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下町オールドクロック  作者: イシマ ヒロ


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第十九話 「強制仕入れ(前編)」

朝、店を開けた瞬間。


「……は?」


 雄一は、シャッターを半分開けたまま固まった。


 箱。

 箱。

 箱。


 店先から工房まで、

 大小さまざまな木箱と段ボールが、隙間なく積まれている。


挿絵(By みてみん)


 「……奏」


「うん」


 一緒に開店準備をしていた奏が頷く。


「これ、昨日は無かったよな」


「無かったね」


「心当たりは?」


「ない(即答)」


 そのとき、背後から声がした。


「お届け物です」


 振り返ると、宅配便のドライバーが立っていた。


「古針時計店さんで間違いないですね?」


「あ、はい……」


「ではこちら」


 ドライバーは淡々と、2トントラックから荷台から箱を下ろし始めた。


 段ボール。

 また段ボール。


 量に対して、動きに迷いがない。


「……まだあります?」


「あります」


「どれくらい?」


「チャーター便なので……」


「まじかよ……」


 最後の一つを下ろし終え、

 伝票が差し出された。


 送り主欄は、親父。


「……奏」


「時計だよね?」


「だろうな」


 ドライバーはそれ以上何も言わず、

 一礼して去っていった。


 店に残ったのは、

 静まり返った箱の山だけだった。


 そのうちの一つが、

 カチ、と小さく鳴った。


「……あるわ」


「あるのかよ。ある意味時限爆弾。」


 箱の側面には、すべて同じ字で書かれていた。


 古針雄一 様

 取扱注意

 ※時間関係あり


「親父……」


 奏が、箱を指で軽くつつく。


「旅立つ人がやることじゃねぇだろ」


「重いし」


「理由が雑すぎる」


 最初の箱を開けた瞬間。


 カチ。


 店内の時計が、一斉に逆回転した。


「うわああああ!」


「ほら」


「ほらじゃない!」


 次の瞬間、シャッターが音を立てて閉まる。


「……開店前?」


「15分くらい前だね」


「朝を返すな!」


 そのとき。


 店奥のリビングから、


 ポッポー!


 普段より一段大きな音で、鳩時計が鳴った。


 奏がそちらを見る。


「鳩時計、うれしそう」


「何にだよ……」


 二つ目の箱。


 開ける。


 ピタ。


 今度は、すべてが止まった。


 秒針の音が消え、

 工房に不自然な静けさが落ちる。


「……静か」


「静かすぎる」


 箱の中身は、

 壊れてはいない。


 完成しているとも言えない。


 ただ、何を触ればいいのかだけが、分からない。


「父さんさ……」


 雄一は、箱を見下ろしたまま言った。


「こういうの、どう扱わせるつもりなんだよ」


「任せてるんじゃない?」


「丸投げかよ」


「丸投げだね」


 ドアベルが鳴った。


「……失礼します」


 三雲だった。


「今朝、商店街の時計が

 一斉にズレたって連絡が来て――」


 やっとの思いで店内に運び込んだ箱の山を見て、言葉を止める。


「……」


 眼鏡を押さえ、工房を一周見回した。


「一応、確認します」


「はい」


「これは、何ですか?」


「父の置き配です」


「……もう、お父様はいないのですか?」


「外国のどこかですね……日本にはいないと思います。」


 三雲は一瞬だけ目を伏せた。


「そうですか」


 腕時計を見る。


 針は、動いていなかった。


「私のも止まってますね」


「すみません……」


「いえ」


 息を吐く。


「今日は“観測外”にします」


「助かります」


「ただし」


 三雲は、箱を一つ指で叩いた。


「危険度が高そうなものは、

 後で回収します」


「……いくつ?」


「見てから決めます」


 奏を見る。


「無茶は、ほどほどに」


「それ、昨日も言われた」


 三雲は少しだけ困ったように笑い、

 店を出ていった。



 工房の奥。


 箱の底から、封筒が出てきた。


追伸


使えるものと、

使えなかったものが混じっている。


捨てるな。

分解しろ。

学べ。


「……勝手すぎだろ」


「らしいね」


 雄一は箱を見回す。


 どれも、

 普通の修理台に乗せると、

 順番が狂いそうな物ばかりだった。


「……今日は、触らない」


「うん」


 奏はあっさり頷いた。


「判断、正しいと思う」


 箱は、そこにある。何も解決していない。


 だが――

 準備だけは、揃ってしまった。何の???

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