第四十八話 「奏の信号カウントダウン」
昼。
鉢王子駅前商店街。
古針時計店の前。
雄一と奏が歩いている。
裸足のローカットシューズで歩く奏。
商店街の出口。
横断歩道。
信号。
赤。
二人は止まる。
奏が信号を見る。
じっと見る。
「渡らないのか」
「待つ」
「赤だ」
「知ってる」
沈黙。
「……3」
「何」
「2」
「やめろ」
「1」
沈黙。
まだ赤。
「外したな」
「……テンポ外れた」
青。
奏が歩き出す。
横断歩道。
白い線だけ踏んで歩いている。
「今度はぴったり」
「偶然だ」
「違う」
「何が」
「テンポ」
雄一は少し黙る。
「白いとこ踏むな」
「踏む」
「信号のテンポなんてあるのか」
「ある」
二人は渡る。
商店街の反対側。
惣菜屋たけだの前。
揚げ物の匂い。
奏が止まる。
「またか」
「確認」
「何を」
「揚げ」
「さっき昼食べたろ」
「昼とは別」
「別じゃない」
その時。
八百屋の山田が通る。
「おう」
「こんにちは」
「散歩?」
「店の用事です」
「信号のとこで見たぞ」
「見られてたのか」
「数字言ってたな」
雄一が奏を見る。
奏は揚げ物を見ている。
「何してたんだ?」
「信号カウントダウン」
「なんだそれ」
「テンポ」
「またそれか」
惣菜屋たけだの店主が顔を出す。
「コロッケ揚がったよ」
「今?」
「今」
奏は信号を見る。
赤。
数字を見ている。
「……4」
「またやるのか」
「3」
「コロッケ逃げるぞ」
「2」
「聞け」
「1」
青。
奏が歩き出す。
惣菜屋へ直行。
「何それ」
「信号です」
「時計屋なのに?」
「そうなんです」
奏がコロッケを受け取る。
熱い。
ふーふー。
一口。
「いい」
「何が」
「揚げ」
「さっきも言った」
「今日いい」
雄一が店の中を見る。
「すみません、肉じゃがあります?」
「あるよ」
「じゃあ一つください」
袋が渡される。
雄一が奏を見る。
「今晩、肉じゃがでいいか」
奏はコロッケを食べながら言う。
「肉じゃがってさ」
「長くなるな」
「なる」
「なるな」
「肉じゃがってね、時間料理なんだよ」
「何だそれ」
「最初さ、具ってバラバラじゃん」
「うん」
「じゃがいもと肉と人参と玉ねぎ」
「うん」
「でもさ、煮ると仲良くなる」
「何の話だ」
「テンポ」
「結局それか」
「火ってテンポでさ」
「まだ続くのか」
「最初強くて途中弱くて最後染みる」
「料理番組か」
「違う」
「じゃ何だ」
「肉じゃがのリズム」
雄一は少し黙る。
「意味が分からない」
奏はコロッケをもう一口食べる。
「今日いい」
「何が」
「揚げ」
「戻るな」
惣菜屋の店主が笑う。
「時間よりコロッケだな」
横で山田も笑う。
その時。
向こうの信号。
赤。
奏がちらっと見る。
沈黙。
「見るな」
「……」
「数えるな」
「……」
「やめろ」
「5」
「始めた」
信号。
青。
「ぴったり」
雄一はため息をつく。
奏はもう次の信号を見ている。




