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下町オールドクロック ― 白ジャージでだらけてる看板娘、時間を少しだけズラしてしまう時計店  作者: イシマ ヒロ
「人の時間」

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第六十六話 「一緒でいいじゃん」

 午後。


 店を出る。


 特に用事はない。


 でも外に出る。


「どこ行く」


「どこでも」


「雑だな」


「でもさ」


 一歩、先に出る。


「どこでもいい日って、ちょっといいじゃん」


 振り返らない。


 でも速度は落とす。


 合わせる前提の歩き方。


 隣に並ぶ。


 距離は、いつもと同じくらい。


 触れない。


 でも離れない。


 商店街に入る。


 人はまばら。


 静かでもないし、うるさくもない。


 ちょうどいい。


「なんか今日、落ち着いてるな」


「そう?」


「うん」


 少しだけ考える。


「たぶん、急いでる人いないから」


「平日だしな」


「ううん」


 首を振る。


「時間が、ちょっとゆっくり」


「またそれか」


「いいじゃん」


 軽く流す。


 花屋の前で止まる。


 色が多い。


「これ」


 一輪、指さす。


「似合いそう」


「誰にだよ」


 少しだけ間。


「……店に」


「人じゃないのかよ」


「人でもいいけど」


 目を逸らす。


 逃がし方が雑。


 でもわざと。


「買わないのか」


「今日は見てるだけ」


「珍しいな」


「うん」


 少しだけ笑う。


「今日は、選ばない日」


 そのまま歩く。


 並ぶ。


 さっきより、ほんの少しだけ距離が縮まる。


 気づかないふり。


 どっちも。


 八百屋。


 キャベツ。


 また見る。


「これさ」


「うん」


「一枚ずつ、ちゃんと今日かな」


「全部今日だろ」


「でもさ」


 少しだけ近づく。


 キャベツを見る距離じゃない。


「ちょっとだけ、昨日混ざってる感じしない?」


「しない」


 即答。


「そっか」


 あっさり引く。


 でも手は、少しだけ伸びる。


 葉に触れる。


「……冷たいな」


「野菜だからな」


「うん」


 手を引く。


 そのまま。


 一瞬だけ、袖が触れる。


 ただの偶然みたいに。


「ねえ」


「なんだ」


「手、冷たくない?」


 さっきと同じ質問。


 でも今回は少し近い。


「普通だろ」


「そっか」


 それ以上は言わない。


 でも少しだけ歩幅が揃う。


 揃えたわけじゃない。


 勝手に。


挿絵(By みてみん)


 ベンチ。


 今日は座る。


 少しだけ間を空けて。


「……なんかさ」


「うん」


「こういうの、久しぶりな気がする」


「何が」


「何も決めてないやつ」


「ああ」


 納得する。


「店だと、だいたい決まってるからな」


「でしょ」


 背もたれに体を預ける。


「こういうの、ちょっと好き」


 横を見る。


 見ていないふり。


「……そうか」


 短く返す。


 それで十分。


 風が吹く。


 髪が揺れる。


 そのタイミングで、少しだけ距離が近くなる。


 自然に。


「……なあ」


「なに」


「今日、ちょっと変だな」


 言う。


 言わなくていいやつ。


「うん」


 否定しない。


「ちょっとだけね」


 それ以上は言わない。


 説明しない。


 店の前に戻る。


 ドアの前。


 同時に止まる。


「先入れよ」


「いや、いい」


「なんでだよ」


「なんとなく」


 またそれ。


「じゃあ」


 取っ手に手をかける。


 開けない。


 一瞬だけ、こっちを見る。


「一緒でいいじゃん」


 軽い。


 でも残る。


 カラン。


 同時に入る。


 肩が少しだけ当たる。


 すぐ離れる。


 店の中。


 時計が鳴っている。


 カチ。


 カチ。


 カチ。


 その中で。


「……今、何時だ」


 聞く。


 なんとなく。


 少しだけ考える。


「……ちょうどいいくらい」


「雑だな」


「いいの」


 少しだけ笑う。


「今日は、それで合ってるから」


 カチ。


 秒針が進む。


 いつも通り。


 でも。


 さっきより、少しだけゆっくりに見えた。


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