第二十四話 「奏が世界を統べる(後編)」
「この世界はどうだ?」
奏は玉座の上で足をぶらつかせ、薄ら笑いを浮かべた。
炎は静かに揺れている。
階段の下では、整列した連中が瞬きもしない。
商店街は滑らかだ。
コロッケは待たずに出る。
軽トラは最初から端に寄っている。
値引きは迷わず始まる。
誰も立ち止まらない。
誰も迷わない。
「楽だろう?」
奏が言う。
雄一は階段を見下ろした。
「……魚屋の親父は?」
「時間ぴったりに店開ける」
「八百屋の立ち話は」
「三十秒以内」
「惣菜屋の世間話」
「要点だけ」
「軽トラ」
「最初からいない」
炎がまた揺れる。
「……それでお前は」
「暇」
即答だった。
奏は玉座の肘掛けに頬を預ける。
「誰も引っかからないから、触るとこない」
階段の下で整列している連中は、
命令待ちのまま固まっている。
「コロッケ、もう少し焦げてもいいと思うんだけど」
「焦げない」
「軽トラ、あれ邪魔だけど、ちょっと面白いよな」
「邪魔だから消した」
「魚屋の親父、時間守らないだろ」
「守る」
静かすぎる。
商店街に、声がない。
迷いも、揉め事も、
立ち話の遠回りもない。
奏は足を止めた。
「……つまんないね」
炎が一つ、消えた。
階段の下の列が、わずかに揺らぐ。
「楽なんだけど」
もう一つ、炎が消える。
「楽すぎると」
奏は、玉座の背にもたれた。
「やること、ない」
静寂が、わずかに軋む。
遠くで、誰かが立ち止まる。
商店街の端で、
軽トラが道の真ん中に寄る。
惣菜屋から、笑い声が長く漏れる。
「……あ」
奏が小さく言った。
炎が、ぱちりと消える。
「やっぱ、これでいい」
指を鳴らす。
――音が戻る。
時計の針が鳴る。
クラクションが遠くで鳴る。
誰かが「ちょっと待って」と言う。
雄一は飛び起きた。
天井。
時計の音。
店内。
カウンターに、白いジャージ。
あぐら。
雑誌。
「……変な顔」
奏がページをめくりながら言う。
「お前が世界征服してた」
「しない」
即答。
「めんどい」
少しだけ間を置いて、
「それより」
奏は顔を上げる。
「今日、魚屋混むよ」
「なんで」
「なんとなく」
外から、声がする。
「軽トラどけろー!」
惣菜屋の笑い声が長い。
雄一は、少しだけ息を吐いた。
「……そのままでいい」
「何が?」
「いや、なんでもない」
奏はもう雑誌に戻っている。
時計の針は、ほんの少しだけズレている。
そのままだった。




