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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

華麗に去る老人スパダリの話

作者: 山田 勝

「婚約破棄をする。アリーシャ、愛すべき義妹メロディをいじめたな」

「ヒィ、お義姉様、こわいわ」



 ほほ、婚約破棄が始まったのう。もう、そんな季節か。

 ワシはゼム爺さんじゃ、引退した爺さんじゃ。


 朝の散歩をしていたら公爵家の庭に入ってしまったらしい。

 既に3時間散歩をしておるのじゃ。


 道に迷っていたら人だかりがする。パーティーらしい。

 帰り道を聞こうとしたら婚約破棄が始まったのじゃ。

 良いのう。


 と見物していたら何か違う。


「ロ、ロメリオ様、私はメロディに貴族令嬢としての作法を教えただけですわ」


「メロディは平民出身、メロディの前でこれ見よがしにダンスを披露してのだって?見せびらかすなんて何て嫌らしい女なんだ!」

「手本ですわ」

「それがイジメだ!」



 スパダリは?ここでスパダリが出てくるハズなのに、時間が経ってもスパダリが出てこない。


「公爵家はメロディが継ぐ。既に公爵閣下も承認済みだ」



 ワシは人だかりの中をかき分けて、ロメリオとかいう奴を一喝した。



「な、何じゃ!最近の婚約破棄はなっておらん!ワレ、婚約破棄する方が家督を継ぐのか?逆じゃ」


 ワシは説明した。本来、婚約破棄は若者の最後の手段じゃ。



 いいか、若いの。婚約破棄というものはな。

 親が決めた婚約、しかし、どうしても結ばれたい相手がいる。


 その時はな。馬鹿貴公子、男爵令嬢、悪役令嬢、スパダリ、それぞれの役になりきり。

 事前に調整をして、役に徹して親の前で婚約破棄をぶちまけるのじゃ。


 悪役令嬢にはスパダリ、馬鹿貴公子は男爵令嬢、それぞれ番と一緒になるための一世一代の大芝居じゃ。


 ワシは王女との婚約を破棄して幼なじみと結婚したから馬鹿貴公子役じゃった。

 今はスパダリ役かのう。



「まさか、ロメリオとやら、本気で婚約破棄をしているのかのう!最近の若い者はなっておらんのじゃ!」


「な、何だ、この爺さん!」

「キャア、怖い」



 杖を振り上げて殴りかかろうとしたら、取り押さえられたのじゃ。


 そしたらな。ロメリオとかいう奴が言うのじゃ。


「このクソジジをつまみ出せ!」


 な、何じゃと、ワシをクソジジじゃと。


「フン!」


 と力を込めて家来達を吹き飛ばしたのじゃ。


「クソジジと言うたな!ワシの昨晩は鰯のパイを食べたのじゃ!」


「な、何だ。このジジ!力が強い!」


「これを見るのじゃ!」


 ワシは、住所と名前が書かれている札を取り出したのじゃ。


 曾孫のソフィが心配して作ってくれた名札じゃ。首にかけているのじゃ。


 それじゃない。あれ、あれ、と服を脱いで探したのじゃ。



「うわ。この爺さん!裸になった!」

「キャアー!気持悪いわ!」



 風もないのにブランブランじゃ。

 そうじゃない。あった。


 勇者即決裁判記章じゃ!


