第三十六話 「広告が本編」
商店街のアーケード下。
廃品回収の軽トラ。
古新聞。段ボール。壊れた空気清浄機。
その横に、紐で縛られた雑誌の束。
表紙は擦れ、角が丸い。
裏に理髪店のスタンプ。
「……ある」
白ジャージが止まる。
しゃがむ。
「これ絶対、向かいの理髪店のやつ」
「分かるのか」
「裏にスタンプある。あと、この折れ方は待ち時間」
銀髪が揺れる。
「回収だぞ」
「まだ読めるし、まだ熱ある」
「熱?」
「ページ冷めてない」
意味が分からない。
一冊抜く。
家電特集。
「この頃の記事、いい」
「何が」
「盛りすぎてない。静か」
ページをめくる。
「ネットで読めるだろ」
「読めるよ。全部読める」
「じゃあいいだろ」
「でも雑誌は重い」
「物理的にな」
「違う」
広告ページで止まる。
「……あの頃のMacBook、白だった」
「今も白あるだろ」
「違う。今は金属。素材が主役」
即答。
「お前、その頃まだ生まれてないだろ」
「うん」
あっさり。
「体験談みたいに語るな」
「雑誌で予習済み。白の系譜は追える」
「系譜言うな」
広告をなぞる。
「ライターの魂ある」
「記事だろ」
「広告も含めて雑誌」
即答。
「広告もか」
「広告は本気。
売らないと終わるから、言葉が太い」
コピーを指で追う。
「記事より広告の方が熱い時ある」
「営業だぞ」
「だから熱い」
真顔。
「締め切りも、お金も、覚悟も全部乗ってる」
「今はサブスクで読める」
「便利。最高」
「だろ」
「でも広告なかったりする」
「削られてるだけだろ」
「そこ削ると温度下がる」
ページを閉じる。
「広告ないと、ちょっと物足りない。
時代が半分になる」
「大げさだ」
「売り文句があると空気が分かる」
雑誌を抱え直す。
「雑誌は全部で雑誌」
さらに束をほどく。
「おい」
「まだ見てるだけ」
理髪店の親父が遠くから言う。
「持ってくなら持ってけ。入れ替えだ」
「許可出た」
「お前が交渉したわけじゃない」
ファッション誌も混じる。
「それも読むのか」
「読む。流れは把握する」
「着ろ」
「管理が増える」
「何の」
「服の選択肢」
即答。
「白ジャージは全部通せる」
「無理だろ」
「冠婚葬祭以外は全部通せる!」
断言。
「理髪店も、電車も、役所も、展示会も、打ち合わせも。
白は大体いける」
「葬式は」
「黒。そこは守る」
別のページ。
“白いたい焼き特集”。
「あったねこれ」
「食べたのか」
「食べた。並んだ」
「どうだった」
「ビジュは良かった。完璧」
「味は」
「タピオカ成分でちょっと重い。
もちもちしすぎ。白は軽い方が好き」
「好きそうなのに」
「白は好き。でも食感は別」
ページを閉じる。
「白いだけじゃ通らない」
「厳しいな」
「七十五点。見た目ボーナス込み」
「細かい」
最終的に四冊。
「溶ける前に読む」
「溶けないだろ」
「溶ける気がする」
抱え直す。
「読まれた跡も好き。
角が丸いと、ちょっと安心する」
「理髪店でめくられた跡だろ」
「うん。それも含めて雑誌」
俺は一冊受け取る。
ぱら、とめくる。
後ろの時計広告。
古い機械式。
“永く刻む。”
大げさだ。
だが逃げ場はない。
紙にして出している。
俺はもう一度、その広告を見る。
ページの端が柔らかい。
誰かがめくった跡。
「重いでしょ」
横で白ジャージが言う。
「……四冊までだ」
「増えてない?」
「今増やそうとしただろ」
商店街の廃品を抱えて、
俺たちは店に戻る。




