第五十話 「時計を買う理由ランキング(暫定)」
午後。
古針時計店。
壁の時計。
ショーケースの時計。
振り子時計。
カチ。
カチ。
カチ。
店内はいつもの音で満ちている。
カウンターの上。
ノート。
三雲が真剣な顔で何かを書いている。
ショーケースを整えながら声をかける。
「何してるんですか」
「調査です」
「何のですか」
ノートを少し持ち上げる。
「時計を買う理由です」
少し沈黙。
オフィスチェア。
奏がだらっと座っている。
白ジャージ。
袖は肘までまくってある。
「ランキング?」
「そうです」
「急ですね」
「気になりまして」
ショーケースから身を乗り出してノートを覗く。
そこに書かれている。
古針時計店
来客理由観測ログ
サンプル数:49話
参考資料:
作者イシマヒロの執念(49話投稿)
「それ何の資料ですか」
「継続力のサンプルです」
「統計的には異常値です」
「やめてあげてください」
ノートを閉じる。
三雲がポケットからメガネを取り出す。
すっと掛ける。
「結果発表!」
「急に番組」
「来た」
「異論は観測します」
「唐揚げ一位」
「ランキング違う」
その時。
鳩時計。
ポッポー。
ポッポー。
ポッポー。
「合図」
「ランキングの?」
三雲が指を一本立てる。
「第三位」
「なんとなく」
「理由になってない」
「ですが最多です」
「強い」
少しして。
鳩時計。
ポッポー。
「第二位」
「プレゼント」
「まあ分かる」
「イベント時計」
「だからそんな言葉ない」
「分類上は有効です」
「分類するな」
そして。
三雲が指を三本立てる。
「第一位」
その瞬間。
鳩時計。
ポッポー。
少し遅れて。
柱時計。
ボーン。
振り子時計。
コツン。
店の時計が少しずつ時間を鳴らす。
「テンポずれてる」
「店だからな」
「観測的にはカオスですね」
少し間。
「第一位」
「遅刻防止」
「やっぱり」
オフィスチェアの上で足をぶらぶらさせる。
「でも」
「何だ」
「遅刻する人」
「言うな」
「時計あってもする」
「するな」
その時。
ドアベル。
チリン。
会社員らしい男が入ってくる。
少し疲れている。
「すみません」
「いらっしゃいませ」
「腕時計ありますか」
「ありますよ」
ショーケースを開ける。
男が時計を見る。
小声が飛んでくる。
「理由聞いてください」
「調査じゃない」
一応聞く。
「理由聞いてもいいですか」
男が少し笑う。
「逃げるためです」
「逃げる?」
男がスマホを持ち上げる。
「これ見たくないんです」
「通知来るんで」
「仕事の」
店内が少し静かになる。
「逃げ時計」
「そんなジャンルない」
「暫定四位ですね」
「増やすな」
男が一本選ぶ。
シンプルな腕時計。
腕につける。
秒針。
カチ。
カチ。
男が少し安心した顔になる。
「いいですね」
「慣れます」
男は会計して店を出る。
チリン。
店の中。
ノートに書き足す。
「逃げ時計、暫定四位」
「本当に書くな」
オフィスチェアでくるっと回る。
「サンプル数1で四位?」
「暫定です」
「その暫定いらない」
「強引」
「統計は積み重ねです」
「まだ一個だろ」
足をぶらぶらさせる。
「でも」
「何だ」
「逃げても」
「言うな」
「時間は来る」
少し沈黙。
店の時計。
カチ。
カチ。
カチ。
その瞬間。
店の秒針が一斉に動く。
カチ。
一瞬だけ。
全部の秒針がそろう。
「……今」
「何」
「秒針」
「そんなわけない」
「観測できませんでした」
振り子時計。
コツン。
コツン。
古針時計店には、今日もいろんな理由の時間が来る。
そして――
作者イシマヒロの投稿も、
まだ50話目です。
三雲がふと思い出したように言う。
「そういえば」
「今回で五十話です」
「記念撮影しましょう」
「何の」
「観測記録です」
三雲が小さな三脚を取り出す。
カウンターにセットする。
スマホを乗せる。
奏が椅子の上でピースする。
「時間止める?」
「やめろ」
奏がジャージの袖を少しだけまくり直す。
指先で前髪を軽く整えて3人並ぶ。
「看板娘」
「違う」
セルフタイマー。
ピッ。
ピッ。
スマホのシャッター音。
カシャ。
その時。
店の奥から。
鳩時計。
ポッポー。
「いいタイミング」




