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下町オールドクロック ― 白ジャージのだらけ看板娘・奏と、少しだけ時間が巻き戻る時計店  作者: イシマ ヒロ
「奏という日常」

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第三十七話 「三回目の夕方」

 夕方。


 店は閉めたはずなのに、なぜか作業台の上が賑やかだった。


「来たぞ」


 雄一が段ボールを指で叩く。

 送り主は父。

 差出人欄にはいつもの筆跡。

 中身は大体予想がつく。


「変な時計?」


「十中八九な」


 奏は箱のテープを器用に剥がす。


 ぺり、ぺり、と音がする。


 蓋を開ける。


 中には緩衝材と、時計。

 置き時計、腕時計、懐中時計。大小混在。


挿絵(By みてみん)


 ざっと数える。


「……十個」


「多いな」


「普通に多い」


 一つずつ取り出す。


 タグが付いている。


 奏が最初の一つを読む。


「“進まない”」


「壊れてるな」


 次。


「“鳴らない”」


「壊れてるな」


 次。


「“重い”」


「時計だぞ」


「気持ち」


「やめろ」


 奏は笑う。


 さらに読む。


「“早い”」


「“遅い”」


「“戻らない”」


 雄一が止まる。


「それ嫌な予感しかしないな」


 奏は肩をすくめる。


「全部壊れてる」


「それは見ればわかる」


 二人で次々取り出す。


 緩衝材をどけ、並べ、軽く振り、裏返し、耳に当てる。

 カチ、と鳴るものもあれば、沈黙のものもある。


「親父、趣味悪いな」


「収集癖」


「送ってくるな」


 奏が最後の一つを取り出す。


 小さな腕時計。


 タグを見る。

 少しだけ首を傾げる。


「……そろそろ持っておけ」


「誰がだよ」


「書いてない」


「曖昧だな」


 奏は腕時計を軽く振る。


 カチ。


 音はしない。


 雄一は別の置き時計を裏返す。


「これゼンマイ死んでるな」


「全部死んでる」


 奏がタグを並べ直す。


「“重い”がある」


「あるな」


「重くない」


「知らん」


 笑う。


 ――その瞬間。


 壁の鳩時計が鳴る。


 ポッポ。


 雄一がふと顔を上げる。


 違和感。


 ほんの少しだけ。


 視界が揺れる。


 ⸻


 夕方。


 店は閉まっている。


 机の上には段ボール。


 雄一が段ボールを叩く。


「また来たぞ」


 沈黙。


 奏がこちらを見る。


「……うん」


 箱のテープを剥がす。


 ぺり、ぺり。


 蓋を開ける。


 中には時計。


「……十個」


「さっきも十個だったな」


 奏が止まる。


「さっき?」


「いや」


 雄一は腕時計を取る。


 タグを見る。


「“進まない”」


 奏は別のを取る。


「“鳴らない”」


 並べる。


 並べる。


 並べる。


「“重い”」


 雄一が眉を寄せる。


「なんか、配置違くないか」


「配置? 気のせい?」


 奏はそう言うが、指先が一瞬止まる。


 鳩時計。


 ポッポ。


 揺れ。


 ⸻


 夕方。


 店は閉まっている。


 机の上には段ボール。


 雄一が叩く。


「また来たぞ」


 今度は二人とも止まらない。


 同時に箱を見る。


「……三回?」


「たぶん……?」


 奏が深呼吸する。


「開けよ」


 箱を開ける。


 中の時計を並べる。


 数える。


「……十一個」


 沈黙。


「増えてるな」


「増えてる」


 奏がタグを見る。


「“軽い”」


 雄一が固まる。


「さっき“重い”だった」


 奏は黙る。


 “そろそろ持っておけ”と書かれた腕時計を手に取る。


 じっと見る。


挿絵(By みてみん)


 空気が、わずかに揺れる。


 鳩時計が鳴る。


 ポッポ。


 今度は最初から。


 雄一が言う。


「おい」


 奏は瞬きをする。


「……三十分、くらい?」


「戻ってるか?」


「たぶん」


 沈黙。


 机の上の時計が、わずかに震える。


 三つほどが同時にカチ、と鳴る。


 雄一が腕時計を見る。


「また何かやったか?」


「やってない」


 空気が歪む。


 その瞬間。


 ベルが勢いよく鳴る。


 カラン。


挿絵(By みてみん)


 三雲が早足で入ってくる。


 手には小型の端末。


 画面に細かな波形が走っている。


「……約三十分です」


「三十?」


「拡張幅が大きすぎます。通常域を越えています」


「そんなに?」


 三雲は箱と腕時計を一瞥する。


 端末の波形が跳ねる。


「瀬尾さん。これらの文字盤から視線を外してください」


「全部?」


「複数反応です。見ていますね?」


「見るだけで?」


「数値が上がっています」


 奏は腕時計を裏返す。


 コト。


「……これで?」


「まだ上昇しています」


 奏は一瞬考える。


「じゃあ全部」


 机の上の置き時計をひっくり返す。


 置き時計は文字盤が見えない方向にして懐中時計などは伏せる。


 壁掛け時計も文字盤を下に。


 箱の中の時計も、順に寝かせる。


 雄一も無言で手伝う。


 ガチャ、コト、パタン。


 机の上から文字盤が消える。


 最後に腕時計を箱に入れる。


 蓋を閉める。


 パタン。


 一拍。


 三雲の端末の波形が急激に収束する。


 彼女の呼吸が整う。


「……収束しています」


「全部伏せただけだぞ」


「見えなければ、静か」


「理屈は後で説明します」


 鳩時計の振り子が揺れる。


 ポッポ。


 今度は正しい時刻で。


 奏は箱を見つめたまま。


「三回、繰り返した気がする」


「気がする、か」


 三雲は端末を確認する。


「観測上も三回です」


 一拍。


「現在は安定域です」


 壁時計。


 カチ。


 静か。

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