ある国が崩壊した理由
私の故郷である国が地図から消える事が国際会議で決定したらしい。
その記事が書かれている新聞を見て私はため息を吐いた。
「やっぱり、こうなったわね……」
故郷が消える、と聞いても特に感慨深い物は無くこの様な末路を迎える事はなんとなく分かっていた。
分かっていたから私は全てを捨てて遠く離れたこの国にやって来たのだ。
その記事を読んだ次の日、私は役所から呼び出しを受け行ってみるととある個室に案内された。
「急に呼び出してすまないね」
「いいえ、多分こうなるだろうな、と思っていたので」
個室にいたのはこの国の王子であるリヨン・フラーベル様だ。
「知っている通り、貴女の故郷であるクニョン王国は地図から抹消される事になった」
「もう国として機能されていなかったからですね」
「あぁ、調査員が行ったらしいが街には人の姿は無く王城にも兵士や貴族、王族の姿は無くあったのは白骨だけだった……、何故、あの様な事になってしまったのか、もしかしたら今後我が国も似たような事になるかもしれない、そうならない為にも出来る限りの情報を得たいんだ」
「それで私が呼び出されたんですね?」
「そうだ、貴女は元々は公爵令嬢で王太子とは婚約関係を結んでいた、それなのに何故我が国にやって来たのかずっと疑問だった」
そうですよね、気になりますよね。 でも話しても多分信じてもらえない、と思っていてタイミングを計っていたんですよ。
「多分、私は王子が知りたい情報を知っています。 それには我が国の王族に関する風習、私からすれば悪習についてお話しなければなりません」
「悪習?」
「はい、かなり昔の話になりますが当時の王太子が婚約者との仲を深める為にある計画を思いついたんです」
「ある計画とは?」
「殿下は恋愛小説をお読みになりますか?」
「いや、読んだ事は無いが妹達が読んでいるのは見た事がある」
「大体内容は決まっています、ヒロインがヒーローに恋をする、でもヒーローには既に婚約者がいて、婚約者であるライバルはヒロインにいじめや嫌がらせをしてくる、様々な障害を乗り越えヒロインはヒーローと絆を深めていく、最後にはヒーローはヒロインに嫌がらせをしていた婚約者を断罪しヒロインとヒーローは結ばれ幸せになる、そんな話です。で、当時の王太子はこの恋愛小説を参考にしたんです」
「恋愛小説を参考にした?」
「つまり、当時の身分の低い貴族の中から令嬢を1人ピックアップして王太子と側近達がチヤホヤするんです、そうして婚約者が嫉妬するかどうかを試したんです、基本的に王妃教育を受けた令嬢は如何なる時でも隙を見せる事は出来ませんからね、婚約者の人間的な部分が見たかったんでしょう。で、この時たまたま上手くいったのがきっかけで『愛の試練』と呼ばれ王家に纏わる風習となったんです」
「結局、王太子は婚約者と結ばれたのか?」
「はい、ただそうなると被害を被る人物が一人いますよね?」
「ヒロイン役となった令嬢か?」
「えぇ、ヒロインからしてみたら『私って愛されてる!』と錯覚してしまいますよね、でも実際はただの遊びだった、と気づいた時の彼女達の想いがどうかと言えば……、ただ相手は王族ですから文句を言う事も出来ず泣き寝入りするしか無く……、中には絶望して自ら命を落とした者もいるそうです」
「という事は貴女も愛の試練を受けた、という事になるのか?」
「はい、私は『愛の試練』に反対でした。 王太子にも止める様に散々言ったんです。 でも『風習だから』、『本気じゃないから』と言われました、その時点で私の中の王太子の好感度は冷めていきました」
「まぁ、王家の信頼度に関わる事案だからな、例え表に出なくても内心不満を持っている者もいただろう」
「えぇ、特に男爵等の下位貴族達は娘が選ばれない様に祈ったり娘に『王族に近づくな』と口を酸っぱく言っていたようです」
「それはそうだろうな」
「でも、ある令嬢が現れた事で事態が一変する事になります」
「ある令嬢?」
「はい、彼女は美人で何処か虚ろ気な感じがしました。 当然、王太子に目をつけられ彼女はヒロインになりました。 ただ私は彼女に関して違和感を感じました」
「その違和感とは?」
「当時は『近づかない方が良い』、『普通の人ではない』と思っていました。 そもそも彼女が名乗っていた家名が貴族名鑑に載ってなかったんです」
「平民が偽って入って来たのでは無いか?」
「だとしたら身分詐称で逮捕されます。 でも、彼女の事を疑問に思う生徒は私以外いなかったんです」
「教師も気付かなかった、という事か? それは確かにおかしいな」
「えぇ、ですから私は調べました。そして、彼女の正体がわかったんです。 彼女の正体は『怨霊』だったんです」
「怨霊だって?」
「はい、彼女は愛の試練で犠牲になったヒロイン役をやらされた令嬢達の無念や王家に対する恨みや憎しみが重なり具現化した存在だったんです。 その事を知った時に私は『国が滅びる』と思ったんです。 実際、彼女と接するようになってから王太子は痩せ細り生気が無くなっていきました……」
当時を思い出すと本当に見てられない状態だった、しかも本人は全く気づいていなかった。
多分、幻想を見せられていたんじゃないか、と思う。
「それで、貴女は国を出る決心をしたのか」
「はい、相手は怨霊ですからね、立ち打ちなんてできませんから、荷物を纏めて国を出ました」
「家族には話さなかったのか?」
「残念ながらその時には生徒だけでなくその親にも影響が出ていて……、私の話なんて聞いてくれない状態でした」
「そうか……、怨霊の力というのは怖いな」
「えぇ、ですから婚約者を一途に大事にしてあげてください」
「貴女の言う通りだ、肝に銘じておくよ」
私は話を終えて役所を出た。
その後、元母国は結界が張られ立ち入り禁止となってしまった。