雨森弥太郎]、22歳独身。
【独裁社】という社員数3名の会社に勤める新入社員だ。
俺の意見は全く耳に届かぬ様で、
彼女はお盆を俺に押し付け、エプロンを外し、キッチンを去り際に一言呟いた。
「それでも私は構わない」