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下町オールドクロック ― 白ジャージのだらけ看板娘・奏と、少しだけ時間が巻き戻る時計店  作者: イシマ ヒロ
「奏という日常」

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第三十九話 「帰還点」

 夜。


 閉店後。


 机の上には修理途中の置き時計。

 裏蓋は外され、内部が露出している。


 改造された懐中時計が中央に置かれている。


 雄一が小さく息を吐く。


「俺でも出来るか、試す」


 修理中の時計のネジを指で弾く。


 カラン、と床に落ちる。


 懐中時計を開く。


 パカっ。


 空気がわずかに整う。


「戻れ」


 ネジはそのまま床にある。


 端末を見ていた三雲が告げる。


「安定確認。復元なし」


 雄一が肩をすくめる。


「普通に落ちただけか」


 時計を閉じる。


 カチン。


 静かになる。


「やってみろ」


 懐中時計を奏に渡す。


 奏は修理中の時計を見つめる。


 一拍。


「この時計」


 パカっ。


 空気が薄く巻く。


 端末が反応する。


「二秒」


「戻す」


 カラン、と鳴った音が逆に滑る。


 ネジが床から跳ね上がり、

 露出した機構の元の位置に戻る。


 雄一も三雲も動いていない。


 時計の未完部分だけが巻き戻る。


 三雲が確認する。


「対象限定逆行。因果点復元」


「俺は動いてないな」


「因果単位です」


 ⸻


 雄一はネジを締める。


 キュ、と止まる。


 裏蓋を戻す。


 奏が懐中時計を開く。


 パカっ。


 何も起きない。


 三雲が告げる。


「反応なし」


「さっきは戻った」


「因果が閉じました」


「終わった」


 壁時計が刻む。


 カチ。


 三雲が続ける。


「例えば……建物は完成すれば因果が閉じます」


「建物を構成している部材も役目を終えれば完結します」


 一拍。


「ですが時計は違います」


「完成しても終わりません」


「刻み続けます」


「常に次を持っています」


「時間を測るために作られた装置は、時間に対して開いたままになります」


「未完を抱え続けるのです」


「だから未完にのみ逆行は適用できます」


 ⸻


 雄一が言う。


「俺が持てば安定するんじゃないのか」


 三雲は即答する。


「安定というか、増幅は抑えられます……といいますか、この懐中時計起因では何も起こりません」


「ですが、強い外部要因が発生した場合、復元はできません」


「外部要因?」


「瀬尾さん以外の視認。強い因果接触」


「因果が跳ね上がれば、戻せるのは瀬尾さんだけです」


「俺は?」


「均すことはできます」


「ですが、因果点までは戻せません」


 沈黙。


 雄一はしばらく黙る。


 奏は首をわずかに傾げる。


「……因果点?」


 雄一も同じ顔をしている。


 三雲は二人を見て、小さく息を吐く。


 そして端末を閉じる。


 一歩前に出る。


 姿勢を正す。


「――説明しましょう!!」


挿絵(By みてみん)


 店内に響く。妙に神々しい。


「声量どうした」


「急に神様」


 三雲は構わず続ける。


「古針さんが持てば安定します!」


「しかし復元は発生しません!戻れなくなるんです!」


「瀬尾さんが持てば、安定し、かつ復元が可能です!」


 一拍。


「以上です」


 沈黙。


「戻れテンション!」


 三雲は視線を逸らす。


 耳がわずかに赤い。


「戻りました」


「照れてる」


「照れていません」


 小さく。


「……必要でした」


 ⸻


 三雲は改めて言う。


「瀬尾さんは帰還点になります」


「増幅が発生しても、必ず戻せる一点です」


 雄一は少し考える。

 そして懐中時計を差し出す。


「んじゃ……持っとけ」


 奏は受け取る。

 少しだけ重い。

 ポケットに入れる。


 三雲が続ける。


「逆行距離は感情では決まりません」


「因果の密度と未完の範囲で決まります」


「どこまでだ」


「理論上は制限はありません」


 沈黙。


「もっとも」


「そこまで因果が開いた時計は、ほぼ存在しません。接触することも、まずないでしょう」


 鳩時計。


 ポッポ。


 奏はポケットから懐中時計を取り出す。

 

 パカっ。


「帰れる」


 鳩時計。


 カチ。

 カチ。

 カチ。


 揺れない。何も起こらない。


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