口の中に入るケーキはいつも甘ったるい
瞬くと、アスファルトと同じ色の曇り空が、視界の端まで広がっていた。
駐車場には様々な車が規則正しく並んでいる。
小一時間、窓を開け放った車の中でぼんやりと代わり映えしないそんな風景を眺めていた。
なんとなく、何も考えない時間が続いたな、と感じ、そんな考えも久しぶりに頭に思い浮かんだものだと気付いた。
これはいかんと身震いして、何かを作ろうと心に決めてスマホと睨めっこしてみるものの、何かを書こうと思ってからすんなり良いアイデアが浮かぶ筈もなく、ただただ時間だけが進んでいった。
良く書けていた頃のことを思い返してみると、日常の中の些細な出来事や言葉や、ワンフレーズだったり言い回しを常に探していたように思う。
心に網を張って引っ掛かったそれらをもとに物語を作りだしていた。
それがどうだろう、目まぐるしく過ぎていく日常をやり過ごすことばかり上手くなり、いつしか書くことから遠ざかり、仕舞いには何かを生み出すことも出来なくなっている。
曇天は晴れるでも、崩れるでもない空を保っている。
何かを書かなければならないのか?
書きたいことを見つけるのが、先か。
それとも、情熱を取り戻すのが先なのか。
どうすれば良い。
駐車場には続々と車が乗り入れ、また去っていった。
「パパ、待った?」
前触れなくドアが開かれ、息子が乗り込んでくる。
自動的に車を発信させる。
「パパ、どっか寄る?」
子供は後部座席から顔を出す。
特に何も考えていなかったし、何もないので家路につく。
長い信号待ちに意味もなく苛立っている自分に、何もないくせに、と心の中で皮肉ってみる。
子供に不機嫌な様子を悟られない自信はあるが、何に対しての感情なのかは見つけられない。
「ホントにどこにも寄らないんだ?」
「なんで? どっかいきたい場所でもあるのか」
いつになく食い下がる息子を何とはなしに窺う。
「だって今日、パパ誕生日でしょ」
そう言われてはじめて確かに今日が自分の誕生日であることに気づいた。
「じゃ、ケーキでも買うか」
感情もなく条件反射的にそう応える。
年を取ることや、自分の年に興味が失せて久しい。
自分が何歳かも断言できない。
でも、そんな自分のことを気にかけてくれる人が一人でもいてくれたなら、まあいいか。
家に戻って妻もささやかなケーキを用意していて喧嘩になってしまったが、まあ、それなりに日常が送れているわけだし、そこそこ幸せか。
結局、何が言いたいんだ。
何かを生み出さなくても良いってことか?
そんな訳ではないけど、それはそれとして時間は流れていくし、口に入れたケーキはいつも甘ったるいものだという考えに至った。