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下町オールドクロック ― 白ジャージでだらけてる看板娘、時間を少しだけズラしてしまう時計店  作者: イシマ ヒロ
「人の時間」

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第四十六話 「商店街の昼休み」

 午後一時過ぎ。


 古針時計店。


 昼の客が途切れて、店の中は少し静かだ。


 壁の時計。

 ショーケースの時計。

 振り子時計。


 カチ。

 カチ。

 カチ。


 雄一はカウンターの奥で弁当の蓋を開ける。


 しゃけ弁当。


 その瞬間。


 横から手が伸びる。


 ひょい。


 コロッケが消える。


 顔を上げる。


 オフィスチェアに座った奏が、普通に食べている。


「まだ何も言ってない」


「味見」


「早い」


 飲み込む。


「今日いい」


「何が」


「コロッケ」


 弁当を見る。


 コロッケが一つ減っている。


 少し沈黙。


「……ちくわはダメだ」


「まだ取ってない」


「取る顔だった」


「判断が早い」


 奏の手が、弁当の上で止まる。


 ムッとする。


「交渉」


「成立しない」


 奏は自分の弁当を開ける。


 焼肉弁当。


 雄一の手が伸びる。


 即座に止められる。


「ダメ」


「なんでだ」


「焼肉」


「コロッケもコロッケだ」


「違う」


「何が」


「焼肉」


 沈黙。


「理不尽だな」


 奏は平然と焼肉を食べている。


 その時。


 ドアベルが鳴る。


 チリン。


 八百屋の山田が顔を出す。


「昼?」


「昼です」


「やっぱり」


 そのまま入ってくる。


 ショーケースを見ながら言う。


「ここ涼しいんだよな」


「空調」


「知ってる」


 カウンター横の椅子に座る。


 少しして。


 またドアベル。


 チリン。


 今度はサン薬局の店主。


 店の中を見回す。


「ここか」


「ここ」


「やっぱり」


 そのまま入ってくる。


「何ですかこの流れ」


「昼休み」


「昼休み」


「昼休み」


「店だぞ」


 薬局の店主は壁の時計を見ている。


「いいなこの音」


 オフィスチェアを少し回しながら言う。


「今日は振り子のテンポ」


 振り子時計。


 コツン。

 コツン。


 そのまままたドアベル。


 チリン。


 クリーニング白山舎の店主。


 店内を見回す。


「満席?」


「座れる」


「ならいい」


 そのまま入る。


「喫茶店じゃないんですが」


「分かってる」


「分かってる」


「分かってる」


「分かってる」


「分かってない」


 しばらく沈黙。


 みんな時計を見ている。


 カチ。

 カチ。

 カチ。


「やっぱいいな、ここ」


「落ち着く」


「時間ゆっくり」


「テンポ」


「またそれか」


 その時。


 ドアベル。


 チリン。


 三雲しおりが入ってくる。


 青いネームカードを首から下げている。


 店内を見る。


 沈黙。


 座る場所がない。


「……何ですかこれ」


「昼休みです」


「時計店ですよね」


「時計ある」


「いっぱいある」


「正確」


 焼肉を食べながら言う。


「看板娘いる」


「いない」


 三雲はしばらく店内を見回す。


 時計。

 人。

 時計。

 人。


 そして言う。


「……データとしては面白いですね」


「取らなくていいです」


 振り子時計。


 コツン。

 コツン。


 その時。


 奏が立ち上がる。


「コーヒーいる?」


 誰も答えない。


 少し考える。


「いるね」


 奥に行く。


挿絵(By みてみん)


 少しして戻る。


 紙コップを配る。


「ブラックのみ!」


「砂糖」


「ない」


「ミルク」


「ない」


「甘いの」


「ない」


「……合理的ですね」


「めんどくさい」


 奏はオフィスチェアに戻る。


 椅子をくるっと回す。


「昼はだいたいこんな感じ」


 雄一は弁当を見る。


 沈黙。


「……ちくわがない」


 コーヒーを飲みながら言う。


「成功」


「いつだ」


「さっき」


「見てない」


「だから」


「何が」


「成功」


 少し沈黙。


「ここ時計屋だよな」


「時計屋です」


「喫茶店じゃないよな」


「違います」


「でも落ち着く」


「……観測地点として優秀ですね」


 雄一は弁当を閉じる。


「昼飯が減る地点です」


 カチ。

 カチ。

 カチ。


 振り子。


 コツン。

 コツン。


 古針時計店の午後一時は、


 だいたいこんな感じだった。

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