「これを見るのじゃ、ワシは勇者ゼムじゃ!」


 そしてな。

 ロメリオとかいう輩を成敗したのじゃ。


「オラ、オラ、オラ!婚約者を大事にせんかい!ボケ!」


「ヒィ、助けて!」


 昔は良かったのう。

 剣聖ハンス

 女賢者マリーナ

 聖女サユリ

 にポーターとしてついて来たワシの幼なじみ。フラワ。ワシの嫁になったのじゃ。

 皆、逝ってしもうた。

 ワシ、1人生きているのじゃ・・・


「グスン、グスン」


「うわー、あの爺さん。泣きながら暴れている!」

「情緒、不安定だ!」




 ☆公爵邸


 ゼム爺さんの襲撃の報は公爵に届けられた。


「何だと、勇者即決裁判記章を持っている老人が乱入した?」

「本当でございます」



 勇者、勇者パーティーの旅は魔族だけが敵ではない。不良冒険者、暴虐貴族たちが勇者の旅の邪魔をする。

 その際、いちいち裁判をしていたら勇者の旅が滞る。


 故に勇者は自分で裁く権限が与えられた。それを示すのが勇者即決裁判記章である。



「もう、最後の勇者パーティーから50年以上前の話だぞ!」


 と公爵は急行したが、確かに裸で暴れている爺さんがいた。

 護衛騎士は伸び。

 愛する愛人の子はブルブル震えている。


 公爵は説得を試みた。



「ゼム殿!お金を差し上げるから、どうか、お止め下さい。貴方には未来があります!お金で楽しく過ごして下さい!」


 すると、ゼム爺さんは怒りまくる。



「はあ!もう、未来がないのじゃ!ワシは病弱じゃ!ボケ!」



 と公爵自慢のカイザーヒゲを引き抜いて、転がして蹴り始めた。



「ボケが!長子相続やろうが!お前がしっかりしていないからこうなるのじゃ!」


 すると、アリーシャの義母、元愛人が駆けつけた。


「野蛮だわ!裸のジジ!をつまみ出しなさい!」


 すると、ゼム爺さんは公爵の元愛人、アリーシャの義母にもつかみかかった。


「お前も若い者からみたらババじゃろが!」


 その時、アリーシャが前に立ち塞がった。


「・・・勇者ゼム様、どうか気持をお静めて下さいませ・・・・助太刀はうれしいですが・・・私の問題です。勇者即決裁判記章はこのようなことに使うためのものではございませんわ」



 ゼム爺さんは、「うむ」とだけ言って、そのまま背中を見せて去った。





 ☆☆☆



 ワシは家に帰ったのじゃ。

 ワシは魔王討伐した後に、王女と結婚せよと王命が来たが、ワシには幼なじみがおったのじゃ。王女には好いた相手がおった。


 故に王の前で大芝居を打って婚約破棄をしたのじゃ・・・


 昔を思い出すのじゃ。



 曾孫のソフィが、プンプンして待っておったのじゃ。


「大爺ちゃん!遅いよ。朝の・・・・・お、おじいちゃん!裸、裸!」


「はて・・・はっ、服を公爵邸に置き忘れたのじゃ!」



 それからじゃ、曾孫のソフィが優しくなったのじゃ。


「お、大爺ちゃん。一緒に散歩行こう!」


「ほお、最近は嫌がったのにのう・・・グスン」


 昔は『大爺ちゃん。大しゅきー』と言ってくれたが、年頃になったら冷たくなったが、また、お爺ちゃん子に戻ったのう。


「ねえ。大爺ちゃん」

「何じゃ。ソフィ、お人形でも欲しいのかのう。買ってやろうかのう」

「もう、そんな歳ではないわ。それよりも、最近、評判な回復術士さんがいるのですって、一緒に行かない?」


「何じゃ、ソフィ、どこか悪いのかのう」

「うん。ついでに大爺ちゃんも心配だから・・・診察して欲しい」


 と行った先が、心の回復術士じゃった。ソフィ、心の悩みでもあるのかのう。心配じゃ。

 列が出来ておる。評判じゃのう。



 ガヤガヤ~と噂話が聞こえて来たのう。


「聞いたか?セオドア公爵家のお家騒動」

「聞いた。裸の爺さんが乱入したのをアリーシャ様が説得して帰らせたそうよ。それで皆の心を掴んだそうだわ」

「更にアリーシャ様は貴族院に訴えて、家督を継いだそうだよ」

「公爵はヒゲを抜かれて部屋に閉じこもっているらしい」

「愛人母子は市井に帰されたのだって」


 ほお、あの娘、やったのか?


 なら、ちょいと見に行くか?


「ソフィよ。ワシは用事が出来た。今日はソフィだけ診てもらうのじゃ」

「ダメ!」


 とソフィはワシの腕を掴んだ。


「大爺ちゃんも絶対診てもらうのだから・・」


 そうか。愛されるのも辛いな。

 まだ、まだ、長生きするぞ。100歳まで後何年じゃ。


 あれ、ワシは78歳じゃったかのう。それとも87歳じゃったか・・・


 ソフィに聞くかのう。


 その後、ゼム爺さんは三軒回復術士を回ったが、歳の割には元気であるとの診断結果であった。


 ソフィはゼム爺さんが元勇者であることを知らない。服を脱いだ顛末を知るのはもう少し先だ。

 後に女公爵になったアリーシャがお礼も兼ねて服を返しに来たので判明をした。


最後までお読み頂き有難うございました。

